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空と電話  作者: ぷよ夫
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____________________02-2 川辺の村

 いい塩梅の風を受けて、フルート号は五日ほどで河口までついた。

 ここから、モーターを使って半日ばかり川上に進むと、川辺の村がある。

 普段、村人たちは、河口近くにある船着場まで着たところで、村が持っているモーター船で引っ張ってもらっておる。

 さて。

 登っていくに従い、広々としていた川幅が狭まり、村の船着場に付くころには手漕ぎ舟でも渡れるくらいになっていた。

 村の大きさはというと、遺跡もないのに人口が増えて、海辺の村の倍くらいというところだ。

 ぶっちゃけ、真水と耕作地の確保がこちらのがしやすいため、集まってきてしもうたと。

「ヒカル先生、こんちは」

 わしがフルート号を船着場に寄せ、助手のカズが縄をかけているところに、長老がよろよろと現れてぺこりと頭を下げた。

「ああ、どうも」

 わしのほうも、頭を下げる。

「今日は冷えますなあ、長老殿」

「そうかね? 今の時期しちゃ暖かいぞい」

 ありゃ。

 実は、この村はいつも暖かい海辺の村と比べて、かなり季節のはっきりしたところにある。

 今は時期的にぼちぼち暖かくなり始めた頃にあたり、慣れないと少し肌寒い。

 まあ、こう季節があるおかげで、いろいろな作物が食えるわけだが。

「それじゃあ、燃料や炉の材料は間に合ってますかね」

 温まれるものを手土産として持ってきたが、ちょっと外したか。

「いやあ、そこらのものはいくらあっても有難いですわ。ふぉふぉっ」

 長老はにっこり笑って言った。

「暖かくなっても、煮炊きはするでのぉ。ふぉふぉふぉ」

 それもそうである。

「それは良かった、持ってきたかいがあります。カズ、土産を倉庫に移してやっとくれ」

「また自分っすか」

「文句を言うでないっ!」

 ぶつくさと言いながらも、カズは台車を出して土産の荷物を運び始めた。


「いやあ、いつもすんません」

 長老の家に行くと、孫にあたる男の子が現れ、長老の手を引きつつわしを庭まで案内してくれた。

 比較的高い場所にあるこの家からは、森と川にはさまれ、畑に囲まれた豊かな村の全体がだいたい見渡せた。

 でもって、だ。この村はちょっと変わっていて、塔がない。

 何世代か前に、船を作った海辺の村の人たちが、水辺伝いに旅をしてきてたどり着いたのが、ここ。分家だから塔はないし、塔から出てくる若者もいないから、うしもほとんどいない。いても、あっちの村から来た者のうしだけだ。

「ほれ、ぼうず。飯をだしてやっとくれ」

「おお、こちらこそすみません。では、助手が来たらば」

 台車にてんこ盛りの荷物を積んだカズは、たどり着くのに今しばらくかかりそうだ。

「ヒカル先生のことだから、来る前に海辺の村に寄ったかと思うけぇんどさ、何か言っておったかね」

 長老は庭先の腰掛につきながら言った。

「毎度のことだけど、息子さんを見なかったと」

 よい、っと自分も腰掛に。

「ふぉふぉ、そんなこと言われてもな」

「でありますなあ」

 来るたびに繰り返される会話、である。

「せんせー、もう、少しは手伝ってくださいよ」

 と、そこにカズが一番でっかい台車に、荷物をてんこ盛りにして現れた。

「おう、ご苦労さん」

「ああ、しんど。組み立て式のカマドが三つと、燃料をもてるだけ持ってきましたわ」

 ごとごと、とカズが荷物を下ろしていると、家の方から「飯、できたよ」というお孫さんの声がした。

 頭数も多いことだし、手伝おうかと声のほうを見ると、彼は足の付いた台に食事を載せ、その台と一緒に並んで歩いてきた。

「お、そいつは」

 台に見えたのは、うしだった。

「これかね? 村人が食べ物集めに山を歩いてたら、偶然見つけたのだが」

「おお、なんという」

 ご都合主義、もとい奇跡だ。

「てぇことは、若者が一緒におりませんでしたか?」

 うしが出たということは、塔と若者もセットのはずだ。

「いなかったねえ。これが半分埋まってたのをみんなで掘り出してやったら、ついてきた」

 なんぞ?

「埋まってた?」

「うしは、うまっていた」

 うしが頷いた。

「うしは、人がいたので目覚めたが、うごけなかった。いま、うしはほじくりだされたから、うごける」

 そもそも、海辺の分家にあたるこの村にうしが居るのが珍しい。

 普通は、遺跡から若者とセットで現れ、世話をしたり可能な限り願いをかなえてやったりするものである。

 うしの生態としては、はじめて出くわした若者についていくことになるのだろうが、そもそもこのうしがどこから沸いたかということだ。

「まあホレ。このうしは、願い事をする若者もおらんので、村のうしということにしてのんびりくらしておりますわ。何もしないとたいくつなので、こうして時折手伝いくらいはしてくれますが」

 うしとしては、生きがいが必要なのだろうか。

「みんな、ごはんたべる」

 考えていると、うしは背中に食事を乗せたままその場にゆっくりと座り込み、じぶんは届く範囲の草をもぐもぐと食べ始めた。

 そんなうしを眺めながら「いただきます」と、皆は食事を始めた。

 畑でとれた野菜や、山のキノコ、それに芋などが出てきている。

 なんとも、旨い。

 いやいや。

 うしが居たということはだ。

 この辺に遺跡がないとおかしいわけだ。

 しかも、うしだけ埋まってたということは、何かがおかしい。

「ところで、うしが居たところに、案内してはくれまいか?」

 そう。こっちはわしの本業だ。

「うしが、案内する。たべたら、おいで」

 長老かお孫さんに、と思って言ったのだが、うしがこたえてくれた。

 

 うぅっぷ。

 食いすぎた。

 食いきれないほど食べ物を出すのが、ここでの慣わしだった。

 それだけ豊かな土地ってわけなんだが。

「せおうか?」

 うしが心配してくれていた。

「ありがとう。だが心配ないよ」

 と、わしは笑って見せ、横でカズが苦笑してる。ほっとけ。 

 それからしばらく、小高いと言うにはかなり高い山の斜面を登り続けると、木々がだんだんまばらになり、代わりに岩だらけの山肌があらわになってきた。生えているのは、短い草とコケばかり。

「このあたり」

 斜面に掘り返した跡があった。「ここにうもれていた」とうしが言う。

 とにかく大発見だ。

 うしが、遺跡の外で無事に発見されたなんて、前代未聞だ。

 古代文明が滅んだ理由を考えれば考えるほど、なぞだらけだ。

 いや、なぞがあるからこそ、わしの仕事があるわけだな。

「この先に何かあるのかね」

「さあ。岩ばっかりですわ」

 一段背が高いカズだが、これと言ってめぼしい物は見えないらしい。

「この先に行っても、木の実一つ見つからなさそうであるな」

 そりゃまあ、そうだわな。

「わしぁ、もっとうしが見つからないかと思ってな」

「お! それはありますね。もっと行ってみよう」

 若いと言うのは、いいことだな。しみじみ、と。

 カズが楽しそうに岩山を上へ上へ登っていく。

 うしが、軽々それについていく。

 わしは、ちょっと無理だ。

「待っとくれぇーー」

 はぁはぁ。

 なんとか追いついて、一山越えると、もう一山あった。

 いや、どう見ても人工的なストラクチャだ。

 でも、サイズが山だ。

 巨大なドーム状の何かが、わしと探し物との間に立ちふさがっている。

 いやいや、探し物はドームの天辺だ。

 海辺の村とよく似たタワーが、そこに見える。

 いやいやいや、考えてみれば、探し物はドームそのものだ。

 だいたい、塔の下がドーム状のストラクチャになってるなんて、わしも知らんかった。

「おーい、カズ」

 こりゃ、手に負えない。

「なんでしょ、先生」

「母船に戻って、でなおすべぇ」

「んだなぁ」

 わしは、一度引き上げて、入念な準備をしてからここに戻ることを決めた。




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