須藤 泉1
「あれ?お義母さん朝ご飯は?」
今日はお兄ちゃんのサプライズ誕生日パーティーの為にいつもより1時間早く起きて身支度を素早く済ませると下にすぐに下りた。保険としてお父さんにも内容言っておいたけどなくてもいらなかったかな?
それはともかく、早く朝ごはん食べないと。
「ごめんなさいね。まだ出来てないの…だから部屋で待っててくれる?」
「えー?簡単なものでいいからここで待ちますよ~」
申し訳なさそうに言ってきた加奈子さんに私が笑って返していつもの席に着くと何故か加奈子さんは焦っていた。
「どうしたんですか?」
私がそう言うと加奈子さんは「なんでもない」とだけ言って私の方をじっと見てそれから何か思いついたように言った。
「そうだわ!今日は泉ちゃんが作ったら?その方が亘も喜ぶと思うわ!」
「あはは…お義母さんよりうまく作れる気が全くしないからいいですよ~」
無理!加奈子さんが作った料理を食べ慣れてる人に今の私の料理を出すわけにはいかないっ!…いつかは毎日食べてもらうけど…
そんなことを考えている途中一瞬だけ加奈子さんの顔が歪んだ気がした。
「…じゃあとりあえず簡単なもの作るわね?」
「よろしくお願いします。」
10分して出て来たのは焦げたトーストと炒り卵だった。…珍しいな加奈子さんが失敗するなんて。いつもならトーストはきつね色に、スクランブルエッグは私の分は半熟に作ってくれるのに…
「どうかしたの?」
「え…えぇちょっと。」
「ふーん…とにかくいただきます!」
いつもならあり得ないミスをした加奈子さんがどうしたのか気になったけどお兄ちゃんにばれないようにサプライズするんだからとにかく食べよ。
…?これは…焦げ付いたんじゃなくて完全に焦げてる?苦…炒り卵…は味の偏りが酷いし…殻が入ってる…
「お義母さんどうかしたの?」
「きょ…今日はちょっと調子が悪くて…」
まるで別人が作ったような朝食に流石に心配になった私はもう一度加奈子さんに訊いてみるけど加奈子さんは引き攣った笑みを返してきた。
「おや?加奈子。今日はどうしたんだい?」
そうこうしてると今日も仕事のお父さんがリビングにやって来た。いけない、時間かけすぎたかな?
「ごちそうさまでしたっ!」
私は食事を終えてお兄ちゃんを起こしに二階に上がった。お兄ちゃんが朝ごはん食べてる間が勝負…のつもりだったんだけど朝ご飯出来てないからなぁー何とか怪しまれないように部屋に帰ってこないようにしないと…
そんなことを考えながらお兄ちゃんの部屋に「起きてる?」と訊いて中に入った。
「…お兄ちゃん?」
中には誰もいなかった。部屋の中を探して布団を捲ってもいなかった。私は焦る心を抑えて私の部屋に戻り、携帯を起動させる。新着が一件あった。お兄ちゃんからだ。急いで開いてまずタイトルで絶句した。
家出します
20xx年9月24日7時00分
悪いが家出する。この後、家庭が崩壊するであろうことについては申し訳ないがあの女に騙されて不幸にならないように真実を須藤さんに伝える。後は頑張ってくれ。特に家事なんかをな。
「は?」
読み終わった後私の頭は大混乱です。思わず何度も見直しました。
「何で?」
訳が分からなったけど一先ず返信することにしました。
Re:家出します
20xx年9月24日7時27分
何で?どうしたの?何かあったなら私も力になるから一回帰ってきて話をしよう?一人で悩まないで!
絵文字は…流石にそんな状況じゃないと判断して入れませんでした。
しばらく待っても返信は来ません…電話をかけてみるけど通じません。私は鼓動が早くなるのを実感し始めました。そんなとき部屋の扉が急に開きます。
「お兄ちゃん!?」
「え…?どうしたんだ泉…亘が降りて来ないから様子を見に来たんだが…」
そこにいたのはお父さんでした。がっかりしつつもお父さんにも話をしないといけない―――そう思っていると携帯の着メロが鳴りました。お兄ちゃんからです。お父さんの携帯のバイブも同時に鳴りました。けど優先はこっち!私は急いで開きました。
二度と帰らないので
20xx年9月24日8時
二度と帰ってくるつもりはないので俺の私物は売るなり捨てるなりして貰って構いません。あと一応言っておきますが、事件性は皆無ですので警察には報告しなくて結構です。
追伸 これが最後の通達です。返信しても返事は出しませんので返信不要です。
私は読み終わった時泣きそうになってました。お兄ちゃんが初めて会ったころと同じ他人の様に余所余所しい状態に戻っていたのですから。何とかして欲しくてお父さんの方を見るとお父さんの顔色が悪くなっています。
「そ…んな。加奈子はそんな人じゃ…でもこのメニューは…本当にあの時からずっと亘が…?そういえば…僕は加奈子が家事をしているところを見たことがあったか…?」
そこで私も初めて気付いて最初のメールを見ました。
「家事頑張れ?おかしい…何でお兄ちゃんが家事のことを気に…?」
「泉。」
混乱する私にお父さんが言いました。
「少し確かめるために僕に口裏を合わせてくれ。亘は今日少し気分が悪くて僕の病院に送ったことにする。」
「え…?何を確かめるの…?」
「…亘が送ったメールの真偽だよ。あと加奈子は気分が悪いらしくて少し寝てるから…加奈子に気付かれないように亘を探してくれ。」
お父さんの言葉に私は混乱する頭を傾げました。
「何で加奈子さんには知らせないの…?」
「言い訳ができるからだよ…亘がいなくなったと知られたら。もし亘が嘘をついているとしたら加奈子に謝ればいいさ。」
お父さんの笑みはいつもに比べて弱々しいものでした。その笑みは半分以上お兄ちゃんの方が本当のことを言っていると感じているようでした。私はお父さんの言う通りにすることにして下に下りました。
加奈子さんの寝室の前では足音を殺し、外に出ました。まずは気に入りませんがお兄ちゃんと付き合いの長いあの女の所に行きましょう。




