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おまかせください

__彼らが揉める理由。芽衣を魔王かの如く恐れる理由とは何か。


扉には、鍵をかけていない。

その代わりに、張り紙があった。

砦の最高責任者自筆の書。

その張り紙が彼らにとって問題だった。



一、保健室への入室は自己判断です。


二、治療結果について、一切の苦情を受け付けません。


三、保健医メイ・サキサカは魔術医です。


四、保健室内での治療は無料ですが、魔術を行う際、患者当人から問答無用で少々の代償が必要となります。


五、砦の兵士は、自らの判断により近在の町医者からの治療を受けることもできますが、その場合、治療に関する治療費用は実費負担となります。



傷ついた兵士達は、お互いを支え合いながら、もう一度張り紙をよく読んだ。


「…お前早く行けよぉ!血が止まってないじゃないか!」

「お前が早く行けよぉ!毒が回りきってるじゃねぇか!」



ここは、国境警備隊が守るサライラスの砦。

新兵たちは1年間、地獄の訓練に耐え続けなければいけない。

そしてまた、国の方針により全ての軍属は、身分、階級、年齢を問わず年に3ヶ月。サライラス砦での勤務が義務化されていた。


国境沿いに広がる、魔獣の森。

隣国からの侵入者。

国境付近に出没する、盗賊団。


国内安全の為、治安維持の為、彼らは日夜戦う。


一切の手抜かりも油断もない。

守る為に彼らは戦い、時に傷を負う。


まぁまぁの致命傷も負う。


今現在、保健室前でぎゃぁぎゃぁと騒ぐ二人は、まぁまぁの致命傷だ。


「往生際が悪い」の見本と化した彼らは、朦朧としだした頭の端で、

(このまま気絶すれば、優しい誰かが町医者のところまで運んでくれるかもしれない)と淡い期待を抱き初めていた。


「__お前ら、さぼりか?」


傷だらけの兵士達の背後から、低く錆た声が響く。


「__メイが茶菓子を用意しているとか言ってたな。ほぅ、貴様ら、茶菓子目当てに午後からの俺の訓練をさぼるとでも?」


ヒタ。…ヒタ…ヒタ。


およそ人間ではあり得ない足音を立てて近寄る影。

彼ら自身が流した血溜まりを踏んだがゆえの効果音なのだが、声の主に恐れ震える兵士達にはわからない。


そりゃ怖い。

片方は全身に刀傷を負いながら流血中、

片方も全身に刀傷それと魔獣の噛み跡から毒が回って青ざめているのにもかかわらず、


「「第一声がさぼりか?って酷いですよ隊長!」」


恐怖を乗り越え、思わず振り返って叫んでしまった相手は、


エドガー・フォルクス。

サライラス砦国境警備隊隊長である。


「__触れたな?」


隊長の片頬がわずかにつりあがる。

触れた?何に?隊長の逆鱗に?

だとすれば何故彼は微笑むのか。


後退ろうとした兵士は、それぞれの肩の一部が既に壁に着いてしまった事にようやく気づく。

いや、壁ではない、これは__


「メイ、重傷者二名だ!扉に触れたのは俺が確認した。中へ入れてやれ!」


『おまかせください!』


室内から、待ってました!の自信に満ちた声が答えた。


__違うんだメイちゃん、俺には王都に待つ彼女が__

__やめてくれメイちゃん、俺には王都で彼女を作る予定が__


扉に触れ、彼女に「患者」認定された者は問答無用。押し扉を模した、実は接触型の自動ドア。

彼らと彼女を隔てていた物はしゅるりと天井に巻き取られて消えた。


笑顔いっぱいの眼鏡ッ子が仁王立ちでお出迎え。


「こんにちは!今日はどうされましたか!?」


誰が見ても致命傷だが、お約束の台詞はどうしても言いたかった。


ちなみに、この段階で既に拘束・音声遮断の魔法陣で兵士達は縛られ、

問答不可能の状態である。

問診無用のメイだからこその力技。


互いを抱きしめ合ってガクガク震える兵士達。


「サキサカ・メイにおまかせください!」


彼女が右手を空に指すと、複雑な文様を描いた魔法陣が現れ、

左手のひらをを空に向ければ、半透明の水と風の妖精が現れた。


治療に必要な、ありとあらゆる魔法、魔術のオンパレードが部屋を埋め尽くす。


__これが、古の魔術師が封印した__


彼女がもう少し雰囲気を重視するのであれば、ここで詠唱の一つや二つ唱えればそれらしくなったのだが…


頭上に上げた両手を、一気に前に差し出し彼女が唱える言葉は、単純明快。


「はいっどーぞっ!!」


そのまんま。

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