友になった日
暗く、そして臭い。
地下水路には所々灯りはあるものの、歩くには不便なくらいだった。まして、女の子を背負って歩くにはとてもじゃない。
ここは大戦時に、人々が逃げ隠れしていた下水らしい。
爺さんの住処にある隠し通路を通って来たのだが、一向に出口らしき明かりも見えない。
「ここらで休憩か」
特に追手らしき気配もなければ、返事を返してくれる気配もない。
そう、病室を出た後に追われたのだが、どうやら撒けたらしい。
隠し通路に至るには当然簡単に見つからない幾つかのトラップが仕掛けてある。ようやく見つけたとしても、下水なんて一つな訳もなく簡単に誤誘導されてしまう。
背負っていた女の子壁際へと降ろし、隣に座り込む。
「ん……。
こ……ここは……?」
「気づいたか?
大丈夫か?」
話かけた途端、一瞬にして距離を取り睨みつけられた。
「おいおい、オレが助けてやったんだ。
追われてたんだろ?」
「あなたは、違うっていうかにゃ!」
「な……なにがだよ。
追ってる奴等とは違うし、お前をどうこうするつもりもないって」
焦った。
いきなりの敵視に予想もしていなかった。
「えっ?
怪我がこんなに早く。
手当て……してくれたんだにゃ……」
「手当てはしたけど、そんなに腕振り回して……。
平気、なのか?」
「うん、かなり良くなってるからもう平気だと思うにゃ。
あとは舐めれば治るにゃ」
あんな怪我でもう平気だって?
いくらマリエルでもそんな一瞬で治すなんて聞いたことがない。今度はこっちが怪訝な顔になってしまう。
「薬草を使ってくれたんだにゃ。
ありがと」
どんな薬草を使ったのかわからないが、疑いも晴れたようで胸を撫で下ろしていると、包帯も外し始めた。が、一日で二度も目を疑う羽目になるとは。
「お……お前……?
頭と――しっぽ!?」
「頭……って、これ耳だよぉ。
しっぽは『自慢のしっぽ』なんだにゃ」
これにはまいった。
都会じゃこんな猫の格好が流行っていたのか。服自体は動きやすそうな、いたって普通なのだが飾りに凝っているのか。
「なんで、そんな飾り付けてるんだ?
そうゆうのが流行ってるのか?」
「だから飾りじゃないにゃ。
わたしは人猫、人間じゃないにゃ」
人猫はすでに人間界から居なくなったハズだが。
「人猫が、な、なんでこんなところに?」
動揺が隠せなかった。
「っ!
それは……人間に攫われてきたからにゃっ!」
怒りを露わにしてオレを睨みつけている。
「そ、そうだったのか……。
なんと言っていいのか……」
「あっ!
君は悪くない、むしろ手当てまでしてくれたのに。
ご、ごめんにゃ」
「いや、いいんだ。
同じ人間がしたことなら、オレが責められても仕方がないから」
「にゃぁ、ごめん。
そうだ!
わたしはミィっていうにゃ。
君は?」
「オレはレイヴ。
ミィか、よろしくな。
もう歩けそうなら、そろそろ行かないか?
こんなとこは早く出ようぜ」
「わたしは大丈夫にゃ。
それじゃあ行こうにゃ」
色々と驚くことが多かったが、ミィと名乗る人猫と共に出口へ向かい歩きだす。
「これからどうするんだ?
オレには行く宛てがないんだが」
「わたしはママを助けに行くにゃ。
今も捕まってると思うから」
まさかミィだけではなく、母親にまで手を出していたのか。
「わたしとママは亜人界っていって、人猫や人狼とかのいるとこにいたんだにゃ。
ある日、ママと森にいたらキラキラした中から人間が現れたと思ったら眠くなって。
目を覚ましたら、手足を縛られて人間達の中にいたんだにゃ」
「それで助けに行くのか――分かった、オレも行こう。
ミィ一人じゃ心配だし、ここまで付き合ったんだ」
「えっ?
いいの?
助けてくれて治療までしてくれたのに悪い……」
言葉を途切らせ、歩みを止めると静かにするようオレは口を手で塞がれた。
「何かいるにゃ!
静かにして……」
追ってきた連中かと思ったが、どうも違うらしい。ミィの視線は前方を捉えたままだった。
下水の流れる音に混ざり、動物の鳴き声のようなものも聞こえてくる。
「ネズミじゃないのか?」
小声で囁き再び進むと、同じ目線の高さに光るものが二つ。段々と近づいてくる。
「ネズミだけど、おっきいにゃ」
ミィの言った通り、目の前には人と同じくらい大きなネズミが現れた。
こんなところにも魔獣が住み着いていたのか。
「わたしに任せるにゃ!」
制止する前に飛び出したミィを援護しようとしたが、大ネズミの前足を軽々と交わし素速い動きに何も出来ずにいた。
暗がりの中、ミィの姿を見失うと大ネズミが鳴き声を上げもがいていた。
タイミングを見計い狙いを定め魔法銃を構えるが、断末魔なのか一つ大きく鳴くと倒れ込み動かなくなるのが見える。
一回り大きく見える大ネズミを観察すると、ミィが首筋に噛みついたままだった。
「そのままこっちに来るな」
捕まえたと得意気に見せようとするミィを制止し、大ネズミから引き離した。
「せっかく捕まえたから見せたかったにゃ」
よく見ると、ひっかき傷も複数ついていた。
「本当に猫、なんだな」
驚きの眼差しをミィに向けるが、笑顔で頷いている。
「ネズミがいたから出口は近いかもにゃ。
行こう、レイヴ」
大ネズミを尻目に先を行くミィを追いかける。
今日は驚くことばかりで感覚が麻痺してきそうだった。
「待てって、一人じゃ危ないぞ」
人猫への耐性をつけるようと質問責めにしながら暫くすると、悪臭も弱まり薄すら光も見え始めてきた。
ようやく下水を出ると既に日は傾き始め、眼前には下水と繋がっている小川と森が広がっている。
「多分こっちかにゃ」
ミィの感覚を頼りに小川に沿って森を抜けると、平原へと出ることが出来た。
辺りを見回すと先ほどまでいたウェルミニアが小さく見えていた。
そう、これがオレとミィとの出会いだった。




