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小話綴り

君とぼくが出会うとき

作者: 環 円

 やあ、こんにちは。

 おはよう、やこんばんは、がいい時間帯かもしれないけれど、こんにちは!

 ページを開いてくれて、ありがとう。


 ぼくにはいま、名前がないから自己紹介は出来ないけれど君の事は良く知ってるよ。

 でもこうして面として会うのは初めてだから、『はじめまして』だね。


 嬉しいな。

 まさかこんな日がくるとは思わなかった。

 君とこうして出会えるだなんて、なんてすばらしいんだろう。


 ぼくは今、最高に嬉しい!


 せっかく会えたんだから、少しだけぼくに時間をくれないかい?

 忙しいのは知ってるさ。


 人間には一日、たった24時間しか配られてないからね。

 寝て、起きて、自分自身のやらねばならないことをやって、追加でいろいろやって、お風呂食事、就寝、したら会えなかったね。ようやく開いた、空けた、時間でここを開いてくれたんだ。

 閉じないでくれたら、うれしいな。

 

 それに物事は突然起こるものなのさ!

 日常のなかに、非日常が混ざる。

 たとえばいつもは黒い珈琲を飲んでいたとして、ほら、たまにミルクを入れたくなるときもあるじゃないか。

 え、ないのかい? 


 深い味を知ってるんだね。

 ぼくなんていつも砂糖を5杯はいれるよ! 甘いのが好きなんだ。

 でも今回は例えば、なんだから入れる、としておいて? お願いだよ。


 おほん。

 その非日常が今さ。


 話が飛んだと思っただろう。

 ふふん、でもぼくはちゃんと先を読んで語ってるんだ。ちょっと鼻が高くなってしまいそうだよ。

 

 謙虚に『そんなことは……』というのも処世術として使うのは大切だけれど、たまにはこうして傲慢な自分になってみるのも楽しいものさ。やってみるかい? 

 

 おや、この天狗のつけ鼻がお気に召さない。

 それはそれは、失敬。

 じゃあこれはここにおいて置こう、後で使うかもしれないしね。

 あああ、悪かったよ。ぼくが悪かった。

 だから遠くへ投げないでおくれよ。

 

 ……返してくれてありがとう。

 君はやさしいね。ぼくは君のそのやさしさが好きさ。



 繰り返しになるけれど、本当にぼくは君にあえて嬉しい。

 ずっときみのことを見ていたんだ。

 

 君は本当にがんばっている。

 本当さ。でもたまに、頑張り地獄に陥ってるときがあるね。

 そういうとき、いつもぼくははらはらしてるよ。


 え? じゃあいったい何をがんばっているのか、言ってみろって?

 いいよ。


 君は日々、生きている。

 課されたものごとをやっている。たくさんのお願いを聞いている。約束をまもっている。


 誰でもやってるって? 普通の事だって?

 そんなことはないさ。できる、ってすごいことなんだよ。

 あー、だるい。もういやだ。やめてしまおう。やめた、もういい。このまま、もうどうせ。

 って底なし沼にずぶずぶ落ちていく人もいるからね。

 這い上がるのが大変だけど、落ちてみるのもまあ、たまにはいいかな。何事も経験だ。

 

 君が住んでいる日本の向こう側にはブラジルという国があるんだよね。

 知ってる? バカにするなって? そんなこと全く思って無いさ。ぼくが君を苛めてるみたいじゃないか。

 ……でもまあそこまで落ちて、突き出て、サンバでも踊ればきっと気分爽快にもなるのも悪くないんじゃないか、とは思ってるよ。


 途中にマントルがあるから溶けるだろうって?

 熱いだろうね。ぼくに通過は難しそうだ。

 それよりこういうのはどうだろう。おおきなマシュマロの塊をつっこんで、焼いて食べてみるってのは。

 

 ……ってごめん。怒らないでおくれ。

 どうもぼくのジョークはどこかずれてるみたいなんだ。

 先に言っておくけれど、悪魔という存在ではないよ。もちろん天使でもない。

 

 うん、うん。話を元に戻そう。

 ぼくが君に言いたかったのは、君が立派だってこと。

 誰がなんと言おうと、認めなくても、ぼくがちゃんと分かってるんだ。

 

 なぜそんなの知ってるのかって?

 ほら、ここの穴、ちょっと覗いてみてよ。


 見えるかい?

 あのお母さんは毎日ご飯を、家族のために作ってるね。

 一日も欠かしたことが無いんだ。

 

 あのサラリーマンを見て。

 新聞片手に電車に揺られてるね。家族のために毎日働きに出ているんだ。

 しかもあの人の会社って、いま流行の黒なんとか、なんだって。

 それでもそれでも、大切なひとのために毎日会社へ行ってるんだ。


 ぼくはそうして、君も見ていた。

 だから君が笑って、泣いて、怒って、楽しくてどんどん走り出したときのことなんかも知ってる。


 世の中にはいっぱい、いっぱいいろんなことがあるよね。

 その度に、辛かったり、嬉しかったり、大忙しだ。

 けれどそれが人間なんだよね。


 人間は嬉しくて、笑ったり泣いたりする。

 人間は許せなくて、笑ったり泣いたりする。

 楽しくないことを無理に楽しまなくてもいいよ。いやだーっていえないときもあるけどさ。

 どうせなら楽しいこと、がいいよね!

 ぼくはそうさ。君と出会えて楽しくて仕方が無いんだもん。


 とても素敵だ。素敵だね。

 共に泣いて共に笑う人たちがいたならば。


 ひとりじゃないよ。

 少なくともぼくがいる。ぼくがいるんだ。ひとりじゃない。


 喜びを分かち合いたいとき、ひとりでは寂しいよね。

 とはいえ誰かと一緒に喜びたくても、相手が嫌な気持ちになっていなければいいな、とか考えちゃうんだ。

 相手が嫌がっていたらどうしよう。口だけで、本当は……とかね。


 そういうときはぼくと一緒に騒ごう!

 一緒に喜べるひとがいるのはとても良いことだと思うんだ。

 一緒になって怒れたり、時には反発して嫌い同士になったり、仲直りが怖くてうつむいてみたり。

 

 何かに失敗して、ああもうだめだ。って思った事もあるよね。

 『どーにでもなればいいの』とか 『ひとりで膝を抱えて鼻をすすてみたり』とか 『もういい、出来なかったんだ、はい、おわりって思いつつも後ろ髪引かれてみたり』とかね。


 挙げていけばきりが無いよ!

 そういう時はぼくを思い出してくれたらいいと思うな。ううん、是非呼び出して。

 泣いてる顔をよこからにやにや見ててあげるよ。そうしたらきっと楽しいとおもっ……!

 

 だから、拳を振り上げないでおくれよ。

 ぼくか弱いからつぶれちゃうんだ。って、ごめんごめん。煽るつもりだったんだ。

 だからボール投げちゃダメだって! あたってやんないもーん。

 

 さあ、そして今、ぼくに悩みでもなんでも話してみるといいよ!

 って後ろ向かないで! 

 ぼくここから出られないんだからさ、最後までぼくの言葉をきいておくれよ。


 

 君は生きている。

 たくさんの軌跡を経て、今、ここにいる。

 きっと君は思った事があるだろう。もしかすると、これから思うかもしれない。


 『自分は社会の歯車のひとつで、たとえいなくなっても誰かがすぐに、代わりを務める』んだって。

 うん、確かにそうだね。

 そういう仕組みを人間が作ったんだから、そうなってしまうのは仕方が無いんだ。


 ってぼくが言えば、はい、そうですって君は云うかい?

 ……ぼくはね。君に『嫌だ』って言って欲しい。

 君はぼくにとって特別なんだ。今はぼくだけって場合も、そのうち出てくるから心配ないよ。


 夢は持つだけじゃつまらない。叶わせようよ。

  

 ぼくは君に出会いたいんだ。

 だからぼくも願うだけじゃなくて、叶うようがんばるよ!

 だから、だからお願いだよ。

 

 次は君がぼくを探してね。待ってるからさ。

 首がキリンみたいに長くなる前に迎えに来ておくれよ。そうしないとぼく、ほら、なんだっけ。

 あの首のながあああああいおばけ。

 

 あれになっちゃうかもしれないよ。

 じゃ、またね。これで本当に最後。


 毎日、一所懸命に生きて、いつかぼくにも出会って、一緒に笑って怒って、泣いて、楽しいことが一杯できる日を待ってるから。


 ありがとう、またね。

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― 新着の感想 ―
[一言] “童話”というと、子供に聞かせるお話みたいにも思うのだけれど、この作品は大人がとても勇気づけられる内容です。 ボクも君に会えて本当によかった! 執筆お疲れ様でした。
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