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空と電話  作者: ぷよ夫
6/17

____________________02-3 階段(下り)

 わしらは、まず母船に戻り、必要な機材をフルートに載せて戻ってきた。

 なぬ?

 フルートは母船でもなんでもない。

 母船は“チューバ”っていうでかいのが別にある。

 まあ、でかすぎて、川を上ったり水辺の村に現れたりしにくいだけだ。

 

 ともあれ。

 フルートから荷卸しをすると、村のうしの案内で山に登る。

 荷物は、大きな台車に積んである。

 いや、台車には違いないが、むしろ牛車だ。見かけをうしに似せた歩行ロボが、荷車を引っ張ってる。一台に一体、うしロボがついている。 

 村人たちも、わしらのうしが、仕事の手伝いをしてるようにしか見てない。

 これでいいのだ。

 我らがスポンサーにお願いして、汎用ロボをそれっぽく弄ってもらった。

 うしっぽいので牛車にしたわけだが、手持ちであったほうがいいものをカズに担いでもらっている。たとえば、うしロボが行けないようなところでもいけるようにザイルやハーケン、非常食などだ。

「もうじきっすね」

 カズが山道を登りながら言った。

 いつものように文句タラタラではない。真剣である。

 こいつもまた、なんだかんだで好きでこの仕事をしておるわけだ。

 当然、ヘルメットや手袋、ひざあてなんかもしっかり装備している。それはまあ、わしも装備済みだが。

「さてこのへんで」

 一山超えて塔の先っぽが見えてきたところで、カズが立ち止まった。

 そして「年代測定っすかね」と、牛車から、片手サイズの測定器を持ち出してきた。

「どこから測りましょう」

「あそこのホレ、岩がはがれて丸っこい外殻が見えてるところをだな」

「ちょっと厳しいっす、でも、ロープを張って行けば何とか」

 確かに傾斜がきついうえに外殻は掴むところもなさそうだった。

「とにかく、トライしてみます」

 するすると、測定器を腰に差したカズは、ほいほいとよじ登り、指定した場所でピコっと測定してすぐに戻ってきた。

「はい、先生」

 わりとあっさり上ってきたな。

「ありがとう……お、おおっ!?」

 なんと、測定不能。

 振り切ってしまっている。

 概ねうしと同じ年代用に精密設計されており、そこは間違いない。今のところ発見されている最古のうしが四百年くらい前のものなので、倍以上の余裕を見て千年程度までは測れるつくりだ。

 塔を測ってもほぼ同じになるから、問題はないはずなのだ。

 可能性はふたつ。

 ものすごく古いか、ものすごく測定しにくい材質か、だ。

 前者だとすると、一つ判別のやりようがあった。

 びこ。

 村のうしを測ってみると、二百年と出た。

 古いと言えば古いが、埋まってたならこんなものだろう。持ち主がのんびり屋で、本人が死んだ後ものんびり二百年以上動き続けたうしだっているのだ。

「タダの失敗かもしれんからな。まずは塔まで、登ってみるぞ」

 傾斜は急だが、牛車はぐいぐい登っていく。坂が急なのは分かっていたから、荷物はがっちりと縄で固定してあるので問題ない。

「ふ、ぶはっ」

 問題あるのはやっぱりわしのほう。

 なんとか上りきったが、またも自分だけへとへとだ。

 でもまあ、来た甲斐はあったかな。

 思い切り露出しているおかげで、どこから塔が生えてるのかがよく分かる。

 でっかいドームの天辺をがっちり固めて、そこから根元で直径十メートルばかりの頑丈そうなブツが天に向かって伸びてる。

 いわずもがな、この状況だと入り口の穴は随分上のほうにある。

 とはいえ作った連中は露出するのも見越していたように、スロープを塔の周りにらせん状に巻きつけてある。そいつが天辺のほうにいくと、特徴的な巻貝になるわけか。

「登れるかね?」

「分かりませんね。うしロボを先に行かせましょう」

 カズは牛車からうしロボをはずすと、先に歩いていかせた。

 ぐるりと一回り半。うしロボは、無事に人の背丈の五倍くらいの高さにある入り口のところにたどり着いた。当然、わしらも登っていく。

 一応、重たい荷物は、もう一体のうしロボに番をさせておいていこう。

 もちろん、みんなで中に入るのだ。

 今までも、何箇所かで中に入ってみたことはある。

 だが、損傷が激しいところでは途中で埋まっていて行き止まり。状態が良いところでは村人に途中で引き止められるか、なぜか毎回うしに阻まれた。

 今度はいけるだろうか。

 と、その前に一つ。

 ぴこ。

 二百年。うしと同じだ。

 今までの経験だと、いつものパターンだ。さっきのだけがおかしいことになる。

 偶然かもしれない。

 まあ、せっかくだから、中も調べて行こうと、わしらは牛車の荷物から長期戦を想定した体制をとった。工具や測定機器、食料や寝袋などを片方のうしロボにくくりつけ、数日たってわしらが戻らなかったら村に伝言を届けるようにもう一体のうしロボに指示した。

 とうぜん、ヘルメットや登山具のたぐいも完備している。

「さて、もぐるか」

 中は螺旋スロープになっていて、半周もしたらもう真っ暗だ。うしロボをひと撫でして目玉のライトをつけ、ゆっくり先に進む。

「ついてきちゃいましたが」

 カズとうしロボ片方だけでもぐるつもりが、村のうしもついてきてしまった。

 まあ、あれだ。照明と荷物持ちくらいにはなるから、むしろありがたい。

 でだ。

 ここで、念のため電波式通信機のスイッチを入れ、カズも同様にさせた。これでお互いに話すことも出来ることと、牛車で留守番をしているうしロボからの信号をやり取りして記録を残しつつ移動することが出来る。

「君もこれをもちたまえ」

 さらに、予備の通信機をカズに渡した。

「なんすか?」

「電波通信機じゃよ」

「でんぺつんち?」

「ラジオでいい。この白いボタンを押すと、離れてても話せる」

「なんだラジオか。それなら知ってます」

 なんと……

 いやそれはともかく。

 別の塔では、この螺旋スロープを何周かは降りたことがあるが、スロープには明かりがついてたと記憶してる。だが今度の塔はここが真っ暗だ。

 とくには崩れていないが、真っ暗と言うことは照明が故障しているようだ。

「先生、あれを」

 うしが一体、そこにいた。

「また、邪魔されるのかね」

「どうでしょう」

 そう。いつも、このあたりまでもぐると、うしが現れて先に行かせてくれないのだ。いつもはおとなしくてのんびりしてるのに、すばやく動いて侵入者を咥えると、入り口のほうにポイと投げ返す。わしも何度か挑戦した事があるが、放り出された上に腰を痛めて断念した、悪い思い出がよみがえる。

 さしあたり、いきなりポイされることはないので、ゆっくりと近づいてみる。

「はいっちゃ、だめ」

 うしがこっちを見てる。

「気持ちは分からんでもないが、われわれは入りたいのだ」

 だめもとで、声をかけてみる。

「だめ。うしは、許さない」

 やっぱり、じゃまされた。

「ぶははっ! そんなこと言わずに、通してくれよ」 

 笑いながら、カズが塔のうしに頼んだ。

「こりゃ」

 むりじゃろて。

「ぶも? んーも」

 突然、カズの隣で村のうしが意味不明な声をだしはじめた。

「んーも、な」

「も?」

「んなもー」

 なんだ? うし語か?

 村のうしと、塔のうしが喋ってるっぽいぞ。

「も」

「んも」

 二体のうしが、こっちを見た。いや、うしロボを見た。

「んもーり?」

 うしロボも、なぜか似たようなうし語を話したようだった。

 ガワ以外はそこらの汎用ロボのはずなのだが。

「うしに、ついていく」

 さいごに、うしロボがわしらに向かって言った。

「わしらが、うしに?」

「うしについておいで」

 今度は塔のうしが言い、ゆっくりときびすを返して中に向かって歩き始めた。

「何をしゃべってたのさ?」

 カズが、うしたちを追いかけながら訊いた。

「下の村、生きてる。だから、うしは行く」

 またとない機会だ。今まで、外から入って下の村に行き着いたものは居ない。

 当然、わしらは付いていくことにした。


 うしたちについて歩き始めてから、かなり時間がたった。

 左に曲がった下り坂を延々と降りている。おそらくは左回りの螺旋スロープなのだろう。

 しかし、かなりの長さだ。幸い下りだからいいが、のぼりだったらわしの足腰が今頃悲鳴を上げてる頃だ。

 帰りは、うしロボに背負ってもらうか。致し方ない。

「先生、外のうしロボとの通信が途絶えました」

「ふむ。いつからかね」

「だんだん弱くなって、ちょうど今パタリと」

 単純に距離だけ考えたら、かなりおかしい。螺旋を描いているのだから、縦には移動しても横には殆ど動いていないはず。

 だとすると、もぐり過ぎて地層に阻まれたか、この廊下が電波の透過率の低い材質で出来ているかだ。

 材質、か。

 ぴこ。

 やはり、と言うべきか。ここへきて、年代測定不能となった。

 もっと高性能な測定器もあるにはあるが、少々でかいので牛車においてきてしまった。拾えるものでもあったら、持って帰って測るとしよう。

「ねえ、先に行かないの?」

 話したり測ったり、つまりは立ち止まっていたわけで、その間にうしたちが先に歩いていってしまった。置いてけぼりでもこまるので、早足で追いかける。

 ちと、しんどい。

 などと、息切れしつつ思っていたら、うしたち足を止めて待ってくれた。

「ここで、止まって」

 否、待っていたわけじゃないようだ。必要があって止まっている。

「せ、先生、これは!」

 先に追いついたカズが叫んだ。そして、しゃがみこんだ。

「なんじゃ、腰でも抜けたか」

「抜けそうですよ、ほら」

「な!?」

 廊下が唐突に終わり、一段下に踊り場のような床が見える。

 下を見ると、どこまでも真っ暗だった。

 何か巨大な壺の天辺にでもいるような感覚だ。

 うしロボに照らさせるが、距離がさっぱりつかめないほど遠くに、テカテカとやたらよく磨かれた壁面があるのだけが分かった。

 それよりも、だ。

 踊り場があるということは階段があり、どこまでも下っている。

 一本の柱を廻る螺旋階段で、手すりから乗り出せば降りていく先の床が見えるはずなのだが、さっぱり見えない。うしに照らしてもらおうにも、角度的にちょっと厳しい。

「この下、やっぱり『下の村』っすかね」

「ああ、可能性はあるな」

 うしに連れられて遺跡から出てきた若者は、みな口をそろえて「下の村」で育ったと言う。

 それは、遺跡の内部に彼および彼女たちが育った環境があったことに相違ない。

「『下の村』はあるが、おそらく機能してないんだろう。まあ、見に行ってみれば分かる」

「でも先生」

「なんじゃね」

「この階段、大丈夫ですかね」

「だいじょうぶ。うしが保障する」

 と、言うなり、ここのうしが先にてくてくと踊り場から階段を降り始めた。なにかの群れのように、村のうしとうしロボも並んで降りていく。

「そういや、踊り場と階段、少し浮いてましたね」

「なぬ?」

 数歩降りたところでカズに言われ、一度振り向いた。

 たしかに、踊り場と階段の最頂部は、拳骨三つ分くらいは離れていた。

 踊り場は上から吊ってあり、階段は下から生えている。

 これが何を意味するかは今のところわからないし予測も付かない。一つ分かったことは、踊り場がどえらく分厚くて頑丈そうにできていることだけだ。

「おっかねー」

 カズは、立ちすくまないまでも、軸側の手すりにしがみつくようにして歩いている。外側にも手すりはあるのだが、気分的にそちらを掴みたくないのはよく分かる。

 高所恐怖症でなくとも、下が見えないというのは恐ろしい。

 てくてく、てくてく。

 それでも一歩ずつ降りていく。ああ、おっかない。

 とはいえわしは落ち着いている。ちと、足がすくんでるが落ち着いてはいる。

 うむ。

「とまって」

「とまって」

「とまって」

 うしどもが、突然止まって同じ事を言った。

 わしらも、とにかく止まった。

 危ないところだった。

 階段がない。

 何かの拍子にぶっ壊れたのか、螺旋の一部が途切れてなくなっていた。

 うしロボに下をのぞきこませて照らしてみるが、真っ暗真っ黒だ。底が見えない。

「じ、自分だけなら、ザイルを使って、おお、降りられますが」

「やめとけ」

 カズが無理しようとしてるので制止した。普段ならいけるかもしれないが、こうもびびってると何がおきるか分からない。

 だがしかし、ここにきて実質行き止まりか。先があるのが見えていて行けないの言うのはもどかしい限りだ。

「うーむ。とりあえず牛車に戻るか」

 ここまできて、足も棒になりつつあるが撤退するしかないだろう。

 帰るまでが調査だ、などと思っていると、ぐいっとうしロボが上を見た。

「ん、なんじゃ?」

 見上げた口で、何かを呼ぶように「もあ、もあ」と何やらしゃべっている。

「うしが増えた。だから、先に進める」

「どういうこと?」

 村のうしが言い、カズが問う。

「うしの、上」

 と、ここのうし。

 ああ、ややこしい。傷や変色、荷物などで区別が付くには付くが、よく似てるのだ。

 しかし、上とは。

 とばかりに見上げてみると、トコトコという足音が響いてきた。

「なんでやねん」

 隣でカズが呆けた。

 上で待たせていたはずの、もう一体のうしロボが階段を降りてきたのである。 

「ぶもっ」

 ぼてっ。

 おもむろにうしロボのお腹が開いて、板やら棒やらのたばが出た。

 うしが大きなものをこしらえるときに、よくある光景だ。

 いやまて。

 こいつはうしロボで、うしじゃないはずだ。

「んむ」

 さらに、そのうしロボの口にマニュアルが咥えられていた。これもまた、うしにはよくあることなのだが。ああ、とりあえず受け取るとするか。

「もあー」

 手を出すと、口を開いてくれた。

 む?

 むむっ?

 口の中に我がスポンサーの四文字ロゴが書いてあった。

 まさかとは思うが、ちょっと試してみる。

「私は、うしの口をひらいてほしい」

 塔のうしに言ってみる。

「もあー」

 開いてくれた。

 なんと、中にも同じ四文字ロゴが。

「なんぞ???」

「つーか、先生。これ、階段の応急修復材みたいですよ」

「うむっ? ああ、なるほど」

 マニュアルには、組み立て方やら取り付け方が載っていた。  

「数段、組み立ててみます」

 カズがマニュアルをふんだくると、作業の用意を始めた。

 荷物を置き、ザイルを柱にくくりつける。それから、板や棒の束から部品を拾い出していく。

 やれやれ、いきなりスイッチの入るやつだ。

「んもぶも」

「んぼ」

 再びうしたちが会議を開き始めた。

「もー」

「うしは、全員上に行く。人は、くみたてる」

「なぬ?」

「うしは、材料をもって戻ってくる」

 どたどたどた……。

 村のうしが照明器具だけこしらえると、みんな行ってしもうた。 

 たしかに、この束が階段の修復材だとしても、足りないのは目に見えていた。

「じゃあ、わしも何か」

「そっすね、僕の荷物を広げて、ビバークの用意を」

 そっちかい。まあいい、わしが組み付けをやっても、落っこちるだけじゃろ。


 そしてしばらく、カズは一つ一つ階段を作っていった。

 時計は見ているが時間の感覚がだんだんいい加減になってくる。なにせ、手持ちの明かり以外は真っ暗だ。

 オリジナルの階段と比べたら、いささか細くて短いが、人やうしが歩いていける程度のものにはなっている。が、外側の手すりがないので、実際にこの階段を降りるとなると、かなりおっかないだろう。

 ビバークの準備も整ってきた。

 といっても、寝袋を落ちないようにくくりつけ、階段に上手いこと台を作って飯の用意をするだけだが。

「そろそろ、飯にするか」

 と、口にしたところで、上から足音がしてきた。

「うしは、担いできた」

 一体だけ、うしが戻ってきたようだ。見たところ村のうしで、材料をてんこもりにして歩いている。

「ほかのうしたちは?」

 と、カズ。

「うしは、運ぶ。他のうしは、こしらえる」

 分業とは賢いとおもいつつ、「外でないと作れないのかね」と訊いてみた。

「そう、外でしか作れない。みんなで運ぶとだめ。だから、うしが担いだ」

 どさどさっ。

 食卓や作業場所の邪魔にならないように、村のうしは材料を置いた。

「どうも、うしさんよ。一休みしたら続きをやらせてもらう」

 カズは少し下のほうに移動した作業場所から上がってきた。

 手順はとても簡単のようで、最初にこしらえてきた材料はもうじき使い終わりそうだった。

「で、またいくのかい?」

 ちょっとさびしい。

「うしは、待つ。遅れて、残りのうしが戻る」

「マジ? ここにいるんだ」

「うしは、ここにいる。次が来るのは、三時間後」

 三時間後、か。

 この流れだと、それだけの材料が必要だということであり、あわてても仕方ないということだ。

「というわけで、諸君。休息をとろうじゃないか」

 食って、休むだ。長丁場だ。

「でもさ、先生。どこで休むのさ」

「休むところがないよ」

 そのくらい、考えろと。

「長丁場に必要で、やすむところ、うしが用意する」

 ごろん。お腹から、グリーンの塊が転げ出たかと思うと、ぱたんぱたんと広がって、丁度人が一人入れそうな四角いテントのようなものが出来た。

 これがまた、支柱に括り付けると、床が平らになるようにできてる。

「ほほう、これなら中で落ち着けそうだ」

 どれどれ、と中を見る。

 これはたしかに、落ち着いて休むために必要なものだ。

「お、これはありがたい」

 カズがわしを押しのけて中に入った。

 なんのこたぁない。だが長丁場に必要な設備。

 いわゆる、BEN・JOである。


「で、でけたー」

 ぐったり、である。

 カズの活躍で、どうにか階段が出来た。

 所要時間は、およそ七時間。

 ザイルで宙づりになること一階ずつ。

 照明弾を投げようとして、うしにポイと投げられること一回。

 どうも、できるだけ物を落としたくないらしい。まあ、下に誰かいるとしたらごもっともなことである。

 というわけで、だ。我々はぞろぞろと先へ行くことにした。

 くたびれたが、こうなったら行くしかない。

「さあ、みんな歩け!」

「先生、うしロボにまたがって何を言ってるのですが」

「うっさいわ。年長者を大切にしておくれ」

 我ながら残念な光景だが、足腰の参ったわしだけうしロボに背負ってもらうことにした。もちろん、若いカズはぴんぴんしておるわけだが。

 それから――

 ゆっくりと半時間ばかり降りたところで、奇妙な物体が照らし出された。

 吊ってあるのか、柱があるのか、ちょっとした小屋が中に入るくらいの、ほぼ球形をしたナニカである。

 下の村に降りる間の、休憩所でも作ったのだろうか。

 そんな球体の横にまで下りていくと、階段がそこで終わっていた。

 ここで終わりなのか、エレベーターなのか。

「うしは、ここまで」

 階段の終点は、球体の入り口のようだった。

 見るからに入口っぽい扉があるのだが、どうやって入ってくれようか。

「ここまで? 入り方知らないの?」

 カズが苦笑しながら訊いた。

「うしは、知ってる。でも、開けられない」

「どういうことだ?」

 わしは、せめて手がかりでもと訊いた。

「すごく深い。探しても不明」と、塔のうし。

 もっと深いところを探したけど、分からんということか?

「下に降った死体は腐敗」と、村のうし。

 怖いこというな。落ちて死んだ奴がいると。

「ヒマワリの花の種」と、うしロボ。 

 うしロボ?

 いや、なんでだ。 

 ガワ以外はただのロボのはずだが、影響されたか。

 口のロゴといい、さっぱりわからん。

「うしども、もう少し分かるように頼む」

「うしは、新しいものを望む」

 やっぱりわからん。

 この件については帰ったらスポンサーに訊いてみるか。

 それに、これはまさしく手詰まりだ。

「ありがとう、うしども。とりあえず地上に出るかね」

 消化不良にもほどがあるが、またもう一度出直すとしよう。

 

「やれやれ、くたびれた」

 やっとこさ、入り口に戻れた。

「先生、ずっとうしロボに乗っかってたじゃないっすか」

 まあ、そうだが。

 しかしまあ、こうしてみると絶景だ。

 ずっと先、海辺の村まで見える。

 その先に海が広がってる。

 空には雲がかかっていて……

『見える***何か***』

 突然、電波通信機から少年の声がした。

 誰だ?

 スイッチは入ったままだから、誰かが話せば聞こえるはずではあるのだが、ここで電波通信機を持っているのは、カズだけのはずだ。

『なんだ****?』

 なんだ、はこっちのセリフだ。

『うしは***壁を知ってる?』

 壁? それにうしとは。

『うしは**トンフア***わからない』

 こんどは、うしの声だ。ここらのうしと同じ声のようだ。

『***飛ぼうよ』

 飛ぶ? 飛んでるのか?

「おーい! キミは誰だ?」

 思わず、声をかけてみた。が、返事はない。

 その後も何か話していたようだが、聞き取れない。

 でもいったい、だれが電波通信機で?

「先生、今、壁って話してましたよね」

「ああ。壁を知ってるかとかなんとか」

「アレのことじゃないっすかね」

 壁、か。

 たしかに、ここから壁が見える。

 実際のところ、ただの地形。

 延々と横たわる、この星で一番でかい山脈だ。

 電波の向こう側にいる少年たちは、あの山脈がみえるところにいたのだろう。

 だとして……

 山脈が見えるところにある村で、誰かが飛んでいる。

 どこだろう。

「まいりましたね。ここに来て、かえって謎が増えちゃいましたよ」

「カズの言うとおりだな。まったく」

 母船チューバにいって、調べるしかない。

 さっきは出来なかったが、電波の発信源も特定したいところだ。



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