開幕
俺はこの世界で嫌いなものが三つある。
一つ目―――俺の実の父親の死だ。父さんは俺が十五の時に兄さんを車から庇って死んだ。善良な人だった。どう考えても捻くれた俺より先に死ぬべき人ではなかったはずで、俺は搬送先の病院で一度意識を取り戻した父さんになぜこんなことをしたのかと訊いた。返事は弱々しい笑みと共に返ってきた。
「親は子のために何でもする…当たり前だろ?それに父さんが死ぬことになっても助けた徹が父さんの分まで生きてくれればいいんだ…まぁ死ぬつもりはないけどね。」
しかし、その兄さんが翌日に死んだ。父さんもその二日後に逝った。
――――――理不尽にもほどがある。
二つ目は近所にいる財部 彩愛彼女は才色兼備で人柄もよく、お嬢様…。要するに一言でいうのならば漫画やゲームでのテンプレートなヒロイン。俺はこいつが大嫌いだ。奴は幼児期から始終俺についてきた。それだけなら嫌いになることはなかっただろう。いや、むしろ好きにっていたかもしれない。
だが彼女は天才だった。どこへ行くのにもこいつは付いて来て常に俺よりもいい成績を出し続けた。結果がすべてじゃない。そう思ってもどこかしら気にかかる。だから俺は彼女から逃げた。しかしこいつは追ってきた。明らかに興味がないことにも付いて来て俺の成績を越し、俺に成績を見せてきた。
もちろん最初から逃げたりしてはいない。最初はすごいと思って彼女に負けたくないとも思った。しかし、彼女は天才だ。俺…いや全員を全くと言っていいほど寄せ付けなかった。そして俺は諦めた。
俺が諦めてもこいつはどこまでも俺に付いて来た。俺の中学の成績で考えるとあり得ないランクの低い高校にも付いて来て、登校から下校まで付いて来た。―――あいつが中学からの彼氏といるとき以外は。
なぜ彼女は俺に付き纏い嫌がらせを続けるのか…
―――――理解が全くできない。
そして三つ目これが俺の中で最も気に入らないもの―――母親だ。
この女が俺の気にいらないものだと最初に気づいたのは父さんが死んだ時だった。この女はあろうことか死んですぐに笑っていったのだ。「住宅ローンがなくなった。」と。
その後はしばらく会話もなく父さんが残した遺産で暮らしていたが、この女が再婚すると俺のことは労働力、父さんのことは息子を救えなかった上に嫁を置き去りにした馬鹿な男。そして自分は悲劇のヒロインとして扱いだした。
俺のことは正直どうでもよかったが新しい男に気に入られようと反吐が出るようなことばかりするこの女が俺は大っ嫌いだ。新しい男はこの女のそんな正体に気付かないこれもまた善良な男で、俺の成績を見ては褒めたりする。まぁその直後この女が謙遜なのか何なのかは知らないが俺のことを異常に蔑むが…。
―――――俺はこいつがこの世で最も気に入らない。
こんな世界で俺は生きている。




