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運命の選択

 不注意だった。

と言えば許されるだろうか?

 うっかりしてた。

 連日の重労働で、寝不足だったんだ。

 とでも言えば、許してもらえるのだろうか?


  

 ――――いや、そんなはずがない。

 そんな、明らかに、

 自動車事故を起こした人間のような理由で、

 そんなことで、許してもらえるはずがないではないか。


 男は、唇を強くかんだ。顔は、涙でグショグショだった。


 今回の事故、事件は、

すべて私のせいだ。

 私が、悪いのだ。

 私のせいだ。

 私のせいで....かれは、死んだ....!

 私の大切な親友は、倉庫の天井に押し潰されて死んだ。

 

 男は、壁をつよく叩いた。コンクリートの固い壁であるはずなのに、壁にひびが入った。しかし反動で、男の手の甲にが赤く染まる。しかし、男は痛みに眉を潜めず、流した涙を拭くため、赤い手のひらで、顔を強い力で拭った。

 男は、泣いた。

 それは、大切な親友への弔いのためか?

 

 


 事故当時、彼は、男と女が動けないでいるのが目に入った。

 普通なら、二人ともかかえて、倉庫から脱出することができるはずだった。


 彼は、二人を抱えるだけの力を持っていた。

 日々の重労働のなかで鍛えあげられた筋肉は、

 彼の自慢である。

 

 しかし、今回は、場合が違った。


 男と女の間に空いている距離が広かったのだ。


 さらに、男の方は、砂袋が覆っており、どかすのに手間がかかりそうだった。 彼は、一瞬だけ迷った。

 だが、ぐずぐずしている暇はない。とにかく助けにいかねば。と彼は、行動に移した。


 彼は、まず、女性の方に近寄った。さっきから呼び掛けても応答がないのだ。

 彼女は、気絶していた。

 何らかのショックで。

 理由は、知らないがいっけんすると、大した怪我ではなかった。


 とりあえず安心した。

 だが、すぐに病院に運ばねばならない。

 見た目、怪我がなくても内部では大怪我の可能性があるからだ。

 彼は女性を脇で抱えた。

 小柄なせいか軽かった。 いつも運んでいる鉄筋コンクリートよりかよっぽど軽い。 彼は、少し笑う。

 (この軽さなら男も運ぶことができるかも。)と

 少しだけ希望が出てきた。

 男の方を見た。


 男は、恐らく上から落ちたであろういくつかの砂袋の下敷きになっていた。

 


 彼は、素早く男の方へ走る。

 天井は、ギシギシと軋んだ音をたてていた。


 

 僕は、男のそばに近寄り「大丈夫ですか!?すぐに助けます!」

 と女性を慎重に床に寝かせてから、

 砂袋をどかす作業にはいった。

 砂袋は、思ったよりも重く、いつもだったら持ち上げるのに苦労するが、

 火事場のバカ力を発揮したらしく、砂袋がまるで、ひょいひょい持ち上げどかした。

 まぁ皮肉にも確かに火事場である。火の海だ。

 彼は、全ての砂袋をどかした。

 男は、仰向けになって倒れていた。

 「動けますか?」

 男は、ウウウと低い声で呻いた。彼の体全体を見ると彼は眉を潜めた。

 男は、恐らく落ちてきたものにぶつかりその際、右足を痛めたのだろう。


 男の右足の方向がおかしかった。

 捻挫のレベルではない、むしろ複雑骨折と判断すべき。そして、

 恐らく、この男は、まともに歩くことすらままならない――――――。 彼はそう考え、男を起こす。

 続いてペチペチと頬を軽く叩く。

 「うう、ここは?」

 すると男が意識を取り戻した。 

 「今、何らかの事故が原因で、倉庫が崩落しかけています。――――すぐに脱出しなければ、巻き込まれて死んでしまうと思われます。」と素早く手短に説明した。

 男は、現場を見渡し、

 青ざめた。

 赤い炎と対照的だと彼は思った。


 天井がガタガタと揺れているのが耳にはいった。


 「急ぎましょう。......動けますか?」

 「ああ。だい、ッッ!」 と男は、大丈夫と言いかける前に悶絶した。

 忘れていた痛みが戻ってきたのだ。

 男の激痛を我慢するような顔を見て、これはまずいと眉間にシワを寄せた。


 「手を貸せば、歩けますか?」と聞くと。

 彼は、傷みを我慢しながら、「ああ。それなら行けるかも.....」

 と答えた。

 よし。ならばすぐに行動だ。


 彼は、出口の方を見た。

 (出口まで、数十メートルは、あるか?僕一人ならば十秒もかからず走り抜けられるが、二人を運びながらだと三十秒以上かかる可能性があるな。)

 まぁなにがともあれ運ぶのには変わりはない。



 彼は、女性を片手で、持ち上げる。


 すると、男は、ようやく女性の存在に気づいたらしく、少し驚いた後、

 男は、彼に恐る恐る聞いた。

 「見る限り、意識がないようだが、生きているのか?彼女。」

 彼は首を振る。

 「わからない。でも、ここで置いとくわけにはいかないだろう?」

 男は、一瞬考え込んだが、納得したようだった。

 

 男は、歯を割らんばかりに噛み縛りながら立ち上がる。右足を少し宙に浮かせながら、左足で立つ。

 

 男は、既に泣きそうだった。


 「よく頑張ったな」

 と賞賛すると

 「ありがとう」

 と返事が来た。

 

 彼は、女性を肩にのせながら、男性の腰に手をやる。倒れないようにバランスをとっているのである。


 ふと女性の方に顔を向けると、髪の毛と顔が、煤だらけ担っていた。

 床に置いていたせいか。


 ところで女性を持ち上げる体勢がまるで、米俵を持ち上げているようで、

 彼は、苦笑した。

 男は、それを見て

 「余裕だな」

 と皮肉ると

 「まぁね」

 と返した。

 男も口を横一文字に結んで笑った。

 「行けるなこれは。」

 「ああ。」

 笑えるぐらい余裕があるのだから。


 「行くぞ」

 僕は、僕らは、生きる希望を持って前に進んだのだった。

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