突入〔過日譚 九〕
小さな塔の隣には厩舎などがあり、そこには馬車も停まっていた。
「あそこだろうな。
だが、どうやって入る?
あの警備兵をどうにかしないと」
「武器も持ってるにゃ。
こっそり入るにはムリがあるにゃ……そうだ!
わたしが囮になるにゃ!」
「どうやって?」
「多分、わたしを見ると追ってくるにゃ。
中に母さんがいるなら人猫は捕まえたいハズにゃ」
「危険だがやってみるしかないか。
ただ、二人を引きつけないと意味がないぞ」
「わたしを誰だと思ってるにゃ?
これでも猫なんだから、人間になんて簡単に捕まらないんだにゃ」
捕まって人間界に来ていることを忘れているのか?
「なら魔法銃の射程まで引きつけてくれ。
オレが飛び出したら、すぐに撃つから気をつけろよ」
「了解にゃ。
すぐ連れて来るからにゃ」
廃屋を背に一人機会を待つ暗闇の中、魔者たちの呻き声がより緊張を高ぶらせる。
失敗でもしたら、ミィの母親を助け出すことは困難になるだろう。そう思うと握る魔法銃に力が籠もり、一瞬一瞬がやけに長く感じる。
どれくらい待っただろうか、足音と声が薄っすら聞こえ始めた。
壁づたいに覗き見ると動く影は三つ、上手くやってくれてるみたいだ。
段々と近づいてくるのが分かり、飛び出す機会に集中する。近すぎるとミィに当たり、遠すぎると魔弾が届かず、魔法が発動してしまう。
「…………………ミィ!!」
飛び出し、叫ぶと同時に魔弾が一直線に飛んでいく。
タイミングは完璧、ミィが飛び退くと後には【魔縛】に捕らわれた警備兵がもがいていた。
すぐさま駆け寄り小剣を向けると、観念したのかもがくのも止めた。
「聞きたいことがある。
あそこには何がある?」
「……知らねぇな……」
「一人、淫魔女の餌食にすれば言ってくれるかもにゃ」
しらばっくれる警備兵への苛立ちからか、ミィらしからぬ思いもよらない発言をした。
「オレが話す!
何でも言う!」
「この状況だ、それが正しいと思うぞ」
ミィの脅しをより本気に取らせる為、合いの手をわざと入れる。
「オ……オレも言うから、淫魔女は勘弁してくれ」
なんだかアルの言動に近くなっている気がして、微笑んでしまった。
「ホントだ!
本当に言うから!」
「ん?
あぁ……では、あそこはなんだ?」
暗い中で微笑んだのが項をそうし、脅しではないように見えたのだろう。
「あそこは施設。
研究施設だ!」
「貧民や奴隷を連れて来ては、人体実験や魔法の抽出をやっている!」
「そう!
魔者も捕まえて研究やらしているところだ」
聞いてもないことを言ってくれるところをみると、何でも教えてくれそうだ。
「なら最近、人猫が運ばれてこなかったか?」
「来た来た!
運ばれてきた。
噂じゃ、どっかの研究所から運んで来たって話だ」
「あぁ、特別扱いされてたみたいだったな。
魔術師みたいのが数人一緒だったって」
ここで正解だったようだ。
「どこにいるにゃ!
どうやって入るにゃ!」
目の色を変えたミィが首筋に爪を立て、一人に詰め寄った。
「ひぃっ!
う、裏口から入れば誰にも見つからず行ける、と思う」
「そ、そうだ、今ならそこは手薄なハズ。
夜は魔者の進入を警戒するので手一杯だから」
「裏口ってどこにゃ!?」
「そ、それなら厩舎の中、奥に鉄格子があるからその中に入口が。
こ、この腰の鍵で開けられる」
「行くにゃ!
レイヴ!」
「だな!
と、その前に。
悪いが今度は眠っててもらうよ」
去り際に振り向き警備兵に【魔痺】を打ち込んでおく。魔法の効力は永遠ではないが、起きていられると面倒になるかもしれない。
辺りの警戒も忘れ、裏口へ向かうミィを追いかける。
相棒のように感じていた背中を見ていると、まだ少女なんだと忘れかけていた思いが呼び起こされる。
「この奥だにゃ。
レイヴはお馬さんが騒がないように、静かにゆっくりついてくるにゃ」
猫だから馬の扱いにも慣れていると信じ、ぴったりと後ろについていく。が、扱いがどうこうではなく、聞きなれない言葉を発し話をしているようだ。
「静かにしてれば、騒がないって言ってるにゃ」
ミィを信じ馬を横目に静かに通り過ぎると、牢獄のような鉄格子に囲まれた部屋に扉があった。




