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須藤 亘 1

 その日は朝から晴れており、文句のない秋晴れの日で俺の気分もよかった。俺はいつもの通り家族全員分の朝食と昼食の弁当を作り上げると自室に戻り、時計を見る。


(…六時か。気分が良すぎて時間をかけすぎたな…だがまぁいいか。とりあえず課題を片付けよう。)


 その時、下からあの女が起きた気配がした。いつもならムカつくあの女が発する生活音も今日の俺は笑って許せそうだ。


(…おっと。本当に口元が緩んでたな…平常心で振る舞わないと。とにかく課題をやって気分を落ち着かせるか。)


 俺は課題に取り掛かった。






 課題が終わって少し考え事をしながらいつも通り読書をしてベッドに横になっていると俺の部屋の扉がノックされ、妹のいずみが入ってきた。


「お兄ちゃん。ご飯。」

「ん。あぁ今行く。」


 泉はあの女の新しい男の連れ子で、俺と二つ違いの高校一年生だ。校内でも有名な美少女だが…正直俺にとってはどうでもいい。本当にどうでもいい相手なのだが家族内での俺の役は優しい兄。俺は今日もその役に成り切って二人で階段を下りていく。―――あぁ反吐が出そうだ。

 下りた先の一階では俺の作った料理がテーブルに並んでおり、そのテーブルを挟んであの女とその新しい男こと須藤すどう哲也てつやが談笑していた。


加奈子かなこ今日の朝食はやけに豪華だね~どうしたんだい?」


 須藤が朝にふさわしく爽やかに気障ったらしくそう言うと、あの女は嬉しそうに目を細めて笑って答えた。


「フフッ…今日はいつもより早起きで気分もよかったから頑張っちゃった。」

「そうか~…おや、わたるお早う。」


 楽しそうに話していたが、俺に気づくと須藤は俺に挨拶をしてきた。俺は未だに慣れていないのを悟られないように自然に振る舞う。


「うん。お早う哲也さん。」

「ははは…今日も仲がいいねぇ。」


 須藤は泉と俺を交互に見て楽しげに笑った。そして家族が揃ったことで朝食が始まる。俺は胸中の思いを察されないように楽しげに会話をして食事を済ませ、食事が済むと家族全員分の食器を流し台に持って行った。





 食後しばらくして俺は泉と一緒に家を出た。そこにはいつもと同じように財部たからべの姿があり、俺を見ると駆け寄って来て挨拶をしてくる。


「おはよ。ワー君」

「…お早う。彩愛あやめ

「うんっ」


 彩愛は簡単に挨拶して俺の右隣に寄り添うように立つ。ここで避けると張り合って腕を組むなどのことをしてくるため俺は黙って彩愛のすることに口出しせず当たり障りのない話題をして登校した。

 学校に着くと皆がそれぞれの教室に向かう。俺は3-5に教室に入った。すると俺の席の山田が話しかけてきた。


「よう。毎朝毎朝羨ましいな須藤。」

「…何がだ。山田。」


 この山田という男は去年、一昨年と俺に危害を加えなかったので一応友人として見ている。しかし、鬱陶しい男だ。何故かテンションを上げて絡んできた。


「っかー!俺は何回言えばいいんだろうな?あんな美少女達に囲まれて羨ましいって言ってるんだよ!わっかんないのか?」


 声が大きい山田に俺は若干イラつきつつも俺も山田だけに聞こえるようにいつもと同じような言葉を返す。


「俺も何回同じことを言えばいいんだろうな?財部は彼氏いるし、泉は妹だ。あいつらは俺に何も感じてないし、逆もまたしかりだ。…今回こそは納得してくれないか?」


 俺のいつもと同じような台詞に山田は飽きずに今回も考えてからいつもと違う切り口を探し、俺に言ってきた。


「財部さんはそうかもしれないが…泉ちゃんは妹って言っても血は繋がってないだろ?…正直どうだ?連れ子同士の結婚は認められてるぞ?」

「だから何だ?」


 俺のにべにもない返事に山田は今回は引き下がるが次は必ず納得させるとこれもまたいつもと同じ台詞を吐いて教科書を開いた。俺もまた教科書を開いて勉強に取り掛かった。










 時は流れて一日の授業が終わり、放課後になった。この学校ではこの時期の三年生は金曜日の午後が自宅学習となっているので俺は一年生の泉とは別に財部と二人きりで帰る破目になっている。


「えへへっお待たせワー君」

「いや…そんなに待ってない。」


 校門から出てすぐの待ち合わせ場所でいつものように待っていると俺に十分遅れて財部が走ってやって来た。


「ごめんね。城崎しろさき君と話してて遅れちゃった」

「…そうか。」


 財部の言う城崎とは財部の今の彼氏で、イケメン。金持ち。サッカー部元キャプテンというリア充役満の男でまぁまぁいい性格の男だ。

 正直彼氏と一緒にいたのなら勝手に帰っていたいのだがそんなことを言うとこいつは決まって機嫌を悪くし、挙句埋め合わせと称して俺から休日を奪うので近所に対しての役―――須藤家のいい息子という役も持っている俺には選択の余地はない。


「じゃあ行こ?」


 財部はそう言って俺の手を取る。こいつには周囲の目というものは分かっていないようで泉がいないと過剰にスキンシップをとってくる。今日はその中でも控えめだったので特に気にしないで行けそうだ。

 道中楽しそうに話をしてくる財部に適当に相槌を打ちながらについて考えを馳せていた。すると急に財部の話が止まる。


「…ねぇワー君。何か楽しそうだけど…何かあったの?」

「いや?何もなかったが…楽しそうだったか?」


 財部の言葉に一瞬虚を突かれたが俺はすぐに切り返した。こんな時にあの女と血が繋がっていることを実感し、多少気分が悪くなる。


(それにしてもこいつ如きに気付かれるとは…浮かれすぎたか?いかんな…)


「…言えないことなの?」


 俺の言葉をどう捉えたのか財部の目は俺から離れない。この状態のこいつは果てしなくしつこいので俺は更に適当なことを気まずそうに言った。


「あー…明日俺の誕生日だからな…」


 俺は適当なことを言おうとして一部失敗してしまった。だが、財部はそれに気づいた素振りはなくテンションを上げて言った。


「あ!ワー君も誕生日楽しみなんだ!」


 俺は曖昧に頷く。すると財部は顔を伏せ、上から見ても分かるほど顔を赤くして何やら躊躇いつつも意を決して言ってきた。


「あのっ!明日のプレゼント楽しみにしててね!」

「おぉ…今年もくれるのか…悪いな…」


 何事かと思ったが、言ってきたのが特に驚くことでもなかったので、逆に俺はリアクションが取りづらく、歯切れの悪い返事になる。その後なんとなく空気的に黙ったまま俺の家の前に着くと財部が沈黙の空気を破った。


「と…とにかく!楽しみにしててね!じゃ…じゃあっ!」


 財部は返事も聞かず去って行ったので、俺も家に帰った。






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