第5話 城下町散策
「それにしても、いろいろあるな」
暇だったから出てきたものの、色んな種類の店がありすぎて目移りしてしまう。
武器屋、防具屋、薬草屋、鍛冶屋などさすが異世界といったところから、肉屋、八百屋、花屋など、地球にもあった店まで多種多様だ。
「どれから見ていこうか」
なんて悩むのは形だけ。異世界といえばやっぱり
「武器屋しかないっしょ!」
と、近くにあった武器屋に入っていく。
「お、いらっしゃい」
出迎えてくれたのは気さくそうなおっさん。
「おや、あまり見ない顔だね。新人の冒険者さんかい?」
「まあ、そんなところです」
実際は全然違うのだが、ここはそういう設定にしておいた方がいいだろう。
「職業は何にするつもり?それとももう決めたのかい?」
「一応もう決めてはあります」
「お?何にしたんだ?」
「ガンナーをやろうかと思ってます」
「ガンナーか。これはまた難しい武器を選んだねえ。残念ながらこの店じゃ取り扱ってないんだ。銃が欲しいのなら裏通りのグランツの店に行くといいよ。この店の横から裏通り入んな。右にまっすぐ行くとあるからすぐに分かるだろうよ」
「じゃあそこに行ってみます。ありがとうございました」
「いいってことよ」
そうして店を出る。あのおじさん、めっちゃいい人だったな。機会があったらまた来よう。冷やかしじゃなくちゃんとお客としてね。
おじさんに言われた通り右に進んでいく。するとだんだん人通りが少なくなってきた。成程、裏通りとやらに入ったのだろう。少し細くなった道を歩く。と、誰かと肩がぶつかった。
「あ、すみません」
「おいてめえどこ見て歩いてんだ?」
上の方から荒い声が聞こえる。見れば目の前には二メートル近い男の半竜人がいた。どうやらぶつかった相手はこの人らしい。何となく分かる。これまずいやつだ。
「お前どう落とし前つけてくれるんだよ」
「す、すみません」
「俺が聞きたいのは謝罪じゃないんだよ。どうしてくれるかってことなんだよ」
「そうは言われましても......」
完全に因縁をつけられている。周りに助けを求めようにも近くにはまだ幼そうな少年が一人しかいない。逃げ道ゼロ。ピンチだ。
「あー、もういいやお前。とりあえず殴らせろ」
そう言って大きなこぶしを振りかざしてくる半竜人。やばい、避けれない。とっさに目を閉じて全身に力を入れる。
「それ以上やると憲兵を呼んじゃうよ、お兄さん」
どこからか聞こえてきた一言。目を開けるとそこにはさっき近くにいた少年がそこに立ってた。
「なんだクソガ.........っわかったよ」
そう言うとあっさりと何処かへ立ち去っていく半竜人。それほどまでに騎士というのは恐ろしいのだろうか。それにしては最初反抗的だったような気もするが。まあいいか。なんにせよ助かった。
「災難だったねお兄さん。この辺りが治安が悪いから気をつけるといいよ」
「あ、うん。ありがとう」
年下に頭を下げるってのも初めての体験だが、何せ助けてもらったのだ。ここは素直に礼を言っておくべきだろう。
少年がじっと見つめてくる。そんなにおかしいことしただろうか。ただ礼を言っただけなんだが。
「どうかしたか?」
「..........お兄さん、名前は何て言うの?」
「黒崎ハヤテだけど」
すると少年はパッと顔を上げて明るい顔を見せてきた。というか思ってたより若くない。12~13歳ぐらいか?
「ハヤテ君、今暇かな?」
「まあ暇っちゃ暇だな」
「じゃあちょっと僕に着いてきて」
そう言うとスタスタと歩いていく。
「え?あ、おいちょっと」
「どうしたの?」
「どうしたのって、まだ色々と事情を飲み込めてないんだが。取り敢えずお前は誰なんだ?」
「ああ、自己紹介がまだだったね。僕の名前はシズ=ラルト。どこにでもいる普通の男の子さ」
「それで?今からどこに行こうとしてるんだ?」
「それは秘密」
不敵そうな笑みを浮かべながらシズはそう言う。怪しいことこの上ない。
「そんなに警戒しなくてもいいよ。僕はライラの知り合いだから」
と、その一言で緊張を解く。なんだ、ライラの知り合いなのか。こんな子供まで友達がいるなんてあいつは顔が広いな。
「分かった、着いていこう。だがお前を信用したわけじゃないからな」
「うん、それでいいよ。じゃ、早速行こう!」
そうしてシズは後ろを向くと、歩いて行った。
裏通りを抜けて再び大通りに出ると一気に活気がよくなった。さっきまでは全く気付かなかったが、 すれ違う人々の中には時々思わず二度見をしてしまうような風貌をした人がいる。森人族やら炭鉱族やら小人族やら獣人族やら色々だ。
「ほら、よそ見してたら迷子になるぞー」
前を歩くシズから注意を食らう。
「ああ、すまん」
「まったくー、僕より7つも年上なのにー。しっかりしてよね!」
「気をつけるよ」
いかん、ほんとに立場が入れ替わってしまっている。しっかりしないと。
「あとどれくらいで着くんだ?」
「んー、あと5分ぐらいかなー?」
もうそろそろ着きそうだな。
「あ、ほら着いたよ!」
そう言われて前を見ると、目の前には大きな教会が建っていた。
「でかっ......」
「ほら、入るよー!」
そう言って教会のドアを開けていく。中は期待を裏切らない作りだった。左右には長椅子が等間隔に配置されており、真ん中にはレッドカーペット。そしてそのカーペットの先には祭壇みたいなものが置かれている。そしてその祭壇に堂々と座っている1人の男がいた。
「お、またお前か」
「うん、また僕だよ」
シズと話しているのは男性だった。見た目的には30代後半と言ったとこだろうか。ボサボサに伸びた茶色い髪の毛に、茶色い瞳。顎には無精髭を生やしており、清潔感など微塵も感じられない。教会よりも酒場の方が似合いそうだ。
「全く、いいのか?また勝手に抜け出してきたんだろ?お父さんに怒られるぞ?」
「バレないうちに帰ればいいんですよ」
「この悪ガキが。クライン様も大変だな」
何の話か全く見えない。完全に置いていかれてる。もう帰っていいだろうか?あ、いや、帰るってライラのところにね。地球には帰れな(以下略)
「で?そこにいるのは誰だ?」
今頃かよ。とは決して口には出さない。心に留めておくだけだ。
「初めまして。黒崎ハヤテです」
「この子はねー、さっき拾ってきたの」
「拾ったって......ペットじゃないんだからな。それに、連れてきてどうすんだ?お前のことだからまた勝手に連れてきたんだろ?人の迷惑になるような事はやめろって何度も言ってるだろ。それなのにお前はこうして何度も何度も繰り返しやがって一体いつになったら反省するのかなぁ!」
「痛い痛い痛い痛い痛い!分かった!分かったから!だからその頭を掴むのをやめてよ!」
気がつけば男はシズの頭をがっしりと掴んで力を加えている。うわぁ痛そう。
男ははっと気がついたように俺の方を見て、シズの頭をから手を離した。
「おっとこれは見苦しいところを見せてしまったな。俺の名前はロベルト=スティング。えっと......ハヤテだったっけ?このクソガキが悪いことしたな。まあせっかくここに来たんだし、ついでにちょっとゆっくりしていけ」
「ありがとうございます。それで……あの、ここは?」
念の為に確認をしておく。
「まあ、見たまんま教会だよ。人魔大戦の英雄であるグレン様を祀っているのさ」
英雄グレン。ここに来る前の本に書いてあった名前だ。確かこの世界を救った人なんだっけか。……あ、そういえば
「ロベルトさん、この指輪が何か知っていますか?」
そう言って指につけていた指輪を差し出す。この世界に来る直前に貰ったやつだ。
「うーん、高級品ではなさそうだなぁ。もしかしたらドロップアイテムかもしれん」
「ドロップアイテム?」
「ああ。魔物が死ぬときに魔力を一か所に集めることによって生まれるアイテムなんだがな。特殊効果が付与されることが多いんだ。ま、常人には見分けがつきにくいから普通は鑑定屋に行って鑑定してもらうことが多いぞ」
「なるほど......分かりました。あとで行ってみようと思います」
「冒険者地区に行けば案内所があるからそこで場所を聞くといいよ」
「いろいろとありがとうございます」
「困ったときはお互い様よ」
そう言ってクラインは笑う。この人、こんな見た目してるけど実はいい人なのかもな。実際、教会で働いてるくらいだし。
それにしてもドロップアイテムに鑑定屋か。いよいよ異世界感が増してきたな。
この調子だと冒険者ギルドとかもありそうだな。この街もまだまだ探索する余地だらけだ。
「もしかしたらグレン様みたいに凄い能力が眠っているかもよー」
とシズが横から参加する。
「そのグレン様はそんなに凄かったのか?」
「伝承によれば魔力を無効かしたんだってー」
「無効化!?」
そいつは凄い能力だ。この世界なら敵なしじゃないか。
「ここはその英雄グレンを祀ってるんですよね。そしたらやっぱりそういった伝承の一つや二つは残ってるんですか?」
「まあ、そうだな。一番有名なので言えば神魔大戦の話か?」
「そーじゃない?ほら、神父として話してあげたら?」
「お前に言われるのもなんか腹が立つが、まあいいか。んじゃ話してやるよ。今から約2000年前の話だ____」
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今から約2000年前、まだ魔物や魔族が存在していない頃、ある1人の青年がいた。その青年は過去に例を見ないほど莫大な魔力を持っていたが、今と違って使う場面もなく、ただただ平凡に暮らしていた。
そんなある日のこと、青年は薪となる木を切るために森へ入っていった。しかし、運が悪いことにそこは強力な魔力の発生するスポットだった。青年はそんな事はつゆしらず、日が暮れるまで気を切り続けた。そうして青年が帰ろうとした時のことだ。突然、強烈な眩暈、吐き気、疲労感が青年を襲った。青年はその場に倒れ、気絶した。
青年が気絶して3回目の日が昇った時、青年は目を覚ました。そのとき、青年は頭に違和感を感じた。が、気にせずそのまま村に帰った。そして青年は気づかされる。自分が人でなくなっていることに。青年はその強力過ぎる魔力によってその姿を壊されていた。頭からは角が生え、髪の毛は真っ白になっており、禍々しい姿へと変貌していた。村人達はそんな青年を拒んだ。鬼、悪魔、人外と罵倒し、村から追放した。青年は村人達を恨んだ。
青年は森に住み着いた。そして時々村人を攫ってきては自分と同じように変貌させた。その数は段々と増えていき、人類と相対するまでに発展した。人類は彼らのことを「魔族」と呼び、発端となった青年を「魔王」と呼んだ。
魔族の数は無視出来ないほどまでに増えた。このままだと人類は滅ぼされてしまう。だから人類は戦争を起こすことを決めた。人魔大戦である。しかし魔族は恐ろしく強かった。その強力な魔力を武器に次々と人類を倒していった。また、「魔獣」と呼ばれる凶悪な生物を従え、人類滅亡に加速をかけた。
人類滅亡か。そんな瀬戸際に追い込まれたそのとき、1人の男が現れた。「グレン」と名乗ったその男は強かった。単身で魔物の巣に向かっては常に無傷で帰ってき、100対1の勝負もものともしなかった。
グレンを筆頭に反撃を開始した人類は破竹の勢いで勝ち進んでいき、とうとう魔王のところまで辿りついた。魔王とグレンの一騎打ち。結果として魔王は封印され、グレンは死んだ。
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「こうして、人類はグレンを英雄と称え、その栄光を忘れることの無いように各地に教会をつくったとさ。ま、そんなわけだからお前も祈っていったらどうだ?」
「ええ、そうさせてもらいます」
俺にもそのチート分けてくださいってね。.........冗談だよ。
近くの椅子に腰を掛け、手を組み、目を閉じる。ここでの礼法は知らないから日本風にいかせてもらおう。
バァン!!!
突然、大きな音を立ててドアが開く。そして
「邪魔するぜ。今からここは俺様たち『黒の爪』が占領する。下手な真似はするなよ。命が惜しけりゃな」
あ、これはヤバイかもしれない。約2日ぶりに命の危機を感じた。