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ネコ耳ばすた~ず   作者: 七海玲也
女王の婚約者
8/31

死への秒読み

 通路の先に鉄格子が見えると、凄まじい歓声に混ざりアナウンスが聞こえる。


「続きましては、メイル女王陛下と婚約が決まりましたレイヴ殿の登場になります!

 是非、勝ち進み正式に王となって頂きたいものです!

 そして、対戦相手は……」


 そこまで言うこともないだろうと思ったが、祭を盛り上げる余興も必要なのだろう。

 衛兵が鉄格子の鍵を開けると、視線が合った。


「レイヴ殿、期待していますよ!

 我らが王に相応しい闘いぶりを、お見せ下さいませ。

しっかり目に焼き付けておきますよ」


「おいおい、そんなにプレッシャーを与えないでくれ。

 元々、負けるつもりは一切ないんだから」


「流石は、女王陛下のお選びになった方。

 では、御武運を」


 鉄格子を潜り階段を上ると、一面が砂で覆われた円形の闘技場になっていた。見渡す限り客で埋め尽くされ、オレに向けて大歓声を挙げている。

 ここは応えるべきだろうと、軽く手を挙げると更に歓声が増す。そして、向かい側からは大柄の男が現れた。


「両者揃いましたので、これより開始致します。

 両者中央にて剣先を合わせて始まりとなります」


 アナウンスに合わせ中央まで行くと、鋭い眼差しで男が迫って来る。一礼をし、剣を抜くと男が口を開いた。


「レイヴ殿には申し訳ないが、この試合何が何でも勝たせて頂く」


「そんなに婚約が気に要らないか?」


 鞘から剣を引き抜き、剣先を男へ向ける。


「いや、陛下との婚約は素晴らしいが、オレは騎士にならねばならない!

 家族を養う為に、幸せを守る為になっ!」


 相手が剣先を合わせると、間合いも取らず力任せに押してきた。

 教わった内の二パターン。間合いを取るか、速攻を仕掛けるか。前者を選択したが、どうやら正解だったようだ。おかげで押し切られることもなく、素早く後退りし、距離を開ける。


「騎士にならなければ養えないこともないだろう、それだけの力があれば」


「オレは隣国のアヴァロンから来た。

 あそこの現状を知っているなら、そんなことも言えんだろう!」


 突進してくる相手を避けるが、間髪入れず次から次へと打ってくる。力では負けるのが目に見えているので、かわして反撃の機会を伺うしかない。


「亡命者か。

 だからと言って、騎士になる以外でもやれることはあるだろう!」


「アヴァロンから来たと知ると、手のひらを返し、白い目で見られるというのにか!」


 語気と同様に激しさを増し、仕方なしに受け止めるしかなくなった。


「くっ!

 それなら、騎士になってどうするつもりだ。

 家族を養えれば騎士でなくても良いのじゃないのか!?」


「アヴァロン出身者の肩身の狭い思いを、これ以上家族にも味あわせたくないだけだ!」


「騎士になり、国民の上に立つつもりでいる訳ではないんだな。

 それならっ!」


 受け止めた剣の力を抜くと同時に体を(ひるがえ)し、相手の胴に剣を当てる。アルバートから教わった力任せの相手用のテクニックだ。

 こうも上手くいくとは思っても見なかったが。

 試合終了とのアナウンスを聞き鞘に戻すと、うなだれた相手に声をかけた。


「騎士にというのは国と人を守る為であって、決して人の上に立つわけではないと分かっているなら、あんたの気持ち、女王に伝えておく。

 騎士でも兵士にでもなれるよう、取り計らうよ」


「レイヴと言ったか。

 君のような者こそ王たる資格があるのかも知れないな。

 自分の力で騎士になる資格は失ったが、君が王になれることを願っているよ。

 君の下ならば力になりたいと思う」


 剣を大地に差し、差し伸べる手をしっかりと握り返す。王になることはない後ろめたさを抱きつつ、闘技場を後にした。


 大広間に戻ると早くも第二試合の開始が告げられているが、残った人達のオレを見る目が明らかに変わっていた。

 王になりたい者が多数出場している中で、大々的に発表するからこういうことになる。

 大人しくしているのが懸命だろうと、壁に持たれ出番を待っていると、傷ついた出場者が明らかに増えていき、ようやくオレの名前が呼ばれた。

 闘技場へと足を踏み入れると、自分の目を疑った。


「あれは……さっきの少年か!?」


 独り言が出る程の驚きで、すかさず中央へ駆け寄り確かめた。


「やあ、お兄さん。

 闘うになったね。よろしく」


「君!

 まさか、前の試合勝ったのか!?」


「うん!

 半殺しにしてね。

 失格になったら、お兄さんを殺せないから」


 含み笑いを伴いながら、物騒なことを言う。


「それだと失格になってしまうぞ!

 いいのか!?」


「関係ないよ、そんなこと。

 お兄さんを殺すのが目的だから。

 この場しかチャンスがないからね」


「だったら何故、大広間で狙わなかった!?」


「そんなことしたら、犯人探しが始まって僕の身も危険だもん」


「ここなら致命傷を与えても失格になるだけだからか!!」


「そういうこと。

 さぁさぁ、始めようよ。

 もうアナウンスも終わったよ」


 終始笑顔のまま、小剣を差し出して待っている。

 やるしかないのかと覚悟を決め、剣先を合わせると同時に今度は力で押す態勢に入る。


「ムダムダ。

 お兄さんの方が体格で有利なのは百も承知。

 だからね――もう一本持ってるんだ」


 空いた手で腰からもう一本の小剣がを取り出し、オレの腕を斬る。すかさず離れるが気づくのが遅かった。


「くっっ!

 近いところが君の得意な場所ってことか」


「ふふふふ。

 だって僕より大人しか相手が居ないんだもん」


 それはそうだ。合理的でなんとも賢い子供だが、殺めることに何も感じないよう育てられているなんて。


「何故、君はオレを狙う?

 誰かに頼まれたのか?」


「そうだよ。

 でも()って止めてくれないかな?

 僕には双剣(スティレットス)って名前があるんだよ。

 聞いたことないかな?

 結構有名なんだけど」


 その話ならオレの育った腐街(ス ラ ム)で、双剣という名の天才暗殺者がまだ子供だとの噂が流れていた。


「聞いたことはあるが、君が双剣だったのか」


「そういうこと。

 僕のこと知ったんだから、お兄さんにはこの世界から退場してもらうよ。

 一応、暗殺者だからねっ!」


 走り出したと思った瞬間、飛びかかってきた。

 受け止めるが、もう一方の刃が頬をかすめる。盾がないと防ぎようのない攻め方をしてくるのは、まさに暗殺向きだと感じた。


「くそっ!

 他人を傷つけることに何も感じないのか!?」


「痛いと思うよ。

 だから、殺られる前に殺るんだよ」


「誰も君を――殺そうとはしないさ!

 だから、そんな考えは止めるんだ!」


「大人ってさぁ、子供をいじめるくせに不利に感じると説得しようとする。

 だったら、そんな大人達は消えちゃえばいいんだ。

 その為に、強くならなきゃならないんだ。

 子供を道具扱いする大人を、この世界から消すために」


 その考えはオレにとっても他人事ではなく理解も出来たが、この子には一体どんな過去があったというのか。

 それは自身を、未来を、大切なモノをも滅ぼすというのに。


「それは十分分かる。

 しかし、それはダメだ!」


「何がダメだっていうんだ!?

 僕が守るんだ!!」


 冷静だった双剣が荒い口調のまま突っ込んでくるが、頭に血が昇っているのか、剣撃も粗くなっていた。

 動揺させるつもりは無かったが、ここが正念場になるだろう。

 受けてはかわしを繰り返すうちに双剣の息が切れ始め、とうとう左手の小剣を捨て両手持ちに切り替えた。


「剣一本でオレの力には及ばないだろ。

 負けを認めて、もう止めろ」


「無理だよ。

 お兄さんを殺さなきゃ。

 僕がやらなきゃ……僕がやらなきゃ!」


 横から薙払らわれる小剣を受け、力任せに倒そうとする――刹那、双剣の袖からナイフが飛び出すと太腿(ふともも)に激痛が走る。

 それにも構わず双剣を押し倒し馬乗りになると、ようやく試合終了のアナウンスが聞こえてきた。


「終わりだ。

 誰かを殺すなんて、もう止めろ。

 君の未来を君が壊すな」


 太腿に突き刺さったナイフを引き抜き投げ捨てるが、目の前がぼやけてくる……。


「そのナイフ。

 毒が塗ってあるんだ。

 僕は使命を果たした。

 もう大丈夫、みんな助かるんだ。

 もう大丈夫なんだ」


「毒……だって?

 誰が……助かるって……」



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