終極の塔〔過日譚 八〕
「あら?
若くて良い男じゃない?」
不意にした声に、振り向きざまに魔法銃を構える。
「何者だ!?」
布一枚羽織っただけの出で立ちの女性が、開け放たれたドアの柱にもたれかかっている。
「あら、そんな怖い顔しないで。
さっきは興奮してくれたかしら?」
情事を行っていた女性だろう、まさか気配を悟られていたとは。
「そんなことより、こんなとこで何してる!?」
「何って?
あなた達が聞いてたとおりよ」
舌舐めずりしながら近づいてくる妖艶な雰囲気に、意識が朦朧としてくる。
「それ以上近づくな!
敵とみなすぞ!」
「あら、あなたもしたいんでしょ?
あ・た・し・と」
魔法銃がこれ以上にない重さに感じ、その場へ落とすと女性の手が顔に触れる。
この感覚をずっと味わっていたい気分になっていく。
「ちょ、ちょっと、レイヴ!?
どうしたにゃ!?
しっかりするにゃ!」
ミィの声が聞こえるが、放っておいて欲しい。
オレはこの人と…………。
…………………………
…………………………
…………………………
「っ!
オレは何をしてた!?」
頭が重く感じる。あの感覚は一体なんだったのか、記憶が定かではない。
「もう大丈夫にゃ。
この人……って言えばいいのかにゃ、魔人の淫魔女」
「魔人だって!?
それならっ!」
「血の気の多い子ね。
こういう子すごく好きよ」
「もぉ!
淫魔女!
やめるにゃ、約束したにゃ!」
「ふふ。
分かってるわよ、仔猫ちゃん。
艶魔力は出してないでしょ」
オレの知らないところで話が進んでいるようだが。
「魔人なのに大丈夫なのか?
それに約束って……」
「この魔人なら大丈夫にゃ。
元々、淫魔女って男性を誘惑して精気を奪い取って生きてるにゃ。
けど、この淫魔女は男性に困ってないみたいで、今すぐ精気が必要なワケじゃないらしいにゃ」
「そう。
今は、ね」
「オレは艶魔力で誘惑されて……精気を抜かれそうになってたのか!?」
「そうだけど、さっき精気を取ったばかりで要らないらしいにゃ」
「クソ不味かったけどね。
やっぱり、若くて血の気が多い子ほど美味しいわ。
簡単に廃人にならないし」
淫魔女がウインクをしてくるが、気にすることで誘惑に負ける気がして視線を外す。
「さっきのあれか。
すると相手は」
「とっくに廃人よ。
気持ちよく堕ちたのだから満足してるでしょ」
確かに痛い思いをするよりはと思うが、それでも人に害を及ぼすのであれば。
「しかし、そうやって人を――」
「あれは、人間からの贈り物よ。
好きにしてもいいと。
私は好き好んで争いたくない主義なの。
だから、仔猫ちゃんと約束させてもらったわ」
「約束ってなんだ?」
「にゃあ?
それに関しては、秘密にゃ。
今は約束の前にすることがあるんだにゃ」
何やら都合の良くないことでも取り付けたようだ。
母親を助け出すことは一番に優先すべきことだが、思わず淫魔女に視線を送ってしまった。
「だそうよ。
あたしを見ても仔猫ちゃんが秘密っていうなら、言えないわ。
代わりに教えてあげられる情報はあるわ」
淫魔女が窓辺へ立ち、オレ達を招き寄せる。
「仔猫ちゃんにはあそこに見える館の事、話したわよね?
あそこはもう、簡単に人が近寄れない場所よ。
言うなれば魔窟といったところね。
魔人もいるけど、魔者の棲家と化しているわ。
ほら、あの黒い点、あれは魔鳥石の群れ。
人間共が沢山造ったおかげであんなにいっぱい」
「ってことは、あそこに人間は居ないってことか?」
「えぇ、あそこには居ないわね。
居たとしても、バカな冒険者。
あそこに行って生きてた人間は見たことないわね」
「すると、人間が居そうな所とはどこだ?」
「前に馬車を何度か見たことがあるけど、あの館から左手に、ほら、あれ。
小さな塔があるでしょ?
あの辺りに向かっていたわ」
「あそこか。
ありがとう、淫魔女。
ミィ行こうか」
「ちょっとちょっと。
ここまで教えてやったんだから、約束。
忘れないでよ」
「分かってるにゃ。
あとでレイヴには話しておくにゃ」
淫魔女と別れ小さな塔を目指す。
途中、暗さが増すと魔者の動きが活発化しているのか、屍喰鬼やらの魔者と一戦交える羽目になったが、これを軽く退けると目的の場所付近まで辿り着いた。




