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空と電話  作者: ぷよ夫
16/17

____________________01-8 エピローグ:階段(再)

 あれから、五年。

 この惑星の公転周期で五回。

 出入り禁止をやっと解かれて、久しぶりにやってきたわけだ。

 その間、わしは引退していたわけじゃなくて、カズを含む弟子たちに現地周りは任せ、研究所にはちゃんと出ていた。

 いや、それにしても長かった。

 最大で二百年近く生きる人間たちとちがって、わしら牛は長くて五十年。

 図体はでかいというのに、くたばるのは早いのだ。

 で、解禁になった理由の一つが、人口がある程度増えてきたこと。

 わしらにとって“普通の暮らし”にあたる、当たり前のように星を行き来する有様を知ったら、一部の者は間違いなく出てきてみたいとおもうだろう。

 だから今まで伏せていたのだが、人口が増えた今ならば少々出てきたところで、この惑星の人が居なくなってしまうことがなくなった。

 もう一つ。

 惑星全体の気候が、かなり安定してきたということもある。

 あの飛行機や、フルートくらいの船で行ける範囲なら、人間が何処に行っても安全な気候になったということだ。もちろん、悪天候や寒さ暑さはあるが、危険と思ったらさっさと逃げ出せる程度には安全になった。

 百年単位でかかったらしいがね。

 雲溜りで回っている大きな扇風機も、今は大風を起こすことはない。

 大災害でできたという、対流圏を分断しているあの山の向こうに、十分な量の水がたまったからだと、我がスポンサーの偉い人が言っていた。

 もう少し詳しく言うと、大風で水分を含んだ空気を高いところに吸い上げて、雨を降らしていたわけだ。で、山はだを削って作った巨大なオケで集め、水路を使って向こう側に流していた。

 もはや、無理やり雨を降らす必要がなくなったから、こっちの空気をぼちぼち流すために、そよ風を吹かせているだけに、あいなったわけだ。

 まあ、気候のコントロールはまだまだ続くわけらしいが。


 久々なので行きたい所は沢山あったが、まずはあの二人、トンフアとトルサの村に行くことにした。

 さっき、ラジオで声を聞かせたら、凄く喜んでいたもんで、こちらも楽しみだ。

 というわけで、新たに作ったデカい飛行機で村に向かっている。

 しょうがないだろう、彼らの飛行機じゃ、わしとカズを乗せていけないのだから。

 村に着くと、驚いたことに、飛行機が五機も船着場に浮いていた。

 それと、大きな黄色い花が並んだ花畑が目に付いた。

「セーン、久しぶり!」

 ずいぶんと逞しくなったトンフアが、手を振ってやってきた。

 どうやら、彼らの中でわしはヒカルではなく、“光”ことセーンなのだろう。

「セーン、みてみて!」

 後から、赤ん坊を抱えて子供の手を引いた、これまた大人びたトルサがやってきた。

「久しぶり。元気だったようだね」

 わしは飛行機を降り、二人に挨拶した。

「ほらほらほら、あたしたちの子だよ」

 やっぱりというべきか、二人は子供を作る間柄になっていた。

 ひとまず、めでたい。

「あの、はじめまして。自分は、ヒカル先生の助手で……」

「わしの友達の、カズだ。こっちにも、人間の友達くらいおるんだぞい」

 空気を読まんか、まったく。

「ああ、どうも。友達のカズです」

 愛想笑いを浮かべるカズ。まあよろしい。

「セーン、カズも! 歓迎の準備ができてるよ。おいで!」

 手を引かれて、というのは無理だが、とにかく彼らに押されて村のほうに向かった。


 村では歓迎を受け、もみくちゃにされ、子供たちになでくりまわされた。

 そんなに、わしの毛皮の手触りがいいのかね。

 ご馳走も沢山出てきた。

 トリ肉とかも出てきたが、食えない体質なのでカズにやり、わしはもっぱら葉っぱや木の実ばかりいただいた。

 そのなかに、やけに旨い実があった。

「これは、何の実かね?」

 気になって、トンフアに聞いてみた。

「“ひまわり”の、種さ。いっぱい取れるから、撒く分以外は食べるんだ」

「おお、“ひまわり”とな。あのでっかい、黄色いやつかね」

 わしは、花畑のほうに鼻を向けて訊いた。

「うん、そうだよ。美味しいでしょー」

 トルサが笑いながらお変わりをくれた。

 むむ、んまい。

 てな。ひまわりの種ではないか。

 ひまわりの種、か。

 もしや、アレだ。

 めちゃくちゃ大事なことを思い出した!

 もちろん、聞いてみる価値はある。

「元は、下の村から持ってきた種かね?」

 トンフアが「そうだよ」と、一つまみ食べる。

「そ、それで、新しい種なのかい?」

「もちろん、採れたてさ!」

「そんなに美味しい??」

 トルサがうれしそうに、どさっとおかわりをくれた。

「いやいや、こんなに食えんが、生の奴をお土産にくれないか?」

「えっ?」

 わしの言葉に、トルサとトンフアが目を合わせ、その目を丸くした。

 そりゃまあ、いきなりは無理かな。

「もちろんさ! 次にセーンと会えたときのために、沢山作ったんだ!」

 その夜、トンフアは大きな袋いっぱいに詰められた、ひまわりの種をお土産にもたせてくれた。


「また来るぞ、今度は近いうちに!」

「待ってるよ」

「またねー」

 わしらはは翌朝トンフアたちに別れを告げると、近くの水辺でチューバに乗り換え、ひとっとびに川辺の村に向かった。

 フルートに乗り換えて半日、川を登る時間がもどかしい。

「お、先生久しぶり」

「ちょっと山まで行って来る!」

 村人との挨拶半分に、山に向かって駆け上る。

 懐かしい気もするが語るのは後回しだ。

 全力で登って、途中で息切れして、それでも何とか塔にたどり着く。

 ここからは下り。

 楽と言えばらくちんだが、螺旋階段から転げ落ちないようにだけ気をつける。

「つ、ついたぁ!」

 やっと球体の前だ。

「先生、どれだけ急いでるんすか」

「なんだカズ、おったのか」

「えー」

 等と話していたので、目の前に塔のうしが居ることに気がつくまで、少々かかった。

「うしは、待っていた。ここを、あける?」

「お、おう。これで、開かないか?」

 わしは、“新しいひまわりの種”を差し出した。

 これをどうやったら開くのかわからんが、とにかく出した。

「おしい。でもだめ」

 なんと、うしは一目見て却下しよった。

「違ったのか?」

「うしが望んだのは、うしたちが話した言葉と同類の、新しい言葉」

「意味が分からん」

「だったら、開かない」

 参ったな。

 開くとおもったのに。

「先生、また今度で。そのうち見つかりますよ」

「ええい、慰めなど要らんわ」

「色々と大変だったのは分かりますが……」

 カズはわしの頭をさすりながら、言葉を続けた。

「海を渡って、空を飛んで……」

「言葉をもらった」

「何ぞ??」

 突然の反応だった。

 わしが持ってきたブツには何もなかったのに。

「扉は聞き入れた。開けられる」

 振り向いてごんと球体の扉を叩いた。

 がこん。

 扉が開き、中の廊下が見える。

 奥に行くと、ベッドのようなものが置かれた部屋に着いた。

 が、あちこち焼けて壊れて、無残な状況だった。

「この様子じゃ、下の村には降りられないな」

 この先に部屋はなさそう。そしてこの壊れようでは、球体ごと下がるのも難しそうだ。

「帰りますか……」

「この部屋、死んでない。開けられたので、修理できる」

「どういうことだ?」

 何度このせりふをはいたことか。

 牛頭では分からぬことが多すぎだ。

「塔とその下にあるものは、大災害のシェルター」

「なんと。こんなに大きなシェルターが必要なくらいの災害だったと? これで、何人生き残ったのだ」

「ひとり。ぜんぶのシェルターあわせて、ひとり」

「だが、現に他の塔からは村人が」

「遺伝子情報のみ、生き残った。あとは、うしが材料を運んで人にした」

「うしってぇのは――」

「壊れかけのシェルターで、人を“つくる”ように作られた機械。それだけ」

 なんと……

「年代がかけ離れてるのは、シェルターよりもうしが大幅に新しいからなのか?」

「そう。塔の補修も、うしの年代の材料をつかう」

 いやはや……

「なんだか、SFみたいですね、先生」

「えすえふ?」

「サイエンス・フィクションっすよ」

 ふおん。

 空気が動き、壊れかけていた機械に光がともった。

「言葉をもらった。ここは、見た目より元気」

 またわけが分からん。

「知らん。牛は知らん」

 うしの頭やら、人の文化など良く知らんわ。


 まったくもって――


 SFなる言葉が、そんなに大事なのか?

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