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空と電話  作者: ぷよ夫
8/17

____________________02-4 飛行者と通信者

 やれやれ、若いってことは。

 若いんだろう、たぶん。

 うん。

 わしゃ、名実ともにオッサンだが。

 ――さておき。

 わしらは、山を降りたあと、村の人々に礼を言って簡単な報告をしたあと、フルートに乗り込んでアンテナを立てていた。

 そして、あの声を二回捕らえることに成功した。

 相手は飛行担当の少年と、通信担当の少女のようだ。

 そう名乗ったから、そうなのだろう。名前は分からん。

 まあ、少年もよく喋ってたが。

 彼らから、山の天辺で電波通信機に声が入ってきたときには心底驚いた。

 何処から聞こえてきたのかは、初めはわからなかったが、二回目に概ね南または南西からと分かった。

 最初はまあ、手持ちの通信機だけだったからなんともアレだったが、フルートに降りたあとにアンテナを立てて構えておったわけで。

 それでも、イマイチ特定できなかったのは、どうやら彼らが飛んでいるときに、たまたま我が母船チューバが近くを通ったからということだった。

 そのときの状況から推定して、チューバを近くに移動させたのがついさっきと言うわけで、何とか彼らの場所を確認することが出来た。

 思いのほか西北西に移動しており、危うく空振りするとこではあったが。

 ここで、一つ問題が発生した。

 彼らが、上空の風やら近くを通過した低気圧に遭遇し、かなり遠くまで飛ばされてしまったのだ。残念ながら、このフルートで迎えに行くにしろ何日もかかるどころか、下手すれば追いつけない。

 なぜなら、あの二人は若い。

 そこにじっとしていろと言うのが無理なのだ。

 ならば、比較的高い確率で到達できる目標を指示して、そこへ向かってもらったほうが良いとわしは考えたわけだ。

 ここからはやや離れる方角にあるが、どのみち今は西風が強いのでこっちに来させるほうが危ない。

「チューバを迎えに行かせてはいけないのですか」

「今後、食いっぱぐれてよければな」

 調査研究のためとはいえ、わしらが出来ることはものすごく限られている。

 ここの住民に会うために使える乗り物は、小さなソーラーセイルのフルートだけだ。

 大きなチューバや、うしが作った事のないような品物を見せてはいけない。

 それが、特別にここへの立ち入りについて取り計らってくれた、われらがスポンサーとの絶対的な約束なのだ。

 かれこれ、二十年もその約束を守りつつ、研究所とを行き来している。

「でも、若いのが二人、このままじゃ飢え死にですよ」

「そうではあるのだが」

 見つけやすい場所に移動するにしても、彼らが十分な食料を持っていることが条件だ。どうやって飛んでるかは知らんが、あのペースだとたどり着くだけで数日かかるはず。

「じゃあ、フルートごとチューバで運んでは?」

「やってる間に追いつくわ。それとな、彼らをロストするほうが怖い」

 そう……彼らが西にある山脈の、指示したポイントに向かってくれてるとしたら、たどり着いた少しあとに追いつけるはずなのだ。

 今までのペースと、飛ぶための何がしかをうしが作ったと、言う前提からだが。

 うしが作れる電源は、太陽光発電だけ。したがって夜は飛べない。

 わしらもそれに近いが、バッテリーも持っている。それ以前に、フルートは帆掛け舟の体裁を取っている。

 で、この海域は西風がよく吹いているのだ。


『おーい、電話だよ。ヒカル、だんだん壁が近づいた!』

 翌日の昼、電波通信機に少女の声が届いた。

 彼らは、通信機を電話とかラジオとか呼んでる。まあ、あってる。

 ま、若いっていいな。

 実のところ、翻訳機越しゆえ、彼らの本当の声はよくわからんのだ。それっぽく合成してくれてるようだが、たぶん若い。翻訳もあってるので良し。

「こちら、ヒカル。すこしずつ追いついてるから、そのまま行っておくれ」

 と、こちらからは安心させるように呼びかけた。

『でも、壁はずっとずっと横に広がってるよ』

 通信担当が聞いてきた。

「よく見ると分かると思うが、山の上のほうに風に流された雲が集まってるところがあるだろう? そっちに向かえばいい。追い風だしな」

『わかった!』

 元気な声が返ってくる。よしよし。

「ちょっと先生」

 こそっと、カズが耳打ちしてきた」

「なにかね」

「食い物持ってるか、聞いみちゃいかがでしょ」

 ふむ。悪くない。

「お二人さん、腹減ってないか?」

『豆が沢山あるから平気だよ! それとも、会えたらご馳走してくれる?』

「お、おうっ! 楽しみにしていてくれ」

『やったー!』

 直ぐ横に居るのか、少年の『ぶははっ』と笑う声が挟まった。

 まあ、よかろう。豆なら日持ちもするはずだ。

「じゃあ、寂しくなったら、また声をかけておくれ」

『寂しくなんてないよ!』

 意外な返答だ。

『だって、こいつと一緒だもん!』

 挟まる『おい、ちょっと』という少年の声。

 若いっていいなあ。

 とりあえず、がっかりさせてもアレだから、ご馳走を考えるとするか。

「ところで先生」

 考えようとしたところに、カズが口を挟んだ。

「腹が減ったのかね」

「ちがいます。暑いっす」

 そういや、わしら汗だくだ。

「文句言うな。海水でもかぶっとけ」

「マジっすかぁ~?」

 ソーラーパネルは、移動と充電に全力で動かしてる。

 彼らのためだ、冷房なんて贅沢は使っちゃこまる!


 飛行機だ。

 と、いうことが、チューバから来た画像を見てようやく分かった。

 しかも、水上機だ。水面が無いと、飛べないわけだから、彼らの村の近くに広い湖があるのだろう。

 海辺だとしたらとっくに村を見つけている、というのもある。

「しかしまあ、大風をくらってよく落ちなかったっすね」

「まったくだ」

 運が良いのか、つくりが良いのか。

 ぶっちゃけ、うしの能力については未知な部分が多すぎる。うしが作れるものについてもだ。

 信頼性については、なんというか、高そうではある。

 なにしろ、我がスポンサーと同じマークが刻まれているのだ。ある意味、随分と昔から商売しておるモンだと感心するしかない。

 おおかた、うしもうしロボも、根本的なところで同じシステムで動いているから、心が通じ合ったのであろう。

 と、まあ、製造元はなんであれ、山脈まではいうほど遠くないから、飛行機である以上たどり着くのは時間の問題だ。

 問題は、水上に降りなければならないことそのものだ。

 彼らは何らかの方法で飛んでいるとは見ていたが、わしは小型飛行船かなにかと踏んでいたのだ。あまりに遅いので、な。よくよく考えてみたら、ここらにある動力源といばソーラーパネルだけであり、それを使ったモーターの出力を考えたら遅くて当然なのだが。

 となると、降りる場所に困る。

 さすがに海岸から風溜まり間では遠い。

 風溜まりは、雲溜まりでもあるから、雨水がくぼ地にたまってできた湖があったとは思うが、上手く降りられるだけの広さはあるだろうか。

 海に降りてくれたらありがたい。到着時に荒れてない事を祈るしかないか。

 荒れてるのに、海に降りろとも言えんから。

「先生、彼らに見せられるテクノロジーには制限があるわけですけど」

 カズが雲溜まりの記録映像を開いて訊いてきた。

「なんじゃね」

「あんまり近づかれては、マズイのではないかと」

「何のために雲があると思うのだね」

「はぁ……」

 カズはときどき心配性で困る。

 だが、とにかく連絡は取ってみるか。

「雲には入っちゃ行かんぞ」と。

『うん、わかってる。うしが言ってた』

 なんだ、通信担当も知っていたか。

「そうか。もし、雲のたまり場の外に下りるところがなかったら、海まで戻って待っていておくれ。必ず迎えに行くから」

『ありがとう!』

 分かってくれてよかった。

 じゃあ、わしらはずんずん追いかけるとするか。

 


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