8.報いを受けます。
今日はまどかが家でお留守番をしている。稀にまどかが家に残ってお勉強をしているようだ。
テレビで色々な情報を仕入れているらしく、最近はペット特集も観ていると言った。流行りの服も一応チェックしているようだ。
「ただいま、まどか」
玄関を開ければまどかはいなかった。変わりに俺の声を聞いて走ってきた黒い塊、けがわだ。
元気に鳴きながらズボンの裾を加えグイグイと引っ張る。
ぞわりと冷たい感覚が背中を走る。鞄から手を離し、靴を玄関に脱ぎ捨てて、走る。
「まどかっ!」
けがわが出てきた角を曲がり、ばっと視界に入ったのはけだまがまどかに寄り添うように離れて見守っていた。遠目でもまさかは真っ赤で息が荒く、苦しげ。
「まどか」
何を言えばいいのかわからない。
そっと抱き上げれば酷く熱い。自分の皮膚が赤くなる。
うっすらと開かれた瞳に俺を移したまどかはギュッと俺に抱きつく。息が荒く苦しげに歪められた顔。
「…い」
不意に一気に脳が覚醒したかのように動き出した。
早く呼ばなきゃ。
「…医、獣医っ!?」
まどかはちっちゃいし。
やっぱり獣医とかか。
でも、人型だからやっぱり医者。
「医者かっ、獣医かっ!?」
どっちも呼ぶか。
まどかを抱えたまま携帯を手にしようとしたがいやいやと頭を振りぎゅうぎゅうと抱きついてくる。
結局、何も呼ばすに俺がまどかの看病をする事になったが、やっぱり人間と神様では勝手がずいぶん違うようで、ろくなことはできなかった。
「大丈夫か?」
一応、氷を砕いて水を入れた袋をまどかの御身に当てているがすぐに熱湯になる。
「どうしたら、いい」
無力だ。
どうしたらいいか、わからない。
俺は無力で。
「そばに、いて…優」
「ああ、どこにもいかないよ」
ヒリヒリと痛い。
無力さが憎い。
「ずっと一緒だ」
熱湯になった袋を捨てて、俺はまどかと一緒にベッドの中に入った。
相変わらず苦しそうで胸が痛い。
どうしてこうなったのかがわからない。
悔しい前に辛い。
「愛してる、まどか」
自分はどうでもいいから。
「まどか…」
ぼんやりと意識が遠くなる。
ああ、駄目だ。
まどかは苦しんでるのに。
目を開けないとと目を開けばそこには熱いほどに熱があったまどかはいなかった。小さな温もりもそこにはなかった。
いまいちに状況がわからない。
多分、一瞬に感じていた瞬きはかなり時間を使っていたというか、気を失っていたんだろう。
未だに胸元に酷い痛みを感じるが一気にそれすら忘れてしまうような衝撃に襲われた。
というか、忘れた。
血の気が一気に引いて生きた心地がなかった。