知ること
「ワー君!」
「お兄様!」
「亘…」
「須藤…」
亘が出て来た時の反応は四者四様だった。しかし感情の振れ幅としては正と負の2通りしかない。
「…財部さん。泉さん。どうしてここに?」
亘は平静を保つため、2人にそう訊いた。だが、彼女たちの顔はその言葉で大きく歪む。
「ワー君…何でそんな…何で名字で私を呼ぶの…?」
「さんなんて…」
「…えぇと…何でって…」
そこで亘は自分が彼女たちを口では何と言っていたのか思い出した。ここに来てからは特に気を付けたりすることもなかったので忘れていたのだ。
「やめて…そんな呼び方しないで…私は財部さんの家の子供じゃない…彩愛だよ…?」
財部の不安定な心が揺れる。自分を自分として見ていてくれない人たちを思い出し、目の前の人物を泣きそうな顔で見る。
「もう他人じゃないんですよね…?私には…家族が…お兄様がいるんですよね…?」
泉の崩れそうな心に軋みが入る。一人で生きていたことを思い出し、目の前の人物に縋るような目を向ける。
「…まさか…まだ…?」
亘はそんな二人の顔を見てすぐに怯えているのが分かった。
「たか…彩愛。お前は城崎がちゃんと…」
「ワー君…私にはワー君しかいないよ…?何で…?何でそんなこと言って…何で私を置いて…なん…っぐ…」
思いは言葉にならずに涙に変わった。亘は困惑の表情を浮かべもう一人…泉の方を見た。
「…泉は…徹さんと…」
「私はお兄様がいないと嫌です!家族なんて貴男しかいないに決まっているじゃないですか!何を考えて…」
泉も感情の赴くがままにそのまま泣き出した。亘は顔をぐしゃぐしゃにして泣く二人を見て気付いた。
(こいつらは…全っ然子供の時から変わってない…?)
亘は彼女たちに初めて会った時のことを思い出してすでに彼女たちが解決したと思っていたことが心に根深く巣食っていたのを敏感に感じ取った。
片方は見捨てられた目。もう片方は見切ってしまった目。あの頃の目にまた戻りつつある目を見て亘は気付いた。
(…もしかして…嘘じゃない…?)
彼女たちの支えになっていたのは自分だったのではないか。あり得ないとしか思えない事態だが、それしか考えられなかった。
「…私…っく…ワー君しか…ワー君だけ…私が好きなのは…ワー君だよぉ…何で…分からないの…?アレだけ好きって言って…あれだけ一緒に居たのに…ねぇ…何で…?」
「私が…私が家に帰って来た時。『お帰り』と言ってくれて…私の居場所があるという事を…」
亘は何も言えず2人は亘に縋る。良平と江口は何も言わずにその光景を見ていた。誰も口を開かない気まずい時間が流れる。
それを破ったのは亘だった。
「ごめん。俺は何も知らなかった…じゃ、済まされないな。」
誰も何も言わない。亘は続ける。
「俺は周りに目を向ける暇はなかったんだ。…それに、彩愛は俺のこと嫌ってると思ってたし、泉は俺の事なんか眼中にないと思ってた。」
「「そんなことない(です)!!」」
2人は顔を跳ね上げて否定した。
「彩愛は俺がやりたいことを先々にやっていって俺が出来ないってレッテルを張られてるのを見て楽しんでたのかと思ってたし…」
「私は!ワー君に良い所を見せたくて!」
「泉は家の中じゃ俺の存在とか気にしてなかったと思う。」
「そ…れは、恥ずかしくて…」
亘はその後も疑問をぶつけた。それに対して2人は尽く反論して、また、今まで知ったことを全て話し、その後謝った。
「何も知らないで…伝えた気になって…ごめんなさい…」
「私も…気付けなくて…ごめんなさい…」
「…俺こそ、一人で抱えて勝手に消えて悪かった…」
3人は互いのことをようやく知ることができ、再会を果たした。




