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空と電話  作者: ぷよ夫
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おまけ――冒険を終えて byカズ

ここまで読んでくれた皆様に、ネタ晴らしをふくめた、おまけの話になっています。

ぜひ、本編を最後まで読んでから、お読みくださいませ。

「まったくもって、分からん」

 ウチの大先生ヒカル=マツ氏は、帰りの道中、ずっと首をひねっています。

 ひねってるのは短い毛に覆われた太い首で、それが角が伸びたでっかい頭を支えてます。

「カズ、研究所に帰ったら報告書をたのむぞ」

「自分っすか」

「そう。研究所につくまでに、整理するぞ。ま、一度落ち着いてだがな」

 先生は、一度ロッカールームに引っ込んでいきました。

 余談ですが、先生用のロッカールームにはお手伝いロボがいて、どう見ても牛で、手先というか前足が器用じゃない先生の着替えとかを手伝ってくれます。

 我らが母船のチューバ号は大きいので、そのくらいのスペースはあります。

 外から見ると、大きな丸い船体にラッパのような推進器がついてます。まるで、楽器のチューバみたいなので、その名前をつけたと先生が言ってました。それなので、自分も小さな楽器からフルート号の名前を貰いました。

 量産型の船なので、別に何でも良いんですけど。

 大事なのは、先生の言う「我らがスポンサー」から提供されたことです。

 こんなささやかな研究者に、宇宙船を提供してくれるなんて太っ腹じゃないですか。さすが、人類が宇宙進出をする前から商売をやってるだけあります。

 製品には“森・田・電・気”と、手書き風の書体で、社名が書いてあります。創業以来、大事に守っていると聞いてます。

 自分が見る限り、社名を綺麗な漢字で書いてあるだけなのですが、先生にはロゴの一種として見えているという節があります。

 さすが牛頭です。

 船以外にも、地上にいた(あった?)うしや、持って行ったうしロボ、それにトンフアたちの飛行機にも、この四文字はひっそりと小さな文字で書いてあります。

 そういえば、雲溜りで飛行機が降りた所にとても大きくこの四文字が書いてあったおかげで、行き先が分かったとトンフアが言ってました。うしに教えてもらい、この文字の意味と見方を知っていたのだそうです。

 色々有りましたが、森田電気さんは、自分たちにとって大切なスポンサーであり、それ以上でもそれ以下でもありません。

 もちろん、スポンサーになる条件があり、破ったおかげでこの数年間、あの星へのでいりを禁止されてしまいました。――先生だけ、ですが。


 しばらく待ちましたが、先生が戻ってきません。

 多分風呂でしょう。一度入ると長いんです。

 牛なんで。

 そう、牛といえばうし。

 仕事の手伝いに、うしに似たロボットを森田電気に頼んだら、うしそのものが届きましたっけ。

 不思議に思って、先生に内緒で森田電気に聞いてみたのですが、今でもうしは作っているので、新しいものを少し分けてくれたのだそうです。

 うしは、遺跡に人の遺伝子情報があるかぎり作り続けられ、人を育てていくとのことです。それが、大災害を生き延びてしまった森田電気の義務だと言ってました。

 だとしても、全く儲けがないのに、よく続くと思います。

 それに、どうやって人知れず遺跡に送り込んでるのでしょう。埋まってたのもありますし。

 とても不思議だけど、こっちとしては資金が出るなら何でも良いです。

 地上の人たちにとっても、それはどうでもいいことでしょう。

 彼らにとって、むしゃむしゃと地面に有るものを食べて、もぐもぐとコネて、願いを叶えるための物をごろりんと出してくれるのが、うしなのです。

 結局のところ、うしというのは、頼もしい友達なのです。

 無理をしなければ長生きして、がんばりすぎたら早く死んでしまうけど、それは人もいっしょだと思ってるみたいです。

 

 まだ先生は戻ってきません。

 牛だから仕方ないです。

 待ってる間に、トンフアの村で撮って来た記念写真を飾ることにしました。

 最近、あの村にはカメラがあります。

 写真は“見たものをずっと覚えてたい”と願った、トンフアの二つ後に下の村から出てきた女の子が願い、うしが作ってくれたそうです。

 簡単な作りで、焼き増しができないインスタントタイプでした。

 なので、写真は宝物なのです。

 その宝物を、一枚くれました。トンフア夫妻と子供、それと自分や先生を中心に、村のみんなで集まって撮った写真です。

 自分たちにとっても大切な宝物なので、保存性の高い上等な額に入れて、壁にかけてあげました。(さすがに、額には森田電気と書いてありません)

 彼らの村は赤道に程近く、温かいおかげでみんな薄着。それと、彼らの髪や瞳は黒く、肌もやや黒っぽい。

 言葉は、大災害前にそのあたりに住んでいた人たちのものを、下の村で教わってきており、みんなそれを使ってます。当然、基本的に標準語しか分からない自分たちには、翻訳機が必要です。

 トンフアたちの名前は、標準語以外で比較的よく使われるローカル言語からうしが選んでます。人類が地球にだけ住んでいたころ、タイという所で使っていた言葉でした。場所を、大災害前の地図で見せてもらいましたが、緯度がトンフアの村に近いということ以外よく分かりません。

 もう一度、地図を開いてみたけど、やっぱり分からない。

「これほどて近くに住んでいるのに、言語が違ったわけだ」

 のそーり。

 そんな地図を見てると、先生がロッカーから戻ってきました。

 少し湿っていて、湯気が立ち上ってます。

「あ、先生。この、トンフアたちの言語は……」

「割とどうでも良い。ぶっちゃけ、言語は専門外だ」

 おっと。聞こうとしたら、一蹴されてしまいました。

 しょうがないなあ……いつものことですが。

 おっと、先生は牛ですが、服を着てますよ。中には、鍛えた肉体美とてかてかの黒毛を見せびらかしたがる牛もいるようですが……。

「で、だ。なにはともあれ、トンフアたちが元気でなによりだ」

「先生が、追放覚悟で助けたおかげっすよ」

「ふん、当然のことをしただけだ」

 先生は、むすっと窓の外のほうにでっかい頭を向けました。もちろん、あのやたら青い惑星はもう見えません。

 そういえば、自分が助手になる前、救えなかった若者がいるとかいないとか。聞いても話してはくれませんけど、その人のことでも考えてるのでしょうか。

「ま、偶然が重なった。運というのがなんとも大事なことか、身にしみたわい」

 いろいろあったけど、運がよかった。

 あの村で、埋まっていたうしに出くわさなければ、それ以後のこともなくて、トンフアたちのラジオ電波をつかむこともなかったはず。

「しかし、何で埋まってたんでしょうね、あのうし」

「カズ、あほか? 山が崩れたからにきまっておろうが。大災害からどれだけ経とうが、雨は降るし風も吹く。たまには地震のひとつも起きるだろう」

「そりゃまあ、そうですが」

 これ以上聞いてもたぶん無駄です。地質学とかは専門外といわれるだけ。

「そんなことより、アレだ、あれ」

「アレ?」

「そう、アレだ」

「わからないっす」

「階段の下で、扉を開けたキーワードじゃっ!」

「あれ、ま」

 それでずっと分からんって言いながら、肩がこりそうなくらい首を傾げてたのですね。何処が肩かよく分かりませんが。

「分かってなかったんすか」

 ヒカル先生、頭のサイズ(物理)なりに知識も豊富なんだけど、それと同様、最近は硬さ(物理)なりに硬くなってきた、ん、じゃないかなと思います。どうでしょう。

「おい、今イランこと考えてなかったか?」

「いや別に」

「だったら、何だったんだ?」

「“海を渡って、空を飛んで”」

「それが、何だ?」

「“Sail ”と“Fly”ですよ。略してSFです……まあ、後からわかったのですが」

「は?」

「“すごく深い”“探しても不明” 、“下に降った”“死体は腐敗”、も、ほら」

「うむぅ」

「ひまわりは、SunFlower、花の種だからSeeds of Flowerなのかもしれませんが」

「ぶももももも」

 悔しいのか、先生が太いうなり声を上げてます。またポイされそうでかなり怖い。

「な、なにか、ご不満でも?」

「さっぱり分からん」

「えっ?」

「せいるとふらい、やら、さんふらわ、とか、しぃーどぶらぁわ、とか。何のことやらな」

「あぁ~」

 ああ、なるほど。

「もしかして、先生は英語とかローマ字、それに付随した頭文字とかって」

「知らん。英語とか、人間のローカル言語まで覚える余力はないわい」

 なるほど。

 先生は牛だから、人間の標準語を話すだけでも一苦労なのです。

 つまり、どんだけ考えても、答えなんて出ない。

「で、解説してくれんかね」

「ああ、つまりですね……」

 やれやれ。

 ローカル言語でも最大勢力なんだから、基本くらいは抑えてほしいのですが……。

 このままだと、アルファベットの概念から、説明することに。

 はぁ。

 かなり、憂鬱です。


 概念ごとさらっと伝えてくれるテレパスでも、いないかな。


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