第3話 温もりと決意
何だか懐かしい匂いがする....
これは....なんの匂いだろう.....
絶対知っているはずなのに....
....ああ、そうだ。これは......
_ _ _ _ _
目が覚めると知らない部屋のベットで寝ていた。....あれ?なんか既視感が.....。ただ前回と違って、この部屋にはイスやら机やら本棚やら沢山の物で溢れかえっている。いや、てか散らかりすぎだろこれ。ベットから降りようにも降りれないぞ。
なんとか足場を見つけ、ベットから降りる。
「どこだここ?」
完全に人の家のようだが、誰の家だろう。三頭狼と闘っていたところまでは覚えているのだが、その後の記憶が全くない。だからここが安全かどうかもわからない。
まあいい、とりあえず部屋を出よう。
わずかしかない足場を縫うように歩く。それにしても散らかってんな、この部屋。もうちょっと整理整頓した方がいいんじゃないか。尤も、余計なお世話だろうが。
そうこうしてるうちにドアの前まで来た。さて、この先はどうなってるんだろうか。ドアを開け___
ガチャッ
なぜだろう、勝手にドアが開いた。そしてその先に一人の女性がいた。
170cmはある身長、茶色い肌、引き締まった肉体、アーモンドのような切れ目、赤い髪、そして頭のてっぺんにある獣耳。それはもうTHE・獣人みたいな立派な犬耳。
「お、もう目が覚めたのか?」
これは話しても大丈夫なんだろうか。なにせ、この世界で一番最初に会った人だ。....いや、人ではないか。
「そう警戒するな。怪我の調子はどうだ?私はあんまり回復魔法が得意じゃないからな、傷跡が残っとるかもしれん」
慌てて左腕を見てみる。.......あれほど深く入っていた爪痕がなくなっている。折れていたであろう肋骨も痛くない。
「......凄い」
「お、綺麗にできていたか。さっすが私」
意外と軽い人かもしれない。いや、人じゃないん...ってもうこのくだりはいいんだよ!
この人なら信頼できそうだ。だって見ず知らずの俺を助けてくれたんだから。そうと分かったら回復魔法やら獣耳やら聞きたいことはたくさんある。が、とりあえず
「助けていただいてありがとうございました。あの、あなたは誰ですか?」
「え、私?私はライラ=ファルシオン。ライラって呼んでくれ。君の名前は?」
「僕は黒崎ハヤテ。ハヤテって呼んでください。」
「よろしくね、ハヤテ。ところで君、なんであんなところでケルベロスと闘っていたんだ?」
あの三頭狼、ケルベロスっていうんだ。まんまだな。
「えっと.....それは.....話すと長くなるんですけど____」
「ちょっと待て」
いきなり話を遮られる。
「長くなるなら移動しよう。立ち話は嫌だろう?」
「あ、そうですね」
「あと、そのよそよそしい話し方やめてくれ。なんかむずがゆい」
俺なりに敬語を意識したのだが、不評のようだ。
「わかったよ」
そうして俺らは隣の部屋へ移動する。この部屋はさっきの部屋と違って普通に綺麗だ。さっきのは物置かなんかだったのだろう。
「その辺にテキトーに座ってくれ」
こうして俺と彼女は腰をおろす。
「さて、じゃあ話そうか。少し長いが、聞いてくれ____」
そこから俺はすべてを語った。異世界から来たことや、もうすぐ魔王が復活すること、魔法が使えないこと、そして転移するやいなや二頭狼やケルベロスに襲われたこと。彼女は黙って聞いてくれた。話を信じてくれるかどうかは分からない。ただ、彼女の眼はずっと真剣だった。そのことを俺は嬉しく思う。
「____というわけなんだ」
「異世界転移に魔王復活か。信じがたい話だなあ」
やっぱり信じてもらえないか。まあそりゃそうか。俺も普通信じないもんな。
「おい、誰も信じないとは言ってないぞ。信じがたいと言っただけだ」
「えっ!?」
「世界中を旅したことがあるが、お前の服装など初めて見た。それに、魔法が使えないなんてな。この世界だとそんな致命的な奴生まれてこない」
「そ、そうか」
やっぱ魔法が使えないってことは相当やばいんだ。改めて実感させられる。
「まあ、お前は運が良かった。拾われたのが私でな」
「それって一体どういうことだ?」
確かに、拾われたことは運がいいと思う。だけど、そこまで特別か?
「なにせ、私は魔法を使わずに闘う、『銃使い』だからな」
「まじかっ!!」
魔法を使わない?それなら俺にもできる!
「おい、落ち着け。そんで一回座れ」
「え?ああ、はい」
興奮のあまり気づかぬうちに立っていたようだ。反省反省。
「これを見てみろ」
そう言って彼女が出したのはよくある片手銃。でもよく考えろ、異世界にハンドガンがあるんだぞ。相当やばいぞ。
「これ、弾はどうするんだ?」
そう聞いた瞬間、ライラの眼が輝きだした。あ、これはまずい。
「これは、魔力を弾にして打つことによって、少し離れた相手にも攻撃を当てることができるんだ。いや、魔力といっても心配はない。この中に搭載されている魔力石が魔力の代わりになるからな。あ、魔力石というのは、何もしなくても半永久的に魔力を放出し続けてくれる石でな、これがある限り弾切れの心配もないんだ。でも物凄く貴重でな、なかなか無いから銃の量産ができないんだよ。それ故にこの世界にはガンナーが少なくてな、もっとガンナーを増やしたいんだが....っておい!寝るな!」
おっと、彼女の話が長すぎていつの間にか寝てしまったようだ。
「まあ、仕方がないか。もう夜だし、今日は寝るか」
「え!?もう夜!!」
あたりの窓から外を見るが、確かに日が落ちている。
「ほら、寝るぞ」
ライラに急がされ、二人でさっきの部屋へと戻る。
「ほら早く行けよ」
「歩きずらいんだよ」
「もうちょっとそっちつめろ」
「分かってるよ」
「明かり消すぞ。大丈夫か」
「大丈夫だ........大丈夫じゃねえ!!」
「なんだ?どうした、トイレでも行きたくなったか?」
「違うよ!!なんで同じベットで寝ようとしてんだよ!!」
危うく流れに乗せられるところだった。危機一髪。
「なんでってベットが一つしかないからだろ。.....何か問題でも?」
「大ありだよ....」
主に俺の精神的な面で。
「なら、大丈夫だな」
「なんで俺の心が読めてんだよ!」
「私は獣人だからな、心臓の音一つで人の心がわかるんだ」
なんか今、すごいことをサラッと言われた気がする。
「ほら、諦めろ。明かり消すぞ」
「はぁ」
そうして明かりが消え、あたりは真っ暗になる。
眠れない。いやけ決してライラが隣にいるからではなく。
考えてみろ、ライラが来てくれたからこうして生きているものの、一歩間違えると自分は死んでいたのだ。それなのに自分は恐れもせず立ち向かっていった。まるで自分は死なないとでも思っているかのように。
俺はまだ心の奥底ではこの世界を信じていないのかもしれない。きっと元の世界に帰れる。そんな根拠のない確信が頭の中にある。だってそうだ、今まで読んできたライトノベルの主人公だってほとんどが異世界でうまくやっていた。その恵まれた才能を使って賢く生きていた。でもそれは小説の中の話。俺はそんな才能なんて持ってない。むしろ魔法が使えない分マイナスからのスタートだ。銃があったからまだ何とかやっていけそうなものの、それでも不安は残る。
だめだ、考えれば考えるほど何が正しいかがわからなくなる。俺はベットから出ると部屋の外に出た。乱雑とした廊下をぬけ、リビングに出る。改めて見回すとリビングは部屋の中や廊下とは正反対に、綺麗にかたずけられている。そんな部屋の一角にドアを見つけた。一体どこにつながっているというのだろう。近づいて開けてみる。
「うわっ」
そこはベランダだった。木製の足場と柵。一息つくには最適な場所だった。夜風が熱くなった頭を冷やしてくれる。空を見上げると月っぽいものが黄色く輝いている。
なぜ俺は呼び出されたのだろうか。確かに勉強は嫌いではないし、運動も得意な方だ。でも高校にはもっと頭のいい奴はいたし、運動ができるやつもいた。それなのに何の変哲もない俺が選ばれた。単なる偶然なのか、誰かの策略なのか。それは今の俺には確かめようのないことだ。ただ悶々とした思い明けが心に残る。
「眠れないのか」
「っ!?」
振り向くとライラがそこにいた。
「何でここに......」
「なんで、ってここ私の家だぞ。それに、ベットから抜ければさすがの私も気づくに決まってるだろ」
「そっか、そうだよな」
「元の世界に残してきた家族でも恋しいのか?」
「いっや、ただちょっと考え事をしてただけさ」
「そうか、あんまり一人で考え込むなよ。何かあったら私を頼れ相談相手ぐらいにはなってやろう」
「ありがとう、ライラ」
「いや、いいさ。もう夜も遅いし、寝るぞ」
「わかった」
何故だろうか、ライラと話すと少し安心する。心が少し軽くなった。
呼び出しに意図があろうがなかろうが関係ない。俺はこの世界に来た。だからやるべきことをやって元の世界に帰る、それが俺の役目だ。死にたくないから生きる。当たり前すぎて忘れえかけていたが、大切なことだ。胸に刻んでおく。
じゃ、ちょっと世界救いますかね!
やべっ、まずは寝ないと。