宝箱と 恋の契約
それから 若様は 変わった。
好き嫌いがなくなり、今までの 2倍以上の ご飯の量を たいらげ、
苦手だった 剣の稽古も 自分から 励むようになった。
もともと お父上の素質をお持ちだったから、腕前は めきめき上達し、
身体も 大きく 成長されていった。
それに、勉学も 励まれ、お父上のすすめで 王都にある 騎士の養成学校に 入学が 決まった。
入学前の 準備期間を あの別邸で過ごされるということで お手伝いの名目で
私も 呼び戻された。
「これが、傷薬。これが、 腹痛止め。これが 解熱薬。これが・・・」
「わかった わかった、もういい。そんなに 持っていけないよ。
それに、学校には 治療室もあるから 大丈夫だよ。
昔の ヒョロオヤセノスケは 卒業したから」
「これ全部、マーサおばさんにたのまれたんですけど」
ひさしぶりにあった 若様は、見違えるほど 立派になっていた。
まともに 顔を見るのが ちょっと恥ずかしくて 薬ばっかり見つめてた。
「ちょっと、散歩につきあってくれないか」
にっこり笑って のたまう。
「うん、いいけど」
若様の 後を とぼとぼと ついていく。
湖まで 二人で黙ったまま ただゆっくりと、ゆっくりと。
そうして、たどり着いた 思い出の地。
ここで にがにが草をー
「あの薬草、栽培に 成功したんだって?」
「うん」
精霊殿の 薬草畑で 栽培方法を ずっと模索し続け、ようやく栽培に 成功した。
これで もっとたくさんの 患者さんが 救える。
「そうか、よかったね」
そうして、にっこり 微笑む。
何で?何で あたしにだけ 微笑むの?
昔は 誰にでも 微笑んでいたのに。今では マーサおばさんにも 微笑まない。
「笑わないの、にがにが草の 副作用かな?」
ぽつりと つぶやけば、大きな ため息が 聞こえた。
「君が それをいうのか・・・あの日のこと もう 忘れたの?」
「何?お礼なら もう いらない。宝箱に 入っているから」
「宝箱?」
「うん」
そうして、おばばから 聞いた話を 聞かせた。
若様は 黙って 聞いていた。
「あたしは みんなのおかげで 今 ここに 生きてる。
一座のなかまのぶんまで 人の 笑顔のために 生きるって 決めた。
その笑顔で 宝箱を一杯にするのが わたしの 償い。
若様、あなたの笑顔は その中でも ヒットウだよ」
そうして 微笑みながら 若様に向かって 告げた。
「わたしを 救ってくれて、ありがとう。
生きようと 決めたのは、あなたに 出会えたから。
あなたが あの時助かって 本当に 良かった。
でも もう十分だよ、だから・・・」
「お前って、サイテー(●`ω´●)
勝手にしろ!!」
そうして プンプンしながら 私を残したまま 去っていた。
「? ? ?」
わけが分からず、ぼーとしていたけれど 戻ってみれば、もう 若様は 出発していなかった。
それから だれにでも ムッツリになってしまった。
その上、学校を途中で飛び出し、庸平団にはいって 諸国を 放浪するという 暴挙を行い 一時期 行方不明になる始末。
あの日 ひょんなことで 再会するまでー