秘密の花園
「秘密の花園に到着~!」
砦内の厩舎裏。古い屋根付きの井戸と雑草はびこる開けた空間を、花園と言い切ってみたメイ。
これから花園にするから、いいのだ。
本日早朝に受けた依頼を解決するには陽当たりもあり、よい場所であった。
まずは、と井戸に向かう。
「お、ポンプ式だ」
カラカラと縄を手繰るのも楽しいが、水の量を考えると有難い。
大きな桶が無かったので、送水口の下に範囲指定の魔方陣を描く。
メイの歩幅3歩分を直径とした円。
「まずは、水を注ぎます」
ポンプから勢いのある水が吹き出すのを見ながら、ポケットからまだ寝ている妖精達を取り出しては水に浮かべる。
親指大の妖精は水流に逆らうこともなくプカプカとたゆたい、まだ寝ている。
…縁日のスーパーボール掬いに見えてきた。カラフルだし。
メイの膝丈あたりで水を止めたので、よけいに似てしまった。
「次に魔力を注ぎまーす」
袖をまくった両手を水に漬け、手のひらから魔力が溶け出すイメージを作り、ゆっくりとかき混ぜながら注ぐ。
すると、何匹かのたゆたっていた妖精の目がカッと開かれ、くるりと身体を裏返して水に潜り出した。
「すかさず手を抜いて、蓋をします」
指を吸われる寸前に手を抜き、透明な水桶に魔方陣で蓋をした。
その間にも妖精は次々と目を覚まし、身体を裏返してメイの魔力に満ちた水をゴクゴクと飲み始める。
もしも裏から見れたのなら、穏やかな寝顔から一転して、必至の形相を見せた妖精に誰しもドン引きするだろう。
メイも見たくないので、膝丈の水で止めた。
蓋の魔方陣に手を当て、もう少しだけ魔力を注ぎ、とりあえず終了。
「はい、次は花園ですね」
しゃがみ込んで、地面の土を掴む。
やってみたかっただけだ。
都会育ちのメイは幼稚園の芋掘り程度でしか土を触った記憶しかないのだから。
「耕せばいいのですよ。耕せば」
農家の皆さん、楽をしてごめんなさい。
「まずは、音声遮断」
空中に魔法陣が青く浮かび上がった。
「範囲指定」「掘削」「分類」「撹拌」
バレーコート二面分の地面に網状の青い光がドーム型となって包まれる。
メイの声と同時に浮かんだそれぞれの魔法陣が網に触れると、地面が爆発した。
…なんかこう、土の中から白い岩が弾ける光景は、ポップコーンっぽいですねぇ。
どうしても祭り関連に例えてしまいがちだが、実際は、一面に仕掛けられた地雷が次々と爆発しているような
なかなか暴力的な光景が無音で繰り広げられているのだが、
いかんせん、頭の中が平和なメイの接続先は幸せな場面だけに限られていた。
「では妖精さん!お、お仕事ですよ!」
水槽を振り返ったメイは、あまりの光景に舌を噛んでしまった。
みっちり。
カラカラの親指大であった妖精達は、メイの魔力たっぷりの水を飲んで飲んで、飲みまくって。
ぷよんぷよんに膨らみ、透明の水槽に隙間なくぎゅうぎゅうに詰まっていた。
精巧な細工のようであった妖精が、あら不思議。たった五分で3頭身のファンシーな姿に。
…シュールだ。
事前のイメージでは、スーパーボールから大きさを変え、カラーボールへの詰め合わせっぽくなると思っていたのに、
これでは南高梅の詰め合わせである。
ま、いっか。
「それでは皆さん。あの場所を畑、いや花園にするお手伝いをお願いします」
蓋を開けながら語りかけると、((イイヨー))((ワカッター)とみっちみちの妖精達からよいお返事。
の、わりには。羽根は動くのだが、身体が重くて浮かない様子。
(ゴメンネ)(ゴメン)と食べ過ぎ?を反省する妖精を一匹ずつ救出するはめになった。
「私も加減間違えましたね~」
大きな瞳を潤ませる妖精を、機嫌良く救いあげるメイ。
__お腹周りが太り過ぎたチワワっぽくて可愛い。
梅干しから大出世である。
ヨタヨタと半数の二足歩行のおデブチワワ、いや妖精達が畑へと歩き、
半数は残って、(アッチ ナゲテ)(ボク アッチ)メイに遠投を頼んだ。
植物の種や苗を探しに行くらしい。
リクエストに答え、次から次へと投げるメイ。コントロールはからきしだが、一度勢いがつくと、羽根で進路を軌道修正出来るのか、
四方八方に砦から飛び立って行った。
余談として。
メイの目にはカラフルにうつる妖精は、一般人には半透明に見えるらしい。
運の悪い事に、砦の物見台にその日立っていた真面目な友人リュードに全部見られていた。
すくっては投げ、すくっては投げるメイを目撃した心優しき友人は、
「物陰で踊りの練習をするなら付き合うからちゃんと相談しなさい」
と大層心配してくれたらしい。