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須藤 亘2

「ここがそうか…」


 俺は九州にあるとある田舎に来ていた。ここは信用できる人の紹介できたところだ。その人が言わない限りはまず居場所がバレることはないだろう。徹さんにそれとなく言っておいた志望大学とは真逆の位置にあるし…

 そんなことを思っていると目の前に白の軽トラが停まり、運転席の年寄りの男が窓を開けて助手席越しに俺に話しかけてきた。


「話は聞いてる。乗りな。」

「…失礼します。」


 中々にカッコいい年寄りだ。俺が助手席に乗り込むと軽トラが走り出した。そんな中俺は必要最小限の自己紹介を行う。


瀬川・・亘です。」

「田所良平だ。…あの坊主から話は聞いてるが…うちは働いてくれれば文句はない。仕事内容は分かってるな?」


 俺は頷く。良平さんは一応確認だ。と言ってここに住む条件について再度言及してきた。


「野良仕事、家事の一部、あと孫の家庭教師。それだけやってくれれば何しても構わん。金は二年後に二百万だ。」

「わかってます。」


 俺が頷くと良平さんは軽トラのスピードを上げた。











 目的地は割と大きい平屋の家だった。


「野良仕事はしばらく行ったところにある山でやるが…今日はいい。とりあえず孫娘と話してろ。俺は野暮用を済ませてくる。」


 良平さんはそう言って俺を軽トラから降ろすと畦道あぜみちを走って消えて行った。俺はとりあえず平屋の中に入る。


「おじいちゃ~ん。お腹空いたっちゃけど~」


 入るなり少し日焼けした少女が玄関に突っ込んできた。そして俺を見てフリーズする。そんな少女に俺は苦笑いしつつ謝罪と挨拶をする。


「あ~…ごめん。良平さんは用事があるって…」

「あ!そう言えば今日住み込みで働いてくれる人が来るって…ご…ごめんなさぁいっ!私、田所亜美と申しますぅっ!」


 少女は思い出したかのようにそう言って真っ赤になって謝ってきた。俺は苦笑を続けながら自己紹介を返す。


「俺は瀬川亘だよ。…何か作ろうか?」

「え、そんな悪いです…」

「いや、どうせこれから俺が作るんだしさ。台所どこかな?」

「いや、来てすぐにそんなことは…あ!そうだ!家の中案内しますね!」


 ということで俺は亜美ちゃんに家の中をされることになった。



「…それにしても亘さん荷物少ないですね…」


 案内が終わった後亜美ちゃんは俺を見てそう言った。俺は荷物を持つほど私物を持っていないんだよなぁと思いながら話題を逸らして亜美ちゃんと世間話をする。


「…ところで、亘さん。」

「何かな?」

「早速で悪いんですが…勉強教えて下さいっ!」


 (話の最中ずっともじもじしているなと思っていたがそういう事か。いいだろう。)


 今度は俺は居間にある座敷で勉強を教えることになった。


「…えっと?これはいくらなんでも分かるよね…?」

「…Ⅹ=3?4?…あぁ違うっ!8だ!」

「…2分の3だよ…」


(オイオイ…中学二年生だよな?この時期で二元一次方程式ができないのか…?)


 俺は呆れながら説明していく。するとすぐに亜美ちゃんは解けるようになった。


(さっきのは何だったんだ…?)


「凄いよ!先生より分かりやすかった!亘さん天才!?」

「いや…」


 俺はここに来てから苦笑いしか浮かべていないような気がする。そんなことをしていると玄関のドアが開く音がしてこちらに足音が近づいてきた。良平さんが帰ってきたようだ。


「待たせたな。…ほう。早速教えられてるのか。」

「あ!おじいちゃんお帰り!亘さん凄いよ!亜美これで明日の学校で洋子ちゃんとかに勉強教えれる!」

「はっ…それは良かったな。じゃあ…亘。今日は俺が飯を作る。お前はそのまま亜美に勉強教えてやってくれ。」

「あっはい。」


 俺がそう言って振り向くとそこには巨大な生肉を透明なビニール袋に入れて持った良平さんがいてニヒルな笑みを浮かべていた。


「今日はいいのが獲れたらしくてな…牡丹鍋だ。」


 そう言って台所へ行く良平さん。久しぶりの他人の料理はとても美味しかった。

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