第4話 ラグレシア王国
久しぶりに夢を見た。父さんと母さんが笑いながら話をしていた。姉ちゃんと妹はテレビのチャンネルを奪いあっていた。俺は1人でスマホを弄っていた。ここに来る前までは当たり前だった風景。しかしこれからしばらくは見ることはないだろうその光景に、俺は懐かしさを感じる。
「すぐに帰るから。ちょっとだけ待ってて」
届くはずのない声を残して俺はその場を立ち去った。
「ハヤテ、起きるんだ」
「うわっ」
目が覚めると隣にライラが立っていた。
「眠れたか?」
「おかげさまで」
「そりゃよかった」
ライラは満足そうな顔で頷く。
「ほら、もう朝食できてるぞ。早く起きろ」
「断る。もうちょい寝る」
自慢じゃないが俺は朝に弱いことで有名なんだ。何度母さんを般若にしたことか。
「んん?生意気なこというじゃねえか。そういう奴には水球」
ライラの前に小さな水の球ができていく。そしてそれは.............俺の顔面に落ちた。
「へぶっ!?」
慌てて飛び起きる。
「おお、起きた起きた」
「何すんだ!」
「朝ごはんできてるぞ。早く来い」
そう言って彼女は隣の部屋へと去っていった。
「俺の言葉は無視かよ____」
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「今日は街に行くよ」
朝食中に突然放たれた一言。
あ、ちなみに朝食は至って普通でサラダと肉を焼いたものだった。.........一体何の肉なんだろうか。ちょっと怖い。
「はあ。それで?」
「む、なんか反応が薄いな」
「いや、唐突にそんなこと言われても」
一概に街と言っても規模が分からないしな。ましてやこんな山奥だ。そうそう大したものじゃないことぐらいは簡単に予想がつく。
「んにゃ、山は降りるぞ」
そんな俺の考えを読んだかのようにライラが答える。
「降りるのか?」
「勿論。こんな不便なところに街なんてあるわけないだろ」
考えてみればそれもそうだ。というか不便って自覚あったんだ。それなら街に住めばいいのに。
「しょーがない、行ってやるか」
「お、なんだその上から目線は。これはもう一発いっとくか?」
「すみません調子乗りました」
「分かればよろしい」
これじゃまるで暴力支配じゃないか。いや、まるでっていうかまんまだな。
「なんか言った?」
「なんでもありません」
ギロりと睨んでくるライラ。その顔には妙な迫力があった。
「ほら、四の五の言ってないで行くぞ」
「はいはい」
「なんか今日はやけに反抗的だな。やれやれ、ウォーター.......」
「もういいよそのくだりは!」
そんなこんなで街へ行くこととなった。
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「うわ、すげえ」
それが街を見た時の第一印象だった。それはもうザ・異世界みたいな建物ばっかり。分かりやすく言うと中世ヨーロッパに近い感じだ。.........分かりずらいか?
「ここはラグレシア王国。この世界で最大の人間の国だ」
「え?ライラさっきまで街って言ってなかった?」
「今回用があるのは城下町だからな。嘘ではないさ」
俺は黙ってジトっとした目を向ける。するとライラはスッと目線をそらした。
「おい」
「よし!さっさと中に入るぞ」
そう言って後ろを振り返ることなくライラはドンドン進んでいく。仕方ない、俺も早く行くとしよう。
街へと入る。煉瓦造りの建物、石畳の道と期待を裏切らない街づくり。これはなかなかに文明が進んでそうだ。
十分程街を歩いたところで一つ疑問が浮かぶ。
「結局街で何をするんだ?」
「お前の服とか日用雑貨とかいろいろだ」
「それはどーも。色々迷惑をかけます」
「全くだ」
まさかの全肯定。ちょっとは否定の言葉があってもいいんじゃないか?
「だって事実だろ?」
「それはそうだけど、もうちょっとこう、なんかないのか?」
「ないね」
ライラは躊躇いなく邪魔者扱いする。ちょっと傷ついたぞ。
「まあ、それでも楽しいからいいんだけどな」
お、これは俗にいうツンデr
「着いたぞ、ここだ。」
俺の心の声を遮るように言葉を発する。果たしてそれはわざとなのか偶然なのか。
赤煉瓦で造られた店へと入る。見たところ雑貨屋かなんかのようだ。
「いらっしゃい!ってライラじゃないか。珍しいな、お前が街に降りてくるなんて。お?後ろの坊主は誰だ?」
店の中にいたのはボーボーの髭がトレードマークのおじさん。みたところ50歳は超えてそうだ。
...........というか小さいな!150cmぐらいか?
「久しぶりだなダイン。こいつは山で拾った。私の弟子にする」
「なるほど」
なんか勝手に弟子にされた。まあ、否定はしないんだけどな。
ダインは俺を舐めまわすように見ると、突然顔を近づけてきて、耳打ちしてきた。
「おいお前、気をつけとけよ。こいつを怒らせると怖いからな」
「あ、それはもう経験済みなんで」
「そ、そうか」
この人もこの人で大変だったんだろうな。ちょっと親近感が湧いてきた。
「おい、そこはいったい何を話してるんだ?」
「「なんでもないです」」
これは本当に恐怖だ。ホラー映画ができてしまう。
「で、いったい何を買いに来たんだ?」
ダインが切り出した。
「こいつの日用品をちょっとな。この辺とか適当に貰うぞ」
「待て待て、その辺はあまりオススメせんぞ。それならちょっと値は張るがこっちの方がいい」
「ああ?お前私から金を取るつもりか?」
「ここばっかりは商売だからな。譲れんぞ」
「チッ、ならせめてこの辺だな」
「いやそれならあっちの方が……」
そんなこんなで二人はあっちに行ってしまった。これはまずい。暇だ。ちょっとこの辺りをぶらっとしてみるか。
「ライラー、俺ちょっとこの辺ぶらっとしてくるわー」
「夕方には帰って来いよー」
ライラの許可を得て外へ出る。辺り一面に広がる騒々しさが俺の好奇心を掻き立ててきた。
「やっぱワクワクするな」
夢にまで見た異世界。楽しまなきゃ損だぜ。