妖精さんの不思議
__「妖精と契約?してませんよ。その辺りに転がっているのを回収して、一緒に遊んだらバイバイです」
妖精は基本、遊ぶか寝るか。
メイは、妖精さんを遊びに誘っているだけ。
妖精の栄養は空中に漂う薄い魔力。
濃厚な魔力を提供すれば、彼らの属性を生かした魔法で応えてくれる。
太古から伝わる複雑な魔法陣や長い長い詠唱を唱えても契約が難しいと言われるのは、ただ妖精が飽きただけだ。
メイはそれを、料理に例えた。
お食事会をしましょうと誘われて、目の前で「まず、この野菜の皮を剥きます」と言われたら、驚くでしょう?
どんな料理になるのかの説明よりも先に、次、野菜を切ります。次も、野菜を切りますなどと手順をいらない所まで説明するのが、詠唱です。無駄なんですよねぇ。
__なるほど。メイは説明が下手くそなのは分かった。
隊長は、「よく見えるメガネ」により初めて目にする妖精の姿に、本人が思うよりも少し、いやかなり興奮してしまっていたのでメイの話しは右から左だった。むしろ右の耳にすら辿りついていまい。
保健室中を歩き回って妖精を見つけては、
(ハァ~イ)
「おぉ、美しい」
ひと言ふた言褒めてから何故か敬礼。
眠っている妖精には、じっくり観察をしてから、目礼。
つい先ほどまでソファでゴロ寝を堪能していたダメ人間が、きりりと表情を引き締めてまるで別人。美人ってすごい。ちっちゃいけど。
メイは半透明と言ったが、実際、人の目にうつる魔力を得た妖精の姿と言えば、輪郭のぼやけた、人型の淡い光。
絵にしたとしても、頭と手足がわかる程度の一本線で終わるだろう。
目鼻口は窪みや尖りがあるらしいと近づけば見られるであろうが…。
犬が尻尾で感情を表現するように、
妖精は飛び方や光の点滅で意思表示が出来る。
先日も、メイの後ろで反省していた妖精は、油の切れかけたランプのように
またたいていた。
「妖精とは、美人が多いのだな」
悩ましいため息をつく隊長に、メイは無言で返し、同意は示さない。
魔力を吸いすぎてぷりっぷりに膨張した姿は、ギリギリ可愛い。すれすれのかろうじてだ。いっそ隊長に見せて評価が同じか聞いてみたい。
「しかし…眠っている妖精も多いが、大丈夫なのか?」
「魔力を渡すと起きますよ?」
「いや、場所がだな。いささか自由すぎやしないかと」
通常、眠っている妖精は発光しない。
なのでてっきり森から呼んでいるのだと思っていた。
スリッパの中、カーテンの裏、食器棚の隙間から、小さな眠る妖精を見つけた。
「虫っぽいですよね。カラカラで硬いし」
「俺がためらった単語第二位だな」
「一位は?」
「埃」
ドングリがコロコロと二つ並んでた。
お互いセンスが無い奴と蔑んだ目をしているドングリ隊長とドングリ先生。
「何にせよ、普段見えなくとも我々警備隊は常日頃妖精の世話になっている。しかるべき場所を準備すべきじゃないか?
メイ。お前は遊びだと言うが、仕事を手伝ってもらっている相手をもう少し、」
「しかるべき場所!なるほど!しかるべき場所はメイには難しいから、隊長さんにお任せです!」
いつもなら、「メイにお任せ下さい!」の流れであるが、今回は隊長にお願いをした。
どーぞをせず、じゃぁじゃぁと隊長の背中を出口に押し出す。
「じゃぁ、今日一日、メガネお貸しいたしますので、この砦の!隊長さんがっ眠る妖精さん達のために!遊びではない場所を探して下さればよかれと!」
「何だ。メガネ借りれるのか」
「気が済んでも返さなくていいですよ?妖精さん観察を楽しんで下さいませ」
明らかに、メイは何かを企んでいる。
困り眉毛がピクついているのだ。それがわからぬ隊長ではないが、メガネを通して見える世界は魅力的である。
…まぁ、受けて立ってやろうじゃないか。
隊長は既に自分の物であるかのようにメガネの位置を中指で押し上げ、ポーズを決めた。
「…任されてやろう」
負けじとメイも、カラカラの妖精を摘みあげ、目の前でぶらぶらと揺らして挑発する。
「お任しさせ、しさせ?てあげてやりますよ!」
顔もポーズも決まっていたが、慣れぬセリフなので、やっぱり噛んだ。