ネリ・サランの疑問
国境警備隊が守る砦に赴任した当初の、新兵を目にしたメイの第一印象は「細っ」。
少年兵達の身体の薄っぺらさに驚いたのを覚えている。
…保健の先生は、皆さんの健康管理を行わなくてはいけませんよね。
うむうむ。
妖精と魔法を使って土いじりをしながら、メイは上機嫌だった。
秘密の花園を作るきっかけは、今朝の来客、ネリ・サランちゃんの何気ない一言。
「…胸を持ち上げてみたい」
自分は弓兵を目指しているから、大きな胸は望んでいないが、そこまで大きいと、日常生活に支障が無いか気になって最近眠れなかったから、ちょっと持たせて欲しい。
「はぁ、持つ、ですか?」
「うん。質量を実感してみたいの。
後ろから持ち上げてみてもいい?」
「?服の上からであればどうぞ」
早朝一番目の来訪者からの相談は、メイの胸に関してだった。
これが、「揉みたい」なら断っていた。
女子校時代、メイに同級生が「揉ませろ」とふざけて襲って来る時、とっても痛かったからだ。
掌打の勢いで掴まれたら、そら痛い。
同じ女ならわかって欲しいのだが、柔らかい肉の塊である。腕や足の骨を覆う筋肉とは種類が違う。
大きいと神経が鈍るとでも思うのか、
まぁまぁな握力で押し潰され、ねじられて、嫌な思いをしてきた。
痛い言っても、そんなに力を入れてないと言われるので、
じゃぁ片手でメイの胸を揉み、もう一方の手で同じ力を込めて自分の顔を鷲掴みにして見ろと言うと、
「確かに痛い」とわかってくれたが、
普通にやめてとお願いすればよかったと後日後悔した放課後の思い出である。
それはさておき。
ネリ・サランはメイの背後に立ち両脇から手を差し入れて、たわわな胸をそっと持ち上げたまま固まってしまった。
「……重いね」
「……まぁ」
「ちょっと屈んでもらえる?そう、下を向く感じで…重いね」
たふんったふんっ。
「日常生活で困る事は?」
「机の上に置くと怒られる、肩が凝る、階段で足元が見えない、走るのに邪魔、シャツ系の服が着れない、脇チャックが締めずらい?」
実演してみましょうそうしましょう。
メイはネリを椅子に座らせ背後に周り、よっこらしょと両肩に乳だけ乗せた。ずっしり。
「うん。肩が凝りそうだね」
続いて正面から向かい合い、ぴったりと抱きついて下を見てもらう。
「つま先どころか下腹も見えない」
脇チャックとは、身体の側面にある服の結び目のような物と説明。
やっぱり視界にある肉が邪魔で見えない。
ネリ・サランは晴れやかな顔で言い切った。
「弓を引くには思いっきり邪魔だね!」
邪魔と言い切られてちょっぴり複雑だが、今日はよく眠れそうだ!と良い笑顔なので、まぁ、よいのだろう。
「ありがとうねメイちゃん。うちは男所帯だったから、自分の胸がどこまで成長するか分からなくて不安だったの。
父に、母の胸は大きかったか?なんて聞けないし。
砦でちゃんとしたご飯を食べるようになってから背がどんどん伸びて不安でさぁ」
「…ちゃんとした、ご飯??」
「うん。豪華よね。成長期に砦で勤務できる子は幸せよね?」
豪華?豪華ですと?
メイはてっきり、宗教的な戒律の厳しい国だと思っていた。
質素倹約と言えば聞こえはいいが、薄味、具無し、塩辛いか甘いかの味付け。
ネリへの聞き取り調査の結果、
・そもそもの食材が少ない
・肉と言えば兎。魔獣の肉は贅沢品
・地の実(芋類)木の実(果実類)以外の葉物野菜は採取はするが、畑で育てる概念がない。
・隣接する国とは休戦状態なので、食糧の輸出入は制限されている。
・魔力があれば、生きていける。
「へぇ。メイちゃんの国は食べる物が沢山あるのね」
「細い人が多いのは、栄養失調ギリギリだからです!体調の維持に魔力を使わなければ、もっと強靭な肉体が手に入るはずです!」
「食べてみたいなぁ」
「メイにお任せ下さい!」
秘密の花園…異世界の美味しい食材を見つけ育てる実験場を作るのだ!
見つけるのも育てるのも、妖精さんだけどね!
見切り発車で他力本願。おまけに怖い物知らず。
面白そうだからやってみよう。
ダメだったら忘れよう。
そんなメイと、寝るか遊ぶかの妖精達は相性がとても良かった。
豊満な胸を所持している女性がコタツ机等によっこらと乗せるのは、頬杖のようなもので
お行儀は悪いですが、ぼんやり感が可愛いと思います。