宝箱と 恋の契約
絞り汁を飲ませると、すぐに 効き目が 現れた。
荒い息づかいが だんだんと 穏やかになってゆく。
ーやっぱり 効いたんだ!女神様、ありがとう!!
シェリスリーザ様は、この国の 守護精霊。
精霊殿でみかけた姿は、優しそうな 微笑みを 浮かべていた。
そう、若様が 私を救ってくれた時に見せたのと 同じそれ。
いつまでも ここにいるわけにもいかずに とぼとぼと お屋敷への道を下る。
そこへ 仁王立ちした マーサおばさんにでむかえられ 一言。
「あんた、何やってんの!!若様に・・・」
「だいじょうぶだよ、熱 下がったから」
おばさんが 目を丸くして つぶやく。
「しゃべった・・・」
「説明してくれないかな 、お嬢さん」
おばさんの後ろから 大柄な男のヒトが 歩みでて 若様を 抱き取った。
「侯爵さま」
男のヒトは 若様の顔を 愛おしそうに見つめ その寝顔に 安堵の息をもらす。
「はやり熱は にがにが草を 飲ませれば直るよ」
それからー
大騒動の 始まりだった。にがにが草を採取し 患者さんに 飲ませ、熱を下げる。
その繰り返しに 私も動員され、若様と再会できたのは、1ヶ月後だった。
暖炉のそばの椅子に腰掛け、若様は 笑顔で 迎えてくれた。
「命を助けてくれて ありがとう。
お礼は なにがいいかな?」
「その笑顔、ちょうだい」
一瞬 驚いた顔をして、とびきりの 笑顔をくれた。
それを 心の中の 宝箱に しまい込む。
ありがとうの 言の葉とともに。
それから 若様は いっさい笑わなくなった。
何を 勘違いしたのか、私以外のヒトには しかめ面をするようになってしまった。
お礼は 笑ってくれただけで いい。元気になった その顔が 見られただけで。
そう 伝えたかっただけなのに。
訂正すると 例のことも 追求されそうで、めんどくさいから やめた。
そのうち 薬草師見習いとして 精霊殿につとめることとなり 若様とも 顔を あわせる機会が 減ってしまった。
誤解を解く 機会を 逃したまま。