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第一話

 「兄さん。朝ご飯の支度ができたって」

 桃色のバンダナを頭に巻いた少年は、背もたれのない木製の丸い椅子に座りながら気球のイラストが表紙に印刷された雑誌を読んでいる「兄さん」と呼ばれる青年に声をかけた。

 さらさらとなめらかな色合いが美しい黒髪と上流に流れる水のような色のした眼を持つ青年は、雑誌のページを一枚めくった。

 「......兄さん、朝ご飯冷めちゃうよ?」

 少年は、すこし心配そうな声で、「兄さん」に言った。

 朝の優しい陽射しが、青年の顔に被さった。しかし、青年は太陽の光にも、気にせず、雑誌を読み続けた。

 少年は、自分の言葉に全く耳を貸さない青年にたいし、腹をたてた。

 「兄さん!いい加減にしてよ!」

 少年は、小さな手を握って、こぶしをつくった。

 そして、ずんずんと大きな足音をたてながら、青年の傍に行き、青年が夢中になって読んでいる本の「天」と呼ばれる部分、本上部を思い切り引っ張った。

 すると青年の手からあっさりと雑誌が離れた。

 「あれれ?」

 突然、視界が床になったことに青年は疑問に思った。

 

 青年は、しばらく眼をぱちくりと速いまばたきをした。

 先ほどまで、本のあった場所に手を置く。

 そして彼は、前にいる少年にようやく気がついた。 青年は、雑誌を閉じてそれをわきにはさみながらむすっとした表情で、腕を組んでいる少年に

 「やぁ、ラグ!元気かね?」といけしゃあしゃあに言った。

 ラグと呼ばれる少年は、信じられないと言った目つきで、兄さんを強くにらみつけた。

 兄さんは、薄く微笑みながら、こちらを見ている。 こちらの胸中を全く考えていないだろうなとラグは思いながら、のほほんとした雰囲気を持った青年を眺めた。

 窓の外で雀が一羽、樹の上に止まりながらチュンチュン鳴いていた。青年は、鳴く声の方に眼を向ける。 ラグは再び苛立ってきた。そして少年期独特の高い声で怒鳴った。


 「にいさん!!」

 身体がポッポッポと小さく火照るような感覚を持ちながら喉で、叫んだ。

 腹から声を出すというのが幼い彼は、知らなかったからどうしても高い悲鳴のような声になってしまっていた。

 自分の苛立ちを兄さんにぶつけたい一心での叫び声だった。

 青年は、幼い少年の小柄な体躯からでる大きな声にビクッと体を震わせて驚いた。

 ラグは、そこからさらに続けようとしたが、次の言葉が思いつかなかった。

幼い彼は、まだ語彙が豊富ではなかったのだ。

 青年は、そんなラグの姿に謎の感動を持っていた。 こんなちっちゃいからだからどうやって声がでるのだろう?

 青年は、ラグの行動に興味津々だった。

 彼は、ラグと口喧嘩しても勝てる自信があったから、ラグの行動をのんびり観察をしていた。

 ラグは、唇を噛んで、少し眼をうるうるとさせていた。

 おっ泣いちゃう?

 青年は、泣いたらめんどくさいなぁと思いながらラグの顔を眺めていた。

しかし、彼にとって予想外の行動をラグはした。


 「おかあさまー!」

 なんと母親に頼るという選択をとったのである。

 ラグは、母親のいるキッチンの方へ走っていった。

 その際ラグは、雑誌を落としていった。

 青年は、ラグの行動に対し、

 「ま、子供じゃあこんな程度かな」

 と少々の落胆を持ちながら、雑誌を拾って、ベッドの傍にある本棚に入れた。

 「どうしたの?お兄さんにいじめられたの?」

 母親の声が部屋まで、聞こえた。

 青年は、ラグのぐしぐしと顔を林檎のように赤くしながら泣いている姿を想像しながら、部屋を出た。


 雀の鳴き声は、もう聞こえなかった。

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