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空と電話  作者: ぷよ夫
2/17

____________________02-1 フルート号

 風がここちよい。

 非常に、よい。

 わがフルート号は、風を受けてとある村へ向けて進んでいる。

 海流は穏やか。

 フルート号はモーターを使うことなく進んでいける。

 まぁ、お日様が出てるうちは、いつでもモーターが使えるわけだが。

「カズ! ちゃんと磨け!」

 わしは、助手のカズこと和彦に声をかけた。

「ヒカル先生、なんで俺ばっかり」

 えいうるさい。

 一応、わしゃ考古学なんとか学会でそれなりの功績を、だな――

「うぎゃ!」

 痛いじゃないか。いきなり船がゆれたわ。

「先生!」

 おお、心配してくれるのか。

「なんかいた!」

「なんかじゃねえ、アレは島だっ!」

「俺?」

「お前は、シマダだ!」

 助手はカズ=シマダ。

 わしは人類考古学の権威、ヒカル=マツ、である。


 島といってもだ。かなり大きくて、我らがスポンサーである総合電気メーカー製のソーラーパネルを広げ、大出力のモーター全開にしても回るのに数日かかるほどだ。

 わしは、そんなでっかい島の一角にある小さな港へとフルート号を止めたわけだ。

 スポンサーというからには、要所要所に宣伝用のロゴが描かれている。伝統ある四文字をモチーフにしたものだ。

 でだ。

 上陸した船着場から見上げると、石畳の道が村がある小高い丘へと続いていた。

 村がある丘は青々とした草原に覆われていて、平らなところを見計らっては畑が作られておる。

 草原の周囲は高い木々に覆われていてまた美しい。

「おっ、先生久しぶり」

 カズと桟橋にフルート号をくくりつけていると、港の男が声をかけてきた。

「いよっ。景気はどうだい?」

「おぅ、ワカメとノリがたくさん取れたよ。食っていくんだろう?」

「もちろんともよ。そのために土産もほれ」

 カズが台車に乗せて運んでおる、ここでは珍しい食い物、それと農具や工具だ。

「先生、重いっすよ!」

「商売だ商売。ただ飯が食えると思うな」

 でもって、一番大事なのはソーラーパネル。こいつがないと、ここでは電気が作れない。

「商売って先生! うちらの商売って、考古学じゃないんすか?」

「つべこべいうな。飯がなければ研究もできんわい」

 まぁ、飯は困らないくらいフルート号に積んではいるのだが、物々交換で得られる「飯の種」があってこその物なわけである。

 てなわけでだ。

 わしらは土産とともに丘の上の村まで登ったわけだ。

「ヒカル先生、いらっしゃい」

「こんちは、ムラオサどの」

 丘の上、てっぺんあたりに巻貝のような形をした大きな塔が立っている。ムラオサは、その少し下にある彼の家でわしを出迎えてくれた。

「先生、変わりは無いかい?」

「わしゃ、相変わらずだよ。村はどうだい?」

「相変わらずだね。先生は、古代文明のなんとやらを見つけたのかい?」

「ここ何年も、まともなのは見つけてないねぇ。見つけても残骸とかばっかりでな」

 ぶっちゃけ、ここの塔よりもしっかりした遺跡なんてのは、今のところ見たことが無い。

 いくら丈夫に作ってたって、何百年もたってりゃしょうがねえ。

 何箇所か、一応機能してる塔は、数箇所確認できている。おっと、“機能してる”ってのは、うしを伴った若者が定期的に中から現れるってことだ。

 何百年ってのは、このうしと塔の年代測定をした結果からだ。測定誤差や損傷状況にもよるが、概ね八百年あたりのようだ。

「残骸ばかり? そんなもんかねえ。で、またウチの村の遺跡を見ていくのかい?」

「遠慮しておくよ。ここの番うしは元気すぎだ」

 何度か、遺跡の主役である塔の中を調査しに入ったことがあるのだが、箱に頭と足が付いたような“うし”と呼ばれるモノに阻まれて中に入れなかった。無理して入ろうとしたら、咥えてポイと放り出されてしまった。

 あの時は、腰を痛めてしばらく動けなかったわけだが。

 まあ、うし本来の役割もあるわけだが。

「ああ、ところで、ウチのセガレだが」

「そっちも見つからないね」

 こう答えるしかないのだが、オサはやっぱりがっかりした。

「海の向こうを見たいとか、どこまでが海か分からないのに出て行っちまってよぉ」

 嘆くのも無理は無い。船に乗って海に出て、かれこれ何年もたつわけだ。

 うしに「海の向こうを見たい」といって大きな船を作ってもらったとか言う、遺跡から出てきた女の子がおって、若いのが何人か連れ立って出て行ってしまったというのだ。

 まあ、若者たちが希望を持って船出した、ということ。

 たとえなら、めでたい。が、まんまだ。

 しかして、十八年ばかりオサが手塩にかけて育てた一人息子が、行方不明とあいなったまま。

 どこかで生きているという希望だけが、オサを動かしてるようなものだ。 

 と、わかってて、わしらがどうにかできるものじゃないわけだが。

「まあ、アレじゃ。一緒にうしも乗せて行ったって話じゃないか。飲み食いには困らんし、どっかで生きているじゃろ」

 われながら当たり障りのない事を言って、なんとか締めくくる。

 いつものことだが。

「まあ、見つけたら教えてくだされ。で、先生はこれからどこに?」

「川っぺりの村に行ってみるつもりさ」

 わしが見つけた別の遺跡、と言いたいところだが、かなり昔にこの村を出た人たちが作った村なんだそうじゃ。

 前に行ったとき、こっそり毛を拾って分析にかけたが、まさしくオサたちの親戚であった。

 惜しい。

「一応、村にセガレたちが流れ着いてないか、見ておいてくれんかね」

 オサが半ば諦め顔で頼んできた。

 わしとしては、「ええ、見させてもらいますわ」と、また無難に答えるしかなかった。



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