4.初めてのお散歩をします。
暖かい。
柔らかな温もりが肌を仄かに暖める。
まどかの依り代となっているネックレスは暖かみがある気がする。暖かいとはまたちょっと違うような気もするんだが、そう、例えるなら風呂に入ってぽかぽかと暖まっていく感覚だ。
身体全体がくまなく暖かい。
秋が近くなった。
三年の俺は就職先は決まってない。いや、今までの行いが悪かったのかなかなかに決まらない。
決まらなくてもまどかの為にアルバイトでもして美味しい供物を貢ぎたい。まどかは肉や魚を食べない。
たまに豆をハムスターのごとくカリカリと食べているのを見ると和むが、まどかは果物の方が好みようで顔を綻ばせて本当に嬉しそうに食べる姿が最高に愛らしい。
まあ林檎や梨、蜜柑などだ。苺や葡萄は論外らしいが。もちろん、皮は俺が剥いて上げている。
「初めての外はどうだ、まどか」
やっぱり、初めての外出先は公園だ。早朝だからか人はあまりいない。たまにランニングか犬の散歩をしている奴がいるくらいだ。
「そうか」
依り代が悪いのか喋れない。だが、そこは 神の御告げなのかまどかの言いたい言葉がわかる。
これは信仰心のなせる技だな。
まだひんやりとする朝の空気はまどかの温もりをより心地良く感じさせる。うん、爽やかな朝だな。
「まどかは可愛いな」
気分が高揚しているのかはしゃいでいるまどかの姿を見れないのは残念だが、喜んでいるようだし良しとする。可愛いし。
しばらくベンチに座ってまどかと一緒に空や木を眺め、あらかた満足したまどかは帰ろうと急かしてきた。
やっぱり、家の方がいいんだろう。
あまりに可愛いまどかに急かされて早足で家に帰る。まあ、早足というか走った。
玄関に入り扉を閉めた瞬間にまどかは姿を現すと同時に抱きついてきた。
ムギュムギュと抱きついて離さないと言った仕草にときめく。本当にまどかは可愛い。
よしよしと宥めながら靴を脱ぎ捨てる。後で整えるから今だけは許してくる。
「まどか」
本当に離す気配がない。
嬉しいがやっぱり困る。
「まどか。俺に可愛いまどかの顔見せて」
そう言えばおずおずと顔を上げてくれた。少しだけ潤んだような瞳にギョッとしたが、色っぽいというか欲を駆り立てる。
「優、ずっと」
全てが可笑しい。
「一緒がいい」
破裂しそうなくらいに騒がしい心臓に疚しすぎる欲情。
そしてなによりも、神様を想う俺が可笑しい。
最初から可笑しすぎたのか。
「俺もそうだよ、まどか」
そうだとしたら、俺は。
どうしたら良かったのか。