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副隊長3〜5の試練

国境警備隊の第三副隊長、ジョンヒ・クータ。

第四副隊長、サリナ・ワッカ。


砦で噂の美女二人は、長年のライバルだった。


ジョンヒは妖艶系、サリナは純朴系。


ジョンヒは弓、サリナは槍。

ジョンヒは魔獣の森で暴れ

サリナは街道を荒らす盗賊を根絶やしに…。


ライバルはライバルでも、恋のライバル。

相手はお約束だが隊長だ。

そしてこれもお約束だが、彼は鈍感だ。


第五副隊長のカシアン・ダルボアは砦に来るまで自分の人生を嫌っていなかった。

彼は昔から数字が好きで、一人で数式を紐解くのを楽しみ、仲間達と問題を出し合って語らう学院時代は輝きに満ちていた。


…だからといって、こんな仕事がしたかったわけじゃない。


計算、計算、計算。足して引いてまとめるだけの日々。計算、計算、


「あらサリナ、また鎧変えたって?」

「少し汚れたから、修理に出しただけよ」

「返り血を浴びるなんて未熟なんじゃない?」

「追われる女なの私。追うだけのジョンヒには一生わからないだろうけど」


…女らしい会話してくれよ!頼むから!

鎧変えたの?って、香水変えた?の口調で言わないでよ!


「サリナの僧帽筋がまた成長しちゃったかと思ったのよ」

「ジョンヒの上腕三頭筋ほど育てたくはないわね」


…筋肉の部位名で会話しないで欲しい!育つってなんだよ!


牽制し合う美女二人は、カシアンの書類待ちである。

カシアンは計算は好きだが、早いわけではない。

彼女達は身体だけでなく計算能力も高い。カシアンが二日かけた仕事を、半日でミス無く済ませる。

競う位置にも立てないほどの実力差。


そのさらに先を行く、隊長の存在。


カシアンは、隊長を知った時、「嫌だ」と感じた。

嫉妬をするような卑屈な感情が自分の中にあるのが嫌だ。

美女二人に想われているのに鈍感な隊長を見て、イラつく自分は何様だと嫌悪した。


…そして胃を壊して血を吐き、保健室へ運ばれた。


『_カシアンさんは、根が暗いのですよ。妬み嫉みは気持ちいいなと認めたら、楽になれますよ。実害さえ無ければいいんじゃないですか?』

_それは、人としてクズなんじゃ。

『クズっすねぇ。友達にはなりたくないですねぇ』

__だろう?

『でも隊長さんは友達じゃなくて、仕事相手ですから。カシアンさんが根暗でも、いいと思いますよ?』


…カシアンは左耳の上にハゲが出来た。

メイの言い分は、欲しい言葉ではなかったし、根暗と連呼されてまぁまぁ傷ついたけれど。


「ジョンヒさん、サリナさんを観察する前に、隊長を直視する練習をして下さい。サリナさんもです。

競うのは勝手ですがね、お肌の調子ぐらい気にしなさい。僕の方がツヤツヤですよ」

「ひどいわカシアンのくせに!」

「カシアンはこんな子じゃなかったわ!」


それは俺もそう思う。


あの日から、妬むつもりで隊長をずっと見ていた。

すると、完璧なのは大変そうな事に気づく。

あの人は、実はよく狼狽えている。足並みを揃えるのが、恐ろしく下手だ。

書類処理が早すぎて時間をもて余し、

本人は軽い訓練のつもりでも、バタバタと気絶する隊員に流行り病かと本気で心配をしていた。



カシアンの中にあった、(ねた)(そね)みは自然と姿を消し_


_ただの嫌味な奴に生まれ変わった。


これでよかったのか、俺。


楽になったのは、メイの言う通りで。

ろくに口のきけなかった隊長に、やれ顔が怖い、存在が若手を阻害するなどと嫌味をネチネチと言っても、

不満そうではあるが、嫌われた気はしなかった。


苦手だった美女の二人も、「女らしくしたって、エドガー隊長は気づいてくれない!」と、一番大切な物を最初に捨て、有能で信頼できる「部下」になってしまったが為にいまだ迷走中である。


「貴方たちが隊長の新兵訓練で張り切り過ぎなければ、隊長が若手に怖がられることもなかったのに」


「そ、それは良い所を見て欲しくて」


模擬戦なのに本気を出しすぎ、二人同時に隊長に沈められたのだ。


「まぁあの人も、大人気ない所がたまにありますけどね。口で言えばいい事を実力行使するし」

「でも、ぶっきらぼうだけど人の話しはちゃんと聞いて、素直だわ」

「メイちゃんは隊長を陰険だって言うのよ?愚痴なんて吐かない人なのに」


なんやかんやと仲の良い三人はこの後、真面目青年リュード君からの伝言を受け取る。


【新作料理の試食会に、副隊長、班長をこっそりお招きするようにと…】


そして、彼らは舌がとろけ、頬が落ちそうなほどに美味い料理を堪能する。

給仕によると、栄養化が高く、砦内での農園で安定した供給が望めるとのこと。絶賛する、隊長の部下達。


「この後あの花園に案内すればいいのですね?」


別室に顔を出したのは、給仕を仰せ使った、ナーグの後輩。

「そうだ。余った料理は厨房で食っていい」

隊長は、料理長のナーグと厨房奥の食材置き場で隠れながら酒を交わしていた。


メイは、白い手袋のようなものを両手で握って、ちゅうちゅう吸っている。


「隊長さんはやっぱり陰険ですねぇ。

何も一晩閉じ込めなくても」

「奴らは見た目に左右されるからな。恐怖と空腹を乗り越えて見た目ではない、中身の価値に気づくといい」

「そう言えばいいのに、わざわざ好青年を使わなくても。陰険隊長さんです」


ニヤニヤと悪い顔で笑う隊長と、試食した料理が美味しかったのでやっぱりご機嫌なメイ。


明日からのメニューをどうしようかと箱に詰めこんだキノコを眺め楽しそうなナーグ。


そして、そんな三人の背後に一人

見た目無害そうだからと呼ばれたメイのお友達リュードは、


「…火を通さなくてもいけますね。うん。弾力があって、海の魚に似てる。塩が欲しいな」


お駄賃にともらったキノコを、生のまま噛み付いて食べていた。

青白い生足にか見えないソレを、火を通さずいくのかお前…。


「ん。こっちの豚鼻っぽいキノコは柑橘系のようですよ。おぉ、絞ると汁が。これはいいですね」


新鮮な魚の赤身肉に似たキノコに、柑橘系の汁を直接絞り、大胆にガツガツと噛み付く腹ペコ青年。


「…お前の友人、貴族だったはずだが?砦に来てから野生化したか」

「流石に私も、生はちょっぴりずつしか食べなかったのに。末恐ろしや」

「いや俺も無理。火を通す以前に形から無理」


三人で身を寄せ合って、背後を振り返るまいと頷き合うのであった。


「皆さんもうよろしいので?私がいただいてしまいますよ?」


力強く、どーぞどーぞと勧める三人。


妖精達はあんぐりと口を開け、ガツガツとキノコを生で堪能する一見穏やかで誠実そうな貴族青年を見上げていた。


(タイチョーヨリ コワイネー)

(ドンビキダネー)


妖精達の話し合いにより、「今日一番オモシロイ人間で賞」はリュードに贈られた。


賞品は、青地に白縞の細長いキノコをまとめた、花束、キノコ束である。


部屋に飾って毎日嬉しげに微笑むリュードに

同室の兵は、毎回怯えるのであった。

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