宝箱と 恋の契約
盗賊に襲われた次の日、若様は 療養のため 母君所有の 王族領にある別邸に 向かう途中だった。
そこは、海を見下ろす 小高い山の上にあり、後ろは 奥深い森に面した小さな街だった。
そう、若様ーライオネリアス様は、現陛下の妹君を母に、武勇の誉れ名高いブルーグラード候を父にもつ 正真正銘の オウジサマなのだ。
太陽の光さす御髪と 海の細波寄すターコイズブルーの瞳。
顔は 本当に 完璧なのにー
残念なのは、ガリガリにやせている上 チョーヒひ弱っ子なこと。
“ヒョロオヤセノスケ”って 呼ばれてた。
おまけに よく熱を出しては、久遠の世界に とびたちそうになる。
だから あの時も 療養にいく 途中で、襲われた惨状の現場を たまたま通りかかっただけのこと。
でも、それは 今考えてみると、春の精霊シェリスリーザ様の 導きだったような 気がする。
現在 わたしーアニーアンは、精霊殿の 薬草師であるのだけれど、シェリスリーザ様は、生命の息吹たる源を司るうえ、恋の 紡ぎ手でもある。若様との出会いは、偶然ではなく 必然的なことのほうが、しっくりくるもの。
だけど、私は 恋はしない。
いえ、出来ない。
あの 惨状の中、ただ一人 生き残ってしまったから。
さて、話を もどそう。
そう、ふたりの 出会いの時へー。