サヨナラ、僕
転生。
「とはいっても、あなたが考えているような物ではないでしょうがね」
と管理人は、あらかじめ釘をさした。
転生。
本当は、土へ還るのが普通なのである。
これは、自然に還ることで自らの存在を無に戻す方法である。
無に戻った魂は、
再び、現世へ生まれ戻るのを待つのである。
転生のなかでは最も、
簡単なものらしい。
「いやいや簡単と言うか普通はこうなんですよ。
前世にどんなに善い行いや悪い行いをした者も皆、平等に土へと還る」
では、あんたが言う転生とはなんだ?
これが普通のことならば、当たり前ではない方法もあるのか?
管理人は、質問に答えた。
「はい。あります。そしてそれこそがあなたに対して行う転生の方法です」
......転生の方法?
「はい」
管理人は答えた。
「どんな方法だ。」
僕は口に出して言った。 口調が乱暴になってきていた。
管理人は、右手を上にと左手を下に対称的な方向に中に微妙に浮かせて、中心に円の形をつくって見せた。
それは、えっとなんたら魚のように見えた。あの黒いのと白いのがぐるぐるしてるやつ。
......なぜ、それをイメージしてしまったのかは、僕自身わからなかったが。
管理人は続ける。
「あなたの魂を受精卵にまで、還元します。」
ふむふむ。あの丸いのは、そういう意味だったか。
管理人は、そのまま無表情で、続ける。
「で、それをどっかしらの生き物にでも放り投げます。」
......ん?雲行きが怪しくなってきた。
「すると、雌がたちまち孕みます!以上!」
「うぉい!」
何か思ったよりも、雑! と思うとその考えを読んだ管理人は、鼻でフンッと笑った。
「まさか、荘厳でめんどくさい儀式でもやると想像したのですか?」
いやらしい笑みで笑う。
僕は、まさにそんなイメージだったから、悔しくて唇をかんだ。
「おやおや。
そんなににらみつけないでくださいよぅ。
というかあれですよ。
そんな面倒なことするぐらいだったら家で、小説読んだ方がよっぽど楽しいです。
なろうとか読んだ方がよっぽど面白いです。
知能を持った生き物は、どうも形式にこだわるのですよ。
全く、見ていて煩わしい。やるならさっさとやれって話ですよね?
戴冠式にせよ死刑にせよ」
どんなに厳かでも、死んだらなくなるのですから。短い人生をそんなものに削っては勿体ないと思います。短い人生のなかで、如何に楽しむかもたいせつなことですよ。
管理人は、そう言って、僕の手に何かを握らせた。
「何ですか?これ」
20面サイコロのようにかくばったものをもたされている。
管理人は、にやっとして、「なぁに。ほんの餞別ですよ。持ってて損はないはず」
「えっでも、これって...?」
僕が言い終わる前に管理人は、指を鳴らすと何もない空間から、巨大な扉をだした。
大理石なようなものでつくられており、なんとも不思議な形のした錠で、その中央が凹っとなっており、青くなっている、いがいはなんとも無機質な扉だった。管理人は、懐から丸いわっかとそれにはめられている様々な鍵を出した。
鍵と鍵とがぶつかり合いじゃらじゃらと音が鳴る。 管理人は、その中から一つ手に取り、鍵穴に差し込み捻ると錠の中央が緑色に変わった。
「さてと。じゅんびができました」
「......ほんとに大丈夫ですよね?」
僕は情けない声を出した
管理人は相変わらずの表情で、言った。
「それは、神のみぞをしる、全ての森羅万象で大丈夫は存在しません。だけど生きてさえいれば、多少の困難があっても、どうにかなるもんです」
管理人は、ドアを開ける。外からくるあたたかい光が眩しくて、思わず目を閉じた。
管理人は、僕の肩に手を置く。暖かい手だ。
僕は、顔をあげて、管理人を眺めた。
管理人は、微笑みながら、とびらのむこうへ手を伸ばしながら
「さぁ、外にはあなたの知らない未知の世界が広がっています!目を背けず、存分に味わって下さい!」
と僕の背中を押した。
僕は、顔はないけど、微笑んだつもりで、ゆっくりゆっくり、歩いた。
やがて、外に出た。
「うわぁ!」
床が無かった。
しかし、床がない恐怖よりも解放されたような歓喜の方が勝った。
......そこは、眩しくなるほど、美しい満天の空が広がっていた。
蒼く美しい海が広がっていた。
緑色の大地が、広がっていた。
僕は、空中で管理人さんの方へ振り向いた。
管理人さんは、落ちてゆく僕に小さく手を振っていた。
僕は、管理人さんに向かって精一杯、大きな声で叫んだ。
「ありがとう!いってきます!」
きっと、死後最後の挨拶になるであろう、
「僕」というちっぽけな人間の最後の言葉になるだろう言葉。
管理人さんは、言った。 「さようなら」
本当は、何て言ったのかわからないけれど。
僕は、この星の大地に落下しながら思った。
「さようなら僕。」
僕は、体勢をなるべく保ちながら少しでもこの星を見ようとした。
この星に宇宙技術があるかわからないから。
でも、最後にみた光景は、僕を驚かせた。
天をも超える巨大な大木が僕の目の前にあった。
僕は、その大きさに圧倒されるのと同時に疑問に思った。
――――どうして気づかなかったんだろう?
それが僕という人間においての最後の独白であり、疑問であった。
次回よりようやく本編であります。