財部 彩愛3
月曜日、私が学校から帰って来ると田辺さんから報告が入った。
「お嬢様、携帯の解析が済みました。」
私はワー君の携帯を持って帰るとすぐに削除されていたデータやGPSの過去データを漁って貰っていた。その結果出て来たのはワー君のお母さんからの膨大な指令メールとワー君が虐められていたと思われる音声データだった。
「…何…これ…」
私は全部の履歴やデータを見てそう言うしかなかった。私はワー君の事何も知らなかったということがはっきりとわかった瞬間だ。
「…ワー君…どうして私に相談してくれなかったの…?」
何で?入っている連絡先との通信履歴とか見ても誰とも相談していない…勿論あの泥棒にも…でもワー君のお母さんからのメール…どう見ても受験勉強しながら一人でこなす量じゃないよ?言ってくれればいくらでも手伝ったのに…
「むしろお嫁さんアピールできるから喜んだのに…」
「お嬢様今はそんなこと言っている場合ではないかと…」
はっ…いけないいけない。で、とりあえず田辺さんが何か計算とかした結果毎週一回のペースで足を運んでいる場所があってそこが怪しいみたい。
「墓地です。この墓地はお寺の住職が常駐しているので毎週行っているのであればおそらく記憶に残っているのでは…と思います。何らかの手掛かりはあるはずです。」
「よし!行ってきます!」
「ちょ…お嬢様!?今何時だと…」
「え?」
私の部屋のワー君から貰った時計を見ると1時を回っていました。
「あー…運転手さんもう帰ってるか…じゃあ田辺さん送って?」
「…時々お嬢様は常識無くしますよね…明日学校に行った後にしましょう。」
「え…まだ待たないといけないの…?私がワー君とどれくらい離れてると思ってるの…?もう丸々三日連絡すら取ってないんだよ…?そして明日学校に行って帰って来て墓地に行くってなったら…四日だよ…?」
信じられない。拷問に等しいよ…というより拷問そのもの…
「…お嬢様失礼致します。」
「え?っ!」
田辺は財部の側頭部に綺麗に拳を入れ物理的に眠りにつかせた。体勢を崩した財部を受け止めて田辺は財部をベッドに寝かせる。
「はぁ…思った何十倍もあの男の子を好きみたいですね…まるで薬を奪われた麻薬中毒者…」
財部のかわいらしい寝顔を見ながら田辺は呟く。
(…あぁっ!可愛らしいっ!こんな天使のような娘が何であんな冴えないのにべた惚れ…ってまぁその話は何度も聞かされたから知ってますけど…刷込みって恐ろしい…それにしても…)
寝顔にひとしきり興奮してシャッターの音が無く、光も出ない高画質の小型カメラで眠っている財部の写真撮影を済ませると田辺はふと顔を上げた。
(一回私の住んでるマンションに来てたみたいですけど…あそこは入れないはず…でも来ていたってことは何らかの関係が…?一応本部に確認を取っておきますか…)
急にシリアスな顔になる田辺。一度外に出ると携帯電話を取り出した。
「…エレンホス24番局01298B…」
「エレンホス24番局00474が受ける。何の用だ?」
(げっ…上が取った…)
一瞬露骨に顔を顰める田辺だが電話なので相手には伝わらない。努めて平静を装い通信を続ける。
「…須藤亘について。案件はありますか?」
「…スドウ ワタル…ないな。」
「ありがとうございます。用件は以上です。」
「そうか。個人用件で組織の機材をあまり使い過ぎるなよ。全く。」
そこで通信は切れた。
(私はそんなに使ってませんよ小生意気なエリートさん!…組織が介入していないでうちのマンションに入れるってことはあの男の子に個人的に誰かが介入しているみたいですね…もし、うちのお嬢様を泣かせるのが目的だったら…フフ…あ、それと携帯電話はデータを復旧した状態で須藤家に送っておきますか。あんな胸糞悪い女がお嬢様の姑なんて嫌ですからね。)
田辺は暗がりの中に消えて行った。




