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拝啓、異世界転移しました。  作者: 空渡 海
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第8話 いざ王城へ

_ _ _ _ _ _

 





 ライラ=ファルシオン。獣狼の里で生まれ、村きっての神童として有名になる。15の時に里を出て冒険者になったときに銃と出会い、銃使いとしての才能が開花する。人族と組んでいたパーティを解散した後は一人で世界を放浪し、最終的に流れ着いたラグレシア王国に移住する。職探しのついででラグレシア国軍に入軍すると、元の才能と冒険者時代の経験を生かして異例のスピードで出世し、あっという間に王直属軍軍団長、三英傑の一人となる。しかし五年前の戦争で戦線に出て以来消息不明、終戦後に国から正式に死亡が発表された。

 前線で戦死。そのはずだった。

 



_ _ _ _ _ _





「ライラ!?お前どうして生きている!?」

「おおロベルトか。久しぶりだな」

「久しぶりっておま、死んだんじゃないのかよ!」

「ああそれな。そりゃあのジジイの嘘だ」

「んな......というかお前、国王をジジイ呼ばわりするんじゃない」

「へーへー」

 

 展開が急すぎてついていけない。この世界の人はテンポが速いんだよなあ。今の会話をざっくりまとめると、ロベルトは何らかの事情でライラのことを死んだと思っていた。だけど生きていたからびっくり、とこんな感じか。

 あ、それでさっきシズとライラが不自然な会話をしていたのか。シズも最初はライラは死んだと思っていた、だけど夢見の加護で俺とライラが一緒にいるとこを見てライラが生きていることを知ったんだ。成程なあ。どんな事情があるかは後でライラに聞いてみよっと。


「こんなとこで話し込むのもあれだし、折角なら王城に行こうぜ。私もジジイに話があるし」


 とライラが提案する。王城!その単語だけで興奮する。人生で一度は行ってみたい場所だな。


「そうしよー!」

「ま、そっちの方が早いか」


 と皆の意見が一致したところで部屋を出て四人で王城に向かう。ロベルトが連れてきた憲兵さんたちは黒の爪たちの捕獲で忙しそうだったから置いてきた。


「なあライラ、なんでお前は死んでいると思われてたんだ?」


 王城に向かう途中で聞いてみる。


「ああ、それはな_____」


 ライラからざっくりと説明を受ける。なるほどねえ。そういえば昼間ロベルトがそんな話をしていた気がする。惜しい人を失くしたとかとか何とか。それはライラおことだったんだな。そういえばちょくちょく出てくる三英傑ってのが気になるな。ライラとロベルト、あと一人は誰なんだろう。


「それよりお前、なんで死んだふりなんてしてたんだ?」

「あのジジイ直々の命令だよ。一応魔王軍の動向を探るためってことになってるけど正直お前たちにすら教えないってのはやりすぎだよな」

「いや、クライン様ならやりかねんな。お前特に気に入られてるし」

「あいつはただの獣耳好きなだけだろ」

「まあ、そういえばそうだな」


 今の会話で俺の中のクラインのイメージがなんか壊れてきてるんだが。国王ってもっと威厳のある人物じゃないのか?今のままだとただの獣耳好きのおじいちゃんになっちゃうぞ。


「そういえばライラは普通に街中を歩いていたけど大丈夫なのか?」

「ああ、認識阻害の術式を張ってるから大丈夫だ。よほどの実力者じゃない限り私だとは気づかないだろうよ」


 この人はさらっと凄いことをするよな。変身だとか認識阻害だとか。だんだん感覚が麻痺してきてライラならアリかという気持ちになってきたぞ。慣れって怖いな。


 高級そうな家が建ち並ぶ地区を抜けたらすぐそこに王城に架かる橋があった。いよいよ入るんだな。......というかそもそも俺は入れるんだろうか。この国と直接的な関係は持っていないが。


「僕がいるから大丈夫だよー」


 俺の心を見透かしたようにシズが言う。それならいいか。安心してシズに任せよう。

 橋を渡ると大きな門があった。両サイドには門兵がいる。


「シズ様、お帰りなさいませ。そちらの方は?」


 門兵の一人が駆け寄ってくる。


「僕の友達だよ」

「了解しました。国王様にはあまり迷惑をかけないようにお願いします」

「分かってるてー」


 と意外にもあっさりと通された。第三者をこんな簡単に通せるなんてやっぱり王子の権力は高いんだな。大きなドアが開いて王城に入る。中は思ったとおりの作りだった。調整ミスのように明るいフロアの中央には大階段。おそらくこの上に国王がいるのだろう。


「ちょっとここで待っててね。お父さんに話をしてくるから」


 そう言ってシズは小走りで二階に上がっていった。


「ここに来るのも久々だなライラ」

「いや、私はジジイに定期報告するために定期的に来てるぞ」

「あ、そうですか」

「それにしてもお前、なんで軍を辞めたんだ?」

「まあ色々と事情があるんだよ」

「ふーん」


 とそんなこんなで話を積もらす二人。ここはそっとしておこう。

 シズが戻ってくるまでこの辺を歩いて回っておく。軽く散策できる程度にここは広い。大階段を中心に左右に広がっている廊下には高そうな壺や絵画が等間隔に並べられている。専門的なことは全く分からないがなんとなくいい感じはする。

 見ている最中に何人か使用人とすれ違って『誰だお前?』的な顔をされたが気にしない。というか完全に赤の他人でもその程度なんだな。この城の警備は大丈夫なのか?


 と、そんなこんなしているうちにシズが戻ってきた。


「準備できたよー。さあ行こう」


 シズの合図で皆階段を上り始める。冷静に考えれば凄い状況だよなこれ。この世界に転移してまだ三日しか経ってないのに大国の王に会おうとしているのだから。さすがにちょっと緊張してきた。無礼のないように隅っこで大人しくしておこう。

 階段を登りきると目の前が開けた。王の間についたらしい。大きなシャンデリアに赤いカーペット。そしてその向かう先に堂々と座る初老の男性。間違いない。ラグレシア国王クライン=ラルトだ。左右にはそれぞれ鎧をつけた護衛らしき人がいる。こっちは銃やら剣やら持ってるのだがそんな薄い守りで暗殺とかは大丈夫なのだろうか。やはり色々と心配になる。


「お久しぶりです。クライン様」


 まずはロベルトが先陣を切る。


「久しいなロベルトよ。息災でおったか?」

「はい。おかげさまで」

「それはよい。それで、今日の要件は?軍に戻ってくるのか?」

「いえ、本日は私のことではありません。このライラのことです」

「よっ、久しぶり」


 後ろからライラがひょっこりと出る。


「ライラ、お前のその言葉遣いはどうにかならんか」

「ならないねえ。敬ってほしかったら普段の言動を直すんだな」


 一国の王相手に普段通りの口調で話すライラ。凄いな。ロベルトでさえかしこまっていたのに。


「よく言うわ。それで?今日は何の用だ?」

「まあ、色々情報が集まったからその報告だな。今回は大きく分けて二つ。魔王復活の兆候が見えたことと、それに対抗する転生者が現れたことだ」

「なんと!転生者が現れたか!?」


 多分俺のことだろう。なんかここまで騒がれるとちょっと嬉しいな。


「紹介しよう。ハヤテだ」


 紹介されたからには前に出ないわけにはいかない。ライラたちと重ならないように一歩前に出る。


「初めまして。黒崎ハヤテです」

「おお、お前がかの転生者か。シズから話は聞いておったぞ」


 なんと既にシズから情報は入っていたようだ。


「転生者が来たということは魔王復活も近いんだな、ライラ」


 ロベルトが横から入る。


「その通りだ。最近魔族の連中が騒いでやがる。魔王がもうすぐ復活するってな。そしてそのタイミングでハヤテが来た。まあ間違いないだろうよ」

「うむ、きたるべき日は近いというわけだな」

「ああ。おそらく半年後、遅くても一年以内にはと見込んでいる。それまでにハヤテを鍛えておかなくてはいけないな。な、ハヤテ」

「は、はい!」

「おおそうか。なんなら我が軍に入るか?立派な兵士にしてみせようぞ」

「いや、結構だ。なにせこいつは魔法の使えない体質でな。ガンナー以外選択肢がないのさ」

「それはなんとも不便な体よのお。まあよい、そこはお前に任せるとしよう」


 なんか勝手に話が進んでいる。まあいいんだけどな。俺も最初からライラの弟子になるつもりだったしな。


「あ、おとーさんそういえば鑑定眼持ってたよね?ちょっとハヤテ兄の指輪見てくれない?」


 今まで沈黙を貫いてきたシズが喋った。というか変な呼び方されている。お前は俺の弟か。


「構わんぞ。どれ、見せてみろ」

「あ、はい」


 言われるがままに指輪を差し出す。するとクラインは興味深そうに指輪を眺め始めた。


「ほう、これは能力に鍵がかかっとるな。何か強烈なきっかけがないと能力が解放されないぞ」


 ほれ、と指輪を投げ返しながらクラインは言った。


「強烈なきっかけとは何でしょうか」

「簡単に言えば死にかけることだな。使用者の強い願いによって初めて力が解放される。その分能力は凄いのだがな。滅多に見ない代物だ。大切に持っておくがよい」

「は、はい」


 ヤだよそんな指輪。なんで一回死にかけなきゃいけないんだよ。そんな状況お断りだわ。というか対三頭狼の時に一度死にかけてるのだがそれではダメなのだろうか。

 いろんな謎は残るが唯一分かったことはこの指輪が役に立たないってことだけ。残念だよ全く。主人公無双ができると思ったのに。


「それにせよ今日はもう遅い。泊っていくがよい」

「そうさせてもらうよ。それでいいな、ハヤテ」

「勿論です」

「そうか。シズ、案内してあげなさい」

「はーい」


 こうして俺たちは王の間を出て部屋に向かう。部屋は三人ともそれぞれ別だった。


「ふう、疲れた」


 夕飯と風呂を終えて部屋でゆっくりとする。なんか今日は様々なことが一度に起こりすぎた。正直まだ整理が追いついてないというのが本音だが、そんなことではこの先やっていけない。地球の常識が通用しないこの世界ではもはや何でもありなのだ。いちいち悩んでばかりはいられない。ある程度は割り切らないと。

 色々と考えてる間に俺の意識はだんだん薄くなっていった。


 翌日、何事もなく街を出て俺たちは家に帰った。

 魔王復活まで約半年、いよいよここからが本番だ。




 



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