好きになるということ
「ま、まさか、予言を……見誤ったというのか」
「貴様がいたおかげで、メイルが……オレの元から離れていった!
国を想うメイルならその予言、従うだろう。
だがオレの気持ちは……メイルやオレの気持ちまで奪う予言など……。
予言などこの国には必要ない!」
「わ……私は、幼い頃から……二人を見てきたが……。
そうであったか。
あの、仲睦まじく微笑む、二人のままで……あったか」
「許せ、ディバイル。
この国もメイルも守ってみせる」
「ははは……。
間違っていたのは……私……だったのかも、知れません…………な…………」
あまりの衝撃的展開に言葉に出来ず、ただ茫然と見ているしかなかった。
それは、オレの発言が元になった結果だったかも知れないからだ。
「ここまで来たのだ。
貴様がなぜ婚約者なのだ?」
アーサーはディバイルを静かに横たわらせると、オレに向かい問い掛ける。その瞳にはうっすらと涙が浮かんでいた。
「それは……メイルに直接聞くといいさ。
ディバイルが予言者で亡くなった今、オレがこの国に留まる理由は無くなった」
「そうか。
少なくともディバイルに関連していたと。
すまないな、命を狙い」
「いや、まさかメイルに意中の人がいるとは思っていなかったから。
オレも、軽はずみな行動だったのかも知れない」
「では、部屋に戻るがいい。
メイルを問いただし、その後のことは追って連絡するとしよう」
背を向けたアーサーに返事をし、大広間を後にすると仲間達の部屋へと足を向けた。
オレ達の今後にも影響があるこのことは、一刻も早く知らせるべきだと。
「どうしたにゃぁ、こんな夜中にぃ」
「悪いな、寝てたところ。
予言者についての展開があったんだ。
と、ミィ……その格好」
「にゃ……!
バカレイヴ!」
薄着だったミィが乱暴に扉を閉めると部屋の外で待たされ、しばらくすると、ルニが中へと招き入れてくれた。
「リズは寝かせておいていいでしょ?
ミィは……落ちついたら出て来ると思うけど」
「だな。
急展開だったから、話したほうが良いと思って」
ソファに落ち着くと順を追って細かく話すが、途中ミィが出て来たおかげでややこしくなってしまった。
「だから結果として、ディバイルは予言者だったんだが、それを騎士隊長のアーサーってやつが殺し、アーサーはメイルと恋仲だったってわけさ」
「すると、この国には居る必要が無くなったってこと?
これで大丈夫かしら?」
ルニは物分かりが良くて助かる。
「解決したってことでいいにゃ。
女王とも、ようやくお別れにゃ」
ルニとは違い、なんとも楽観的な猫娘だ。こうも真逆な性格なのに気が合うとは、不思議で仕方ない。
「解決に至ったかどうか。
アーサーがメイルに依頼内容を聞くみたいだが、ことによっては破局になったり、ディバイルの時のように怒りのあまりメイルをってことも。
確実に無いとは言い切れないからな」
「そう思うわ。
レイヴへの嫉妬で暗殺者を雇ったり、恋路の邪魔をしたディバイルを殺したり。
そういう人こそ、どう出るか分からないわね。
一途なのには憧れるけど」
「まだ何か起きるかもにゃ?
この城の中は複雑にゃ」
人間が多く集まるところでは、それだけ多くの想いもあり、一筋縄ではいかないってことだろう。特に、愛や恋、嫉妬や怒りなど強い感情が行き交う中では。
「もし何か起きるとなれば、それが一番大変な事になってくると思う。
そして、唯一邪魔なのが、全てを知っているオレ達ってことだ」
「リズも居るのに、それはマズイにゃ。
夜襲も有り得るってことだと、どうするにゃ?」
「そこなんだが。
オレが部屋へ戻ったら、ここもオレも危ういかも知れない。
となると、オレがここにいるべきだと思うんだが、さすがに少しは眠りたい」
「私は別にいいわよ。
リズを守るのが私の役目だから。
あとは、ミィさえよければだね」
これだけで言いたいことが伝わったらしく、にやけ顔でオレとミィを交互に見比べる。
「べ、別にレイヴがこの部屋に居たって、わたしだって構わないにゃ。
わたしのベッドはあっちだし、勝手にソファで寝てればいいにゃ」
やっぱり話さなきゃ伝わらないのかと、意を決してオレがと思ったがルニがすかさず後を持ってくれた。
「そうじゃないのよ、ミィ。
レイヴがここで寝てるときに襲われたら、誰がすぐ助けてくれるの?
私達が寝室にいたら助けるのが遅れるわ。
誰かがレイヴと一緒にこの部屋にいてあげないと。
でも、私はリズの傍にいてあげたいし。
となると……」
「わたしにゃ!?
で、で、でも、ここにはソファが一つと、イスくらいしかないにゃ!
ど、ど、ど、ど、どうやって寝る気にゃ!?」
なにを焦ってるんだか、一緒に野宿だってしたことがあるというのに。
「オレがソファで寝る。
ミィは床で寝るか、それともさっきまで寝てたから起きててもい……」
冗談のつもりで言ったんだがルニには通じてなかったらしく、オレの脇腹をつねると、ミィにソファで寝るように言った。
「最初から床で寝るつもりだったさ。
これでも、床で寝るのは得意だからな」
「だったら分かりづらい冗談は止めて。
しかもこんな状況で」
警戒しなければいけない状況のことか、惚けているミィの状況のことか、どちらのことかは分からないが、とにかくミィの了解を得ないことには。
「ミィがソファで、オレが床。
これでいいか?」
「いい、いいにゃ。
ただし、近づいたらタダじゃおかないにゃ。
寝ててもわたしの耳は健在なんだからにゃ!」
それを知っていたから、ここで寝ると言ったんだが。こういった状況だと、ミィの耳に頼るしかないのだから。
「リズが寝てるんだから、本当に変なことは止めてね。
私だってレイヴ達と気まずくなっちゃうんだから、本当にお願いね」
そこまで信用がないのかオレは。
「それじゃあ、何かあったら起こしてね。
おやすみなさい」
毛布をよこすとルニが寝室へ戻り、ミィが部屋の灯りを消すとソファへと横たわる。
「なぁミィ。
恋愛感情って、大変なんだな」
しばらく横になっていたが、まだ寝息は聞こえず起きている様子だったので、少し話そうと声を掛けてみた。
「な、何をいきなりにゃ。
大変だとは思うけど、誰かを何かを犠牲にしてまで愛するとか、まだ分からないにゃ」
「だよな。
そりゃ、場合によっては障害もあるだろうが、殺めたり陥れたりすることが、本当の愛なんだろうか……」
女王と騎士、そこまでの障害は無かったはずなのに、たった一つの予言でこんなことにまで発展してしまった。
暗い部屋で話すと、なんだか落ち着いて語り合える気分になるが、色々あったおかげで瞼が重くなってきた。
「どうなんだかにゃ。
レイヴは誰かを……誰かを好きになったり……愛したことってあるかにゃ?」
「オレか?
オレは………………」




