生と愛〔過日譚 十一 終〕
オレ達が動くよりも先に予言者の男がミィに向かい何かを投げると、ミィの足と周りを一瞬にして凍りつかせた。
「さすがに分が悪いのでね、氷球を使わせていただきました。
決着がつく頃には溶けるので心配要りませんよ」
「ちっ!
ミィ、少し我慢しててくれよ」
「冷たいけど、大丈夫にゃ」
魔法銃を構えるが予言者の男はまた即座に投げつける。動けないミィに向かって。
「あぶないっ! 」
咄嗟に魔法銃を持つ手で球を割ると、オレの右手が真っ赤に燃える。あまりの熱さにおもわず魔法銃を放してしまう。
「今度は火か。
動けない者を狙うとは」
「闘いというのは常に非情にならなければならないのですよ。
夢や理想ばかりで、目の前のことが分からなくなっているのでしょう。
現実とはこういうものです」
遠距離ではこれの繰り返しになってしまう。
魔法銃は拾わず、一気に間を詰めようと走りだしたところにまたも飛んでくる。それを左手で弾くと今度は腕が重く冷たく感じるが、構わず右手に小剣を構えまたも投げようとしている腕を切りつけた。
「ぐぅぅおぉぉ!」
自身の身体に球を落とすと衣服が燃え出し、懐にしまい込んでいた球が連鎖的に割れたのか、炎と冷気を交互に浴びると、果ては電撃により凄惨な身体になり成り果てた。
「こんな結末が、お前の望んだ結末か?」
「わたしだっ……て人の子。
自分のいのちは……惜しい……ですよ。
ですが……未来の為、これからの……人間の為には……命を捨てる覚悟も……悪になる覚悟も……ありましたから…………」
「おい!
まだ死ぬなっ!
予言者は他にどこにいる!?
何人いる!?」
「……世…………に…………は…………七………………」
「おいっ!
くそっ」
どうやって人猫を亜人界から誘拐してきたのか等、聞きたいことはまだあったのに息を引き取ってしまった。
「ミィ、どうだ?
動けるか?」
「うん、少し痛いけどもう動けるにゃ」
凍りつかされていた足を動かし暖めていると、ミィが魔法の扉を解除した時のような音が鳴りだした。
「開いたにゃっ!
ママ!」
痛みが残っているだろうにも関わらず隣の部屋へと駆け込むミィにすぐさま続くと、そこには裸のままの人猫が壁に手を縛られ座り込んでいた。
「っ!?
ママっ!!」
男達は更に扉の向こうへと逃げて行くが、ミィの母親を見ると絶望感から追う気力がなくなった。
傷だらけで生臭い匂いからも陵辱されていたのだと想像できた。
「ママ!!
助けに来たよっ!
しっかりして!」
「ミ……ミィなの?
……よかった、無事で」
やっとのことで出来た再会なのに、まさかこんな形になろうとは。
かける言葉は一言も見つからないが、裸のままではと思い上着をかけてあげた。
「……あなたは……?」
「この人がわたしを助けてくれて、ここまでついて来てくれたにゃ」
「そう……良い人に出会えて良かったわ……。
あなたもありがとう」
「お礼なんかより逃げましょう!
今、鎖を切ります!」
「私はもう……。
それよりもミィをお願いするわ……」
「ヤダ!
ここまで来たんだにゃ!
ママも一緒にゃっ!!」
「クソっ!
ここまで来たんだ、絶対助けてやるっ!」
迫りくる怒声に焦りを感じ、手首に繋がれた鎖に小剣を叩きつける。
あとは右手だけだというのに、すぐ傍まで足音が聞こえている。
「レイヴ!
早くするにゃ!」
「私はいいから……二人とも……早く……。
ミィ……」
「ママ!
ママっ!!
レイヴ、早く!」
「愛しているわ……ミィ……」
「よしっ!
さぁ、掴まって!」
差し伸べた手を掴むことは無かった。
「ウソだろ!?
ミィ、背負うから手伝え!」
涙を流すミィに叫び、背負うと同時に盾を構えた男達が入ってきた。
ボロボロになった小剣を投げつけ、振り向くことなく来た通路を戻る。
「ミィ、早くしろよ!」
後ろで足止めしてくれているので、オレはひたすらに走るだけだった。
鉄格子の中まで抜けると遅れてミィも出てくるが、多少の傷を負っているのが見てとれる。
「鍵を早く!」
ミィの心配より先に、とにかく時間をかせぎ森から出る手段を考えると、厩舎の前に止まっていた馬車を思い出した。
「あれだっ!」
馬車に母親を寝かせるとまだ息はあるが、一刻を争うには間違い無かった。
「ミィ、乗れっ!」
飛び乗ったミィを確認し馬を操り街の出口を、森の出口を目指す。
後ろから聞こえる話し声で意識が戻ったのかと安心するが、森からは魔者、街からは馬で追っ手も迫っていた。
「えぇい、大盤振る舞いだっ!」
馬を停めると後方へ【魔閃】で目くらましをし、すかさず前方へ今持つ魔弾の中でも、最高の威力かつ全てをを凪ぎ払う【爆魔烈風】を放つ。
範囲内にある魔者や木々を全て吹き飛ばすと、森の一部が更地と化した。
「どうしたにゃ!?」
急ぎ馬を走らせるとミィに大丈夫だと伝え、顔を引っ込ませる。
来た道と違い、何度か馬車が通ったであろう一本道と化した地を馬が足早に通り抜けるが未だ出口が見えない。
「まだか、まだかっ!!」
一刻も早く聖術を施してもらう為に、神殿へ向かわねばならない。
ここからだと森を抜け、西の国境付近にあったと確認している。
「見えたっ!
出口だ、ミィ!」
声は聞こえてると思うが、何も反応がない。
森を出てしばらく行ったところで馬車を停め、中を除くが……。
「うぉぉぉ!!」
怒り、無念、悲しみ、悔しさ、色々な感情に襲われ、それを大地に叩きつけることしか出来なかった。
「今まで……今まで助ける為にここまで来たのに!
助けたハズなのに!
どうして!
……くっ……うぉぉぉ!」
育ての親しか居ないオレにはミィを妹と感じ、自分の母を助けるように思っていたのかも知れない。
「……レイヴ……」
不意にミィがオレの頭を包み込む。
「ごめん、ごめんよ……助けられなかった……。
助けると約束したのに!」
「……ううん。
レイヴは悪くないにゃ……」
「そう、悪いのは……悪いのは人間だ……。
人間なんて……魔神の心に触れて出来た人の中間。
……だったら人間は……人間なんて全て滅んでしまえば…………」
「レイヴ、それは違うにゃ……。
ママはそんなこと思ってなかったにゃ……悪い人間ばかりじゃないって。
レイヴは良い子だって言ってた……。
……マ……マ?
うん、分かったにゃ。
へへ、泣かないようにするにゃ」
ミィの胸から離れ涙の後を拭ってやると、朝焼けの空を見上げた。
「今ね、ママがお別れの挨拶に来たにゃ。
レイヴは強い子でしょ?
ミィを守ってくれた良い子でしょ?
貴方の周りにも良い人はいたハズよ。
だったら憎しみに囚われないでって言ってたにゃ」
腐街という街の最下層で両親も居ずに育ったが、爺さんやマリ姉のような素晴らしい人物と出会っていた。なのに今オレは、その人達をも殺そうとしていた。
身近にいると忘れがちになってしまう思いやりを思い出させてくれた。
オレは助けたつもりだったが、どうやらミィの母親に助けられたようだ。
「……ありがとう」
伝わらないであろうが、天に向かいミィの母親へと感謝の言葉を贈った。




