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メイちゃんとお小遣い

メイは砦の隊長から、一日5時間以上の就業は禁止されている。

朝は10時から12時まで。

昼は2時から5時まで。


急病人、怪我人への対応を24時間1人で受け持ち、交代要員がいないのが表向きの理由。

「給料が払えん」が本当の理由。


特にメイは、基本給がべらぼうに高いらしい。

昔からの慣習で医療に特化した治療術師よりも

開発研究に引きこもる魔術師が基本給が高い。またメイはランキング的にも一番の技術者。おまけに本人の知らない間に貴族位もあった。


ぶっちゃけ、給料は隊長の倍以上だ。


ひょぇぇ。


貨幣価値どころか通貨単位もうろ覚えのメイも、隊長の倍と聞かされてアホな声が出た。


「隊長さんのオヤツ食べてしまいましたぁ」


そこじゃない。けどちゃんと謝ろうね。


だが、メイの給料について決定する際に、議会が出した金額に難癖をつけてゼロを足したのも、隊長である。


「あれ?でも私、お小遣い制ですよ?」


1日1000ゲックル硬貨。日本円で約千円。

衣食住を支給品で賄える分、高待遇だと思っている。

もっとも、あまり使う用途がないので溜まる一方だが。


「メイちゃんのお給料は、身元引受人の王都にいらっしゃる将軍に一年分払われている事になっているの」


初年度のみ。隊長が足した部分は、戦闘行為中に戦死した兵への遺族保証費、または負傷兵の治療及びリハビリ費用として「運用」されているらしい。


「来年度からは、ちゃんと元のお給料が支払われるからね。隊長がきちんと説明していなくてごめんなさい」


砦の財務担当であるタミヤ女史からの細やかな説明に、メイはひたすら頭を下げた。


王都の知人に手紙を書こうと思ったメイは「封筒余ってませんか?」と気軽に財務部を訪れたのだ。

郵便の制度はないらしいので、なら王都に戻る兵に手渡しをお願いすればいっかーと、貧乏性丸出しである。


購買部の存在を知らなかった為だが、

まさかの貧乏性発言に、財務部が揺れた。


卒倒しそうなタミヤ女史の解説に、下げた頭を羞恥から上げられないメイ。


「ちゃんと隊長からお伺いしていたのに、覚えてなかったのは私ですからっ」


単位を覚えても使い勝手がわからず、

(わかんないので、三食分の食費を一日分のお小遣いで下さい。残りは隊長さんか将軍さん預かって下さいね)と自分からお願いしていたのを、完全に忘れていた。隊長さんごめんなさい。


衣食住が満たされるって、恐ろしい。

テレビやネットがない世界な上に、世間から隔離した砦で過ごしていたら

物欲が無くなっていたのだ。


最初の一年は10パーセントを税金で使うとも説明されていた。


『お前の給料の一部は世の為人の為の税金だかんな』が隊長の説明。

生まれた時から消費税が既にあった世代のメイは、今年の給料の10パーセントが良い事に使われているのなら


どーぞどーぞである。


「軍部の予算はなかなか動かしずらくてね。兵の人数が百や二百上下しても、増額は認められないの」


百人が命を任務中に落としても、翌年に二百人が入るなら、同じ。

それが政治である。

履歴が真っ白なメイが砦に赴任するとの決定は、大きな金額を動かせるチャンスであった。


申し訳ないが、翌年からは全額支払うから、初年度から一部を譲って欲しい。


そんな説得が成されていたと思っていたのに。


タミヤ女史はメイの、ほわんほわん、はへ?とした顔を見ると、そこまでの説明を求められていないのがわかった。わかってしまった。


_隊長が説明を投げ出した気持ちがよくわかる。でも私は財務部なのよ!

きちっとしなければ!


「嬉しいなぁ〜」

「…はい?」

「いやぁ、嬉しいですよ〜」


頬に両手をあてて、にやける口元をマッサージするメイ。


「えっと、普通はね、怒るとこだと思うのよ?お金の、とんでもない単位が勝手に運用、天引き流用されてるって今理解したのよね?」


タミヤ女史言っちゃった。

運用とは名ばかりの、書類に残せない流用って言ってもた。


「いやぁ、どーぞどーぞですよ。

だって、砦の兵士さんの病気はメイが治せますけど、兵を辞めてしまった人には、お会いする機会が無いでしょ?でも、メイの魔力が届かない場所にお金が届くなら、嬉しいです」


リハビリに苦しむ人は、会った事はないけれど、

砦にいる誰かの、友達かもしれない。

兄弟、あるいは親子かもしれない。


財務部は、来客用のソファでにやにやと笑うメイを静かに見つめた。


「あ、でも、奉仕精神ってわけじゃないですよ?お仕事をして、内容を認めていただいて戴くお金を、困っている人にばら撒く趣味はないです。

ノーブルブル?のように、貴族様の考えも、わかんないです」


でも、ね。


「私は、砦の兵士さん達に守ってもらってますから。戦えない私を守ってくれる人の、知り合いや家族が必要とするなら、私のお金です。使って下さい」


きっぱりと言い切ったメイに、タミヤ女史は笑ってしまう。


「それも、はいどーぞ?」

「どーぞどーぞです!メイは保健室の先生ですからっ」


わっはっはと豪快に笑い声をあげるメイに、皆も釣られてしまった。


「1割と言わずに5割毎年使っちゃえばいいのですよ!お菓子と下着の替えぐらいしか使わないのですから!」

「それはダメよっ!」

「実感が無い今のうちにつけ込みましょうよ!悪代官になれるチャンスですよ!」

「代官じゃないから、財務部員だから」

「そちも悪よのう?」

「何を言わせたいのっ!」


やいのやいのと騒ぐだけ騒いで、お土産に可愛らしい便箋と封筒をもらってしまったメイ。


お小遣いは、まだ使えてないけれど、

隊長のお菓子をつまみ食いした分はきっちりと引かれたらしい。


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