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空と電話  作者: ぷよ夫
1/17

01-1 階段(上り)____________________

 僕の村には友達が居た。

 男の子に女の子、大きな子、小さな子。

 毎年みんなで耕して、種をまき、育ったものを食べた。

 ある日、気がつくと、僕は一番大きな子になっていた。

 もっと大きな子がいたはずなのに、いつの間にか居なくなってる。

 だけど、今年もまた、種が取れた。

 僕は、集めた種を蔵に運び、丈夫な瓶へ種類ごとに袋に分けて仕舞っていった。

「なんだろう、これは」

 何度も来ているはずの蔵に、見たことが無い扉があった。

 仕舞い残しの種袋を片手にその扉をあけてみると、蔵の外に出そうな場所なのに少し広い部屋になってた。

 部屋の真ん中にはテーブルがあり、何かの種が入った袋が一つ。

「なんだろう」

 拾ってみる。

 直後……

 村の仲間が、僕の周りに集まっていた。

 みんな笑って「おめでとう」と言ってる。

 なにがおめでたいんだ――


 ――?

『おめでとう』

 冷たい声がした。

 いつの間にか、さっきの部屋の種があったテーブルで僕は寝ていた。

 振り返っても蔵の扉は見えない。

「おかしいな」

 起き上がると、あの村が夢のように感じてきた。

 着てる服が違うものになっていて、空気の香りも違う。

 唯一手に持っていた種袋だけが変わっていない。

 とにかく部屋から出ないと。

 僕は入ってきたのとは違うところにある戸を開け、部屋から出た。

 そこからは殺風景な、石か金属で出来た廊下が十メートルほど伸びていて、その先から光が差し込んでいた。

 なんかおかしいけど、おもてに出ればみんなが居るはずさ。

「な、んだ、これ?」

 外は確かに明るかった。

 でも、見上げるとはるか高みに天井があった。

 その天井に、長い螺旋階段が伸びていた。

 僕はほとんど本能に任せるように、その螺旋階段を登っていった。

 かつかつと、足音。

 階段は僕の重さではびくともしないが、とても怖い。こんな高いところ登ったこと無いよ。

「やっと、ついた。きみは?」

 螺旋階段の最上部、踊り場で足の付いた大きな箱が待っていた。

「うし。なかま」

 箱には足のほかにも大きな頭がついていて、僕に向かって話しかけてきた。

「うし?」

 村にも牛はいたけど、このうしは全然違うな。

「そう、うし。ついておいで」

 ついていくと、長い廊下が続いていた。

 何を使っているのか分からないが、低めの天井には等間隔で照明が付いていて、それを見る限り緩やかに上昇する大きな螺旋を描いてる。 

 また螺旋か。

 どこまで続くのだろう

 と、思ったけど、僕はうしを信じることにした。

 いつまで続くか分からないその螺旋を、時々休みながら、僕はうしについて歩き続けた。

 途中、くたびれた僕は、一度休憩をとった。

 そのときうしは、おなかを開いて果物の汁のような飲み物をくれた。

「もうすぐ、そと」

 だんだんと足が重くなってきたころ、うっすらと光が見えてきた。

 随分登ったから、山の天辺か崖の上にでもでるのかな。

 なんて思ってたけど、出てみると全然違った。

 出口は、石で出来たほら穴みたいなものだった。

「すごい、こんなものが」

 穴を出て振り返ると、出てきた穴は大きな石で出来た塔の付け根にあった。

 塔は森と草原の境目にあって、草原には向こう岸がやっと見えるほどの大きな湖があった。

 空は晴れ渡っていて、湖は混ざり合うように青く見えた。

「むらがある。うしと、人の仲間がいる」

 うしは、湖のほとりにある村に向けて、草原をのしのしと歩いた。   

「僕を村に案内してくれるのか?」

「そう。うしは、人を導くが役割」

「そうなんだ」

 僕は導いてくれるうしについて、村へ足を進めた。

 近づくにつれ、家があり、人間の大人と子供がいて、同じくらいのうしがいた。

「ちょっと、止まる」

 村の少し手前で、うしが立ち止まった。

「どうしたんだい?」

「うしは、願いをきく」

「願い? なんでもいいの?」

「なんでもきく。でも、そのまま叶うとはかぎらない」

「なーんだ」

「でも、願わないとかなわない」

 うん、それもそうだ。

 どうしようかな。

「ここで決めること?」

「いま、ここで。うしは、そのわけをしらない」

 それじゃ、聞いてもらわないと損だな。

「じゃあ、うしさん。僕は、あの空の果てまで飛んでみたい」

「空の果てまで、飛んで、みる」

 と、うしは、空を見て、湖を見て、足元を見て、僕のほうを見た。

「その願い、うしはかなえる」

「ほんとに?」

「でも、時間がかかる」

「いいよ、待ってる」

「待っていて。その間、むらで過ごすといい。で、な?」

「で?」

「君の名前は?」

 僕の名前?

 なんだったろう。

 この種が育った村では、僕はなんて呼ばれてたろう。

 覚えてない。

「わすれた?」

「うん」

「みんな、そう。うしが、名前つけてる」

「僕は?」

「トンフア」

「とんふあ?」

「うしを造った人の言葉で、空のこと」

「ありがとう」

 なんか、笑顔になれた。うしも無表情なのに、どこか笑って見えた。

 名前がきまったことだし、村に向かおう。

 僕は今日からトンフアだ。空だ。



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