第7話 セイギのミカタ
「おうハヤテ、こんなとこで何やってんだ?」
「ラ、ライラこそ何でここに?」
店を出た後の俺の行先なんて知らないはずだ。なのにどうしてここにいるんだ。
「お前があんまりにも帰ってこないから匂いで追ってきたんだよ」
「匂い!?」
犬かよ、と思ったがよく考えればライラは半獣人だ。ありえないこともないだろう。というかそう思わないとやってられない。そんな人外みたいなことをやってのけるなんて。
「ほら、用も済んだし帰るぞ」
その一言で思い出す。こんなことをしてる場合じゃないんだった。
「ライラ、シズが____」
ライラに今までにあったことを伝える。というか始めからライラを頼ってれば早かったんじゃないか?...........まあ結果オーライとしよう。
「黒の爪か。また厄介な奴らに絡まれたもんだな」
「知ってるのか?」
「この辺じゃ知らない奴の方が珍しいよ」
そこまで有名な組織なのか。ポケ〇ンで言うとロケ〇ト団的な立場か。
「ま、こういうのは憲兵が何とかしてくれるだろうし私たちは帰るぞ」
「え!?助けねえの!?」
まさかの答えに驚きを隠せない。
「黒の爪ってのは本来関わるべき相手じゃないんだよ。逃げれただけラッキーだと思え」
ライラはそう言うと、帰ろうとして歩きだす。ありえない。そんなのあまりにも薄情じゃないか。それに第一、
「友達を見捨てんのかよ!」
シズと何の関係も持たない俺とは違って、ライラは友達のはずだ。それなのにこうも簡単に見捨てるなんてそれこそ非(半獣)人道的だ。
「.........は?私が友達?そのシズって人と?」
ライラは慌ててこっちを振り向くと、そのままフリーズした。こんなライラを見るのは初めてだ。
「なあハヤテ、そのシズってまさかシズ=ラルトのことか?」
フリーズ状態から復活したライラが問いかけてくる。
「そうだけど。友達なんだろ?」
確かにシズはそう言っていた。友達とはいかなくても何らかの関係はあるはずだ。
再びフリーズしたライラは正気を取り戻すと
「よし、助けるぞ」
と言った。ようやくその気になってくれたか。
「ちょっと離れてろハヤテ。変身するから」
「は?変身?」
ライラは俺の疑問に返事することもなく地面にしゃがみ込む。と、次の瞬間ライラの骨格がグネグネと動き出した。大きく背は縮み、犬のようなフォルムになる。それと同時に体を赤い獣毛が覆いだす。
そして変化が完全に終了したとき、そのには一匹の赤狼がいた。
「乗れ、ハヤテ」
「いやいやいやいや.......そんなのアリかよ」
まだ状況の変化に頭が追いついていない。これまで人間離れした能力を発揮してきたライラがとうとう人間そのものを離れるとは。半獣人とはここまで無茶苦茶な生物なのかよ。
「説明は後だ。今はあまり時間がない」
さっきまで帰ろうとしていた人物とは思えないぐらい真剣な眼差しだ。攫われたのがシズだと分かってからライラの様子がおかしい。一体あのガキは何者なんだ。
「早く!」
ライラに急がされて慌てて背に乗る。体温が直に伝わってきて温かい。地球で乗馬体験したときもこんな感じだったな。
「しっかり摑まってろよ!」
そう言うや否や大きく飛び上がって屋根に乗り、猛スピードで駈けていく。これは注意しとかないとほんとに振り落とされそうだ。
「なあライラ、当てはあるのか?」
「奴らが隠れそうな場所は何か所か心当たりがある。そこを回っていくつもりだ」
流石はライラ、抜け目ない。日の沈んだ街を迷いなく駆け抜けていく。十分と経たないうちに一つ目の場所についた。人のいない裏路地に小さなドアがぽつんと設置してある。
「お前の服と同じ匂いがする。ここだ」
幸運なことに一発目から当たりを引いたようだ。ライラはさっきと同じようにして人型に戻ると躊躇なくドアを開ける。
中には大人が十人程度いた。何人か見覚えのある顔がいる。間違いない。教会を襲った奴らだ。しかしシズが見当たらない。奥にもう一つドアがある。そこにいるのだろうか。
「あぁ?何者だてめぇ」
右目に黒い眼帯をつけた男が言う。教会に来た時もこいつが仕切っていた。この中でリーダーなのだろう。
「大した用じゃないよ。シズを取り返しに来ただけさ」
「シズぅ?知らねえな。お引き取りを願おうか」
「おいおいしらばっくれるのかい?そしたらこちらもそれ相応の応対をしなくちゃいけなくなるな」
「あまり調子に乗るなよババア。お前の存在を消すことなんて容易いんだぜ」
堪忍袋の緒が切れる、とはこのことを言うんだろうな。今あいつは言ってはいけないことを言ってしまった。ライラの周りにどす黒いオーラが見える。
「今のセリフ、あの世で後悔しな。放電」
バリィッ、と凄い音がして閃光が走る。眼帯男をはじめ黒の爪が全員地面に倒れる。昼間俺が喰らったのとは比にならないくらい途轍もない威力だ。
「大丈夫、殺してはないさ。まあ半日は目が覚めないだろうけど」
俺の怯えた様子を察してかライラはそう言った。そういう問題じゃない。俺は決してライラを怒らせるまいと心に誓った。
「さ、シズを救うぞ」
ライラは奥の扉へすたすた歩いていくと躊躇なくドアを蹴破った。
案の定シズは中にいた。縛り上げられた状態で床に寝転がっていた。
「あ!ライラ!」
「久しぶりだな、シズ」
「そだね。五年ぶりぐらいかな?」
「もうそんなに経つか。どうせ私のことも加護の力で知ったんだろ?」
「うん。三日前ほどにね」
縄を外しながら会話する二人。聞く限り久しぶりの再会なのだろうか。どうりで最初に誘拐の話をしたとき帰ろうとしたんだな。シズの存在をすっかり忘れてたんだ。それで俺から詳しく聞いて思い出したと。なんとも薄情な人だ。あ、そういえば
「なあシズ、結局お前ってなんで誘拐されたんだ?」
一瞬空気が凍った。
「シズ、お前まさか自分のことハヤテに話してないのか!?」
「うん。だってその方が面白いでしょ?」
何やら大変な空気になっている。そんなに大事なのか。
「話せ!今すぐに!」
「はぁい」
しぶしぶといった様子でこっちの方を向く。
「改めまして、ラグレシア王国第八皇子のシズ=ラルトです。よろしくね、ハヤテ君」
「はぁ!?」
この国の王子!?とんでもなく偉い人じゃねえか!なんでこんなところにいるんだ!?あ、攫われたからか。
「それだけじゃない。こいつは他の皇子と違って『夢見の加護』を持っている。まあそれが攫われた理由でもあるんだがな」
「夢見の加護?」
「簡単に言えばねー、不定期で予知夢が見れるの。君とのこともこの予知夢で知ったんだよ」
成程、だから初対面のはずの俺の名前が分かったのか。おっそろしいチート能力を持っているなこいつは。
「そんな訳でこいつはいろんな奴らから狙われやすいんだ」
「へぇー」
「大変だよ全く」
「大変なのはお前じゃなくてクライン様だ馬鹿たれ」
シズの頭をライラが一発たたく。王子にそんなことができるなんてライラも只者じゃないな。
「そのクライン様って言うのは?」
「こいつの父親だよ。ラグレシア王国の現国王さ」
これまたとんでもない名称が飛んでくる。いや王子の父親なんだから国王なのは当たり前なんだけどさ。
それにしてもシズが王子ねえ。こんなちびっ子なのに。
「さ、帰るぞ」
「「はーい」」
と、三人で家を出ようとしたその時、バァンとドアが開き、甲冑姿の人たちが大勢入ってきた。
「そこを動くな!」
聞き覚えのある声がする。すると甲冑軍団の中からロベルトが出てきた。
「ロベルトさん!」
「ハヤテか!お前どうしてここにいる!?」
「久しぶりだな、ロベルト」
俺の後ろからライラが出てくる。
「ライラ!?お前どうして生きている!?」
.......................は?