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妖精さん大活躍

「医療術部 特殊治療室。 魔術医メイ・サキサカ。以前俺が出した許可は花壇の作成だったはずだが?」


エドガー・フォルクス隊長が腕を組んで仁王立ちする足元で、メイは正座をし、しょんぼりとうなだれていた。

メイの後ろの妖精達も、座ってしょんぼり。

その妖精達の後ろの花園?では、極彩色の巨大なキノコがひしめき合い、恐ろしいスピードでにょっきにょっきと生えていた。


「…花はどこだ」


ごもっとも。


エドガー・フォルクス隊長は、午前中のほとんどを執務室で過ごし、書類作業に追われている。

副隊長達によって部屋に閉じ込められている。


(新兵が怯えます。彼らの目の届くところに出没しないで下さい)


ひどい言いがかりだ。


(顔が怖い、声が怖い、目付きが悪い。

貴族出身で王都の学院は首席卒業。剣の腕は砦一番。存在が嫌みそのもの。

新兵の成長を阻害します)


本物の言いがかりである。

だが副隊長達の言い分は続きがあった。


(彼らは砦に来て初めて敵国の兵や盗賊、魔獣と戦います。彼らが恐怖し、乗り越えるべきはこの三つ。

隊長が一番の恐怖になると、『隊長以外は怖くない』などとアホな刷り込みがされて油断を生みます)


もっともだとは言えないが、実例のある言い分だった。


(修羅場を経験した兵には隊長が敵ではなく味方で良かったと評判なんですから、おっさんだけ相手にして下さい)


副隊長達のよってたかっての理詰めで

隊長は午後以降、熟練者対象の訓練でしか剣を持たせてもらえないので

少々不満だ。

隊長とて、好きで怯えさせているわけではないというのに。


(多少の失敗を積み重ね努力して成長するのです。あなたは失敗がないから、いくら経験を積んでも人の苦労がわからない。それを『怖い』と思う人はいるのです)


わかるようで、わからない。

深く考え込む隊長は顔が声が目付きが怖くなるのに自覚がない。


__大失敗をした奴は、どうすりゃいいんだ。


もっこもっこ。わっさわっさ。

キノコはまだ成長していた。


大失敗をしたメイは、栄養のある食べ物を育てよう!と妖精に持ちかけたらしい。


「煮ても焼いても生でも美味しくて、毒が無くて、栄養のある植物をお願いしました」


採取班の妖精達は大張り切りで外へ出て、耕し班とメイは魔力で植物がすぐにでも育つように、準備した。


異世界召喚者の農地改革は、手段としては悪くない。目的も正しい。

ただ場所が悪かった。


「で、魔獣の森で採取した野菜が、この毒々しいキノコか」

「いえ、種や苗などをメインにちゃんと採ってきてくれたのです!キノコは柄が面白かったからと、手土産程度に」


魔獣の森は闇深く、暗い。

陽のささぬ場所でひっそりと育ったキノコが、

全属性の魔力を帯びた土に植えちゃったら、種や苗を追い抜いて、あらまぁ不思議。こうなっちゃいました。


紫の地色に黄色の水玉。青とピンク、(だいだい)と黒などの目に悪い配色はまだマシで。

女の生足が地面から生えているような形や、粘液らしきものを滴らせていたり、びっしりと毛に覆われている


およそキノコと思えない物体わんさか。


「でもでも、ちゃんと美味しいのですよ!全部味見しました」

「したのか」

「まずは生で」

「火を通せよ」

「火を通すと肉汁たっぷりに大変身」

「キノコから肉汁ってどうなってんだ」

「それはもう、水玉柄は魔獣の肉に勝るとも劣らぬ味と食感でして。生足っぽいのは魚の赤身肉、赤ちゃんの手のひらにしか見えないあれは、吸うと牛乳っぽい汁が」


一つ一つ説明するメイ。

ちっとも反省した様子は無い。


「ね?ね?近くで見るとキノコですが、遠目から花畑に見えなくもないですよね?花は食べられないけど、キノコは食べられるから、セーフですよね?」


そうきたか。

しかも自分で言って納得したのか、キノコの説明ついでに妖精と手を繋いで畑の周りを踊り出すメイ。さらに巨大化するキノコのほぼ山。


「メイ、あの粘液を滴らせている物体は食べ無かったのか?」

「ん?あれは妖精さんがまだ早いって、んん?隊長さんはもういい?

何でしょね」


妖精の一匹が、スカートで雫を受け止めて隊長の元へ飛んだ。

身振りで「口を開けろ」とせっつく。


絶対に嫌だ。


「あの、妖精さんが、美味しいよって。…嘘じゃないんです…」


またしょんぼりか。しょんぼりするなら下を向け。潤んだ瞳で見上げるな。

言ってやりたいが、口を開くわけにもいかない。


メイは妖精を信じて、一瞬の躊躇なく口にしたのに、隊長さんたらわからずやなんだから。


とでも言いたいのか、単に飽きたのか。スカートの中身を顔面にぶちまけた。


「なっ!」


次の瞬間、隊長の口内に芳醇な香りが広がる。熟成された濃厚なこれは…


「…酒?」


ふふ~ん。へへ~ん。ほっほ~ん。

どや顔の妖精が少々うざい。


「あぁお酒なんですか、そりゃメイはダメですねぇ」

「…かなり、強い酒だな。匂いは無いが、後味が強く、喉がやけそうだ」


香りが無いならお菓子に使えないかーっと呑気なメイを、隊長は滅多に見せない、とってもよい笑顔で頭を撫でくり回した。


「農園として申請を出せ。すぐに許可してやる。メイも妖精も頑張ったな。

砦の兵士達にも腹いっぱい食わせてやろう」

「はいっ!」

「特に栄養がある野菜は砦に必要だったものだ。よく気づいたな、メイ」

「保健室の先生ですから!」


そうだなよくやったと大盤振る舞いで褒める隊長。


「ただ、ここは馬が出入りする場所だ。奴らは臆病で繊細な動物だ。

花壇ならともかく、あのキノコのほぼ山に、外からは見えないようにする事は出来るか?」

「なるほど、できますよ!」


はいどぞ~っと両手をキノコのほぼ山に差し出すメイ。不可視の魔法が張られ、畑を囲んだ低い石棚だけが見える。


「うむ。それと生でもうまいとなると、新兵が夜半に忍び込むといけない。調理人と俺、メイ以外は侵入禁止だな」


はいどぞ~っと両手を差し出すと、


【秘密の園 入室には隊長さんからの許可が必要】


隊長の身長ほどの、デカイ看板が地面にぶすりと突き刺さる。


よしよしと頷いて、これから調理人を呼んで、厨房で料理の試作をしないかと誘う隊長。


「今日はナーグが昼から非番だ。もちろん妖精も一緒に、どうだ?」


大喜びのメイと妖精達。

魔獣の森に慣れているナーグなら、まぁ大丈夫だろう。


「今日のお夕飯に間に合いますかね?」

「既に今日の分は仕込みが始まっているから、まずは試食会だな」


ナーグを探しに並んで歩く、隊長とメイ。スリムになった妖精達も二列に並んで何故か歩いてついてきた。


「美味しくて栄養があるって、わかってくれるといいなぁ」


「…見た目ではなく、中身が重要だとすぐにわかるだろう」


片頬をくいと吊り上げた、隊長なりの笑顔に、

メイも満面の笑顔で「ですね!」と返したのだった。



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