魔都ルドルへの道〔過日譚 六〕
アル達と別れてから数日、雲一つない青空を見上げながら街道もない平原を地図だけを頼りに進んで行く。
「どこに向かってるにゃ?
地図見てもさっぱりにゃ」
魔都ルドル。
地図に示されたそこは、帝国領と王国領の間に存在し、今では誰も近寄らない魔の都と呼ばれている所だった。
「聞いた話だが、魔法大戦の折りに帝国が魔界と繋ぎ、魔者を率いて戦争を有利に進めようとしたらしいんだが、その後すぐに魔群の反乱にあって。
それで帝国が領土を放棄し、今では魔者の巣窟になっているらしい」
「あいつらを支配しようなんて無茶にゃ。
あんな知性の低いヤツらは従うわけないにゃ」
「確かにな。
魔者の中でも頭が良いのもいると思うが、所詮理性を抑えられないのが魔者だからなぁ」
その魔者も魔都に近づくにつれ、遭遇率を高めている。となると、もうすぐルドルの森が姿を現す筈だ。
「レイヴ、ずっと向こうに森がある……けど、黒いにゃ。
ほんとに森なのかにゃ?」
「そう、その森の中に魔都があるんだ。
長い間放置されてたから森に囲まれたが、その森も魔者の臭気を吸ってたから、暗く黒い森に育ったらしいな」
「あんな所に母さんが……」
「少し急ぐか?」
いつもとは違う真に迫った顔でミィが頷く。
日が落ちる前に出来るだけやり過ごしたくもあった為、急いで森に近づくことにした。
「こんなにおどろおどろしいのか」
森を目の前にすると、臭気が目に見えるかのような異様な雰囲気に包まれている。
「行けるか?
ミィ」
「うん!
行くにゃ!」
強い意志を感じオレも身を引き締めると、一歩一歩確かめるかのように森へと踏み出した。
「何だか気味悪いにゃ……これが森だなんて信じられないにゃ……」
「多分ミィの知ってる森や湖じゃないところは、この世界には沢山あるらしい。
魔法大戦で焼けただれた森や毒の湖なんかはあるって聞いたよ」
「そう……人間は破壊が本当に好きみたいだにゃ。
人間だって自然と共存出来るハズなのに」
「どうしても利便性を求めたり、権威をひけらかしたいんだよ。
オレはあんな所で育ったから、自然のある方がいいんだがな」
少し言い訳じみた感じはしたが、ミィの言うことには深く共感する。
「ふぅん。
――ちょっと待つにゃ」
腕を横に伸ばしオレの歩みを止める。ミィの五感の優れを知っている為、周りの木々と同化するよう気配も消す。
「……いる。
これは人間じゃないにゃ。
大きい魔者……」
少し前に遭遇した大ネズミが頭をよぎる。あれならばミィがいる以上、大したことはないのだが。
「こっちへ来るにゃ!
多分、人間の匂いを嗅ぎ分けたにゃ!」
木々を掻き分け現した姿は、人よりも高く溢れんばかりの筋肉を身に付け、手には大鎌を携えていた。
「こいつは……食人鬼にゃ!」
爺さんの話で聞いたことがある。人を大鎌で襲い、それを喰らう魔者がいると。
戦うか否か、迷う間もなく鼻息荒くこちらに向かってきた。
「ミィ!
あまり派手にやりたくない!
牽制だけしてくれ!」
「了解にゃ! 足を止めるにゃ!!」
大きな音を出し、魔都に居るであろう研究員に知られたくない。
ミィが引きつけている間に魔弾の入れ替えをする、一撃で葬れる弾に。
ミィは何度も大鎌をかわし、食人鬼の足を切り裂いていくと、ようやく動きが鈍くなった。
「よし!
ミィ、離れろ!」
咄嗟のことでも瞬発力に長けるミィには造作もないように思えた。
食人鬼の空いた胸元を【氷槍】が貫くと、一瞬の間を置き前のめりに伏した。
風穴の空いた胸元は凍りつき、動く気配はなくなった。
「怪我はないか?」
「ナメてもらっちゃ困るにゃ。
あの程度の魔者一人でもいけるにゃ」
爪に付いた食人鬼の血を振り落としながら、意気揚々と隣に立つ。
「なら、次は一人で頼むよ。
弾を使わなくて済むしな」
「にゃにゃにゃ、一人でも良いけど二人の方が楽だと思うにゃ」
焦るミィを笑いながら先へ進む。まだ森に入ったばかりだというのに、こんな魔者がいるとは先が思いやられる。
道なき森を慎重に、ミィの耳を頼りに奥へと進む。
魔都を中心に広がった森だ、中心に近づくにつれ魔者との遭遇は高まるが、どうにかやり過ごしながら進むと高い壁が姿を見せた。




