宝箱と 恋の契約
精霊殿の薬草師は、年に一度 巡回にでる。
薬草師が 不在の 地方に赴き、簡単な処置や 薬草の栽培方法を 伝授する。
また その地独特の 薬草に関する情報を集め、記録を 残すのも 大きな役目だ。
独りの薬草師に、一人の護衛がつく。
精霊殿は、主に 三つの場所に分類される。
一つは 祭事を司る巫女、警備を司る衛士、治療を施す薬草師。
もちろん みんな 女性である。
今回の巡回は、わたしアニーアンと 衛士ラーラとの 組み合わせで、故郷沿いの 山岳地方を 回る。
彼女とは、もう何回も組んでいて 気心の知れた仲であり、楽しい旅に なるはずだった。
そう、あんなことが なければ。
ラーラは わたしより 三つ年上で、すらりと背が高く あかがねいろの髪を 短く切りそろえている。目つき鋭く、背中に 愛用の細身の長剣を 引っさげ、豪快な 女剣士だ。
唯一の弱点は・・・・・無類の お酒好きってこと。
地元で評判の 酒場には 必ず立ち寄って、試飲しないと 気が済まない。
ある意味、だから 私と 組まされているのかも。
何故なら、私の言うことには 従ってくれるから。
それは、私が 彼女の愛する弟の 命の恩人だから。
ただ、にがにが草を 見つけただけのことなのに。
わたしは いろんな人から ありがとうの笑顔を もらう。
彼女も そのうちの 一人。
両親を早くになくし、仕事を求めて この国に来たとき 弟さんが はやり熱に倒れた。
ちょうど 通りがかったわたしが にがにが草の乾燥させたのを持っていて、
直ぐ処方し 一命を 取り留めた。
この国では にがにが草だけは お金を介した取引は 禁じられている。
元々の 所有者である ブルーグラード侯爵さまの ご意向からだ。
この栽培には 一つの秘密があり、ほかのどこにでも 栽培はできない。
管理できるのは、精霊殿の 薬草師のみ。
そして、ただ。
それにいたく感動し、衛士となり 私をまもると 宣言した。
ちなみに 弟さんは、マーサおばさんに預けられている。
「ラーラ、もう おしまいにしなよ。」
今夜も 例のごとく ほろ酔い気分の友を たしなめる。
「アーニィ、あと 一杯だけ、ねっ♡」
どうやら 好みのお酒に当たったらしく、きょうは なかなか 引き上げようとしない。
そこに、突然 むさい男たちが なだれ込んできた。
「おおい!店主!ジャンジャンお酒を 持ってきてくれ!」
どうやら、ながれの 傭兵団の集団らしく、どいつも いい面構えの おとこどもだった。
一仕事がすみ 給金でも入ったのだろう。祝杯でも挙げようと やってきた風だ。
カチャーン。
騒いでいた 男の腕が 運んでいたグラスにあたり、床に お酒が こぼれ散る。
それが 運悪く ラーラの注文した最後のお酒だったから、大変!
つっと立ち上がり、こぼした男の腕を きっとひねり上げ、机に ねじ伏せる。
「おうらああ、あたいの酒が 台無しになっちまったじゃねえか!
ああ~ん、どうしてくれるんだよ、おにいさんよお!」
正直 こうなった時の彼女は こわい。
そして、それを止めるのが この わたし。
「ラーラ、いいかげんにしなさい。辞めないと 歌うわよ!」
びしっと 固まり、ぱっと 手を離す。
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。それだけは 勘弁してください」
自慢じゃないけど私、歌うと みんな 卒倒するんだよね、なぜか・・・・
「相変わらず 歌が 下手なのか、お前・・・」
後ろから かけられた声に はっと振り向く。
傭兵の中に 見慣れた むっつり顔を見つけ、フルネームで 叫んでいた。
「ライオネリアス=ブルーグラード様!!」
しーんと静まり返ったなか、若様が むっつり度を 極限まであげる。
「ええーーーーー!!!!!!!!」
酒場中が 大騒ぎとなり、若様は わたしの手を引いて 脱兎のごとく 酒場から駆け出した。
実は、かえってこない 息子に 業を煮やして、侯爵さまは 息子に 懸賞金をかけたのだ。
傭兵団には 素性を隠していたらしく、伸ばした髪と髭のため、誰も 彼とは 気づかなかったらしい。
これが きっかけで、帰ることになった若様は、いつか このかりを かえさせてやると すごんでいたけれど、契約婚約を迫るなんて、思いも よらなっかた。




