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第九話 爆炎の姫

前回のあらすじ~


圧倒的な魔力を使う魔王

その一撃を全力を使ってとめたフォールナ

グラルドは所詮見てることしかできない



ニャスベルク「ニャ~、……ニャ?」

「ニャハハ! これで後二人だニャ~」


「ホールネ! ホールネ!」


「安心せいグラルド、気を失っておるだけじゃ」


コンと軽くグラルドは頭を叩かれました。


けれど、そのただの一動作が、慌てきったグラルドの頭を急速に落ち着かせました。


「そ、そうなのか?」


「まったく、お主がしっかりせんでどうする。それに、妾たちがやれることはただ一つじゃろう?」


そう言ってシャイナはキッと魔王クルベスをにらみつけ、杖を振り上げました。


「あの魔王を倒すことじゃ!」


ゆらりとシャイナの周りの空間が歪んだように見えました。


陽炎のようなそれはシャイナの精神力の高まるのに呼応するように、次第にくっきりとその歪みが見えてきました。


「陽炎? ……いや違う。これは、魔力か! すごい……、魔力で大気が歪むなんて……」


「グラルドよ、妾が今日一日まったく魔法を使わなかったのはなぜじゃと思う?」


さすがにここで“面倒くさがりだからだろ”という本音を言うわけにもいかないので首をかしげていると…


「それは、妾の全魔力を一度の魔法に使うためじゃ!」


シャイナの周囲の陽炎がさらに大きく揺らめきました。


「ニャ、ニャ、ニャ! 全魔力を一度の魔法に込めるとニャると、こちらも相応の魔力を込めニャくてはニャらニャいニャー。」


魔王クルベスの周りにも同じような陽炎が立ち上りました。


「なっ…、魔王にも魔力の陽炎が! あれだけの魔法を使っていたのに! …正面からぶつかるのは危険だな、……ってシャイナ聞いてる?」


すでにこの時、シャイナは魔力のコントロールにすべての神経を使っていたためグラルドの声は届いてませんでした。


響いてくるのは魔力が高まりきったその時、魔法の発動のタイミングだけです。



「…ゆくぞ魔王! 灼炎の風 吹き抜けるは 果ての龍脈…」


同時に魔王クルベスもスペリングを始めました。


「漆黒の天空 流れる星々は 全てを超える…」


「我が声は 大地を焼き 我が翼は 天さえも焼き払う…」


「一点となった欠片は 宇宙からの裁きを 地にいる者たちへ与える…」


双方の魔力が一段と高まり研ぎ澄まされました。


「我は紅蓮 万象は塵となり 全ては幕を閉じる…」


「放たれた星は 万里を超え 残る者は祈りをささげる…」


魔力の高まりを横から見ていたグラルドは、数秒後に起こる衝突から身を守るため身を伏せました。


解き放たれるまで少しの間もない…


「我が前には塵すら残さぬ! イグニート インフェルノ!」


「恐れるがいい天の怒りを! メテイオ!」


二人(片方は匹?)の魔力が解き放たれました。


発動の瞬間に出る魔力量だけでも通常の魔法に匹敵するほどです。


「な、何が起こるんだ! シャイナも魔王も並の魔力量ではなかったし…ん?」


グラルドが魔王の方を見ると、魔王の後ろの空、遥か後ろに今までの流星が小石に見えるほどの巨大な流星を見つけました。


光をまとったそれは、流星と呼ぶには大きすぎました。


大きさにして先ほどの流星の五十倍はあろうかというものです。


「あ、あ、あ、あれが魔王の放った魔法か…。ハハハ、あんなのどうするんだ? シャイナ、覚悟したほうが…」


絶望し振り返ったグラルドが見たものは高々と振り上げた杖の先、火竜をそのまま槍にした、まさにそんなような炎の巨槍が現れていました。


「安心…せいグラルド。妾…の力で、あの流星もろとも……魔王を滅ぼしてくれる!」


全ての魔力をたった一つの魔法にかけたため、とてつもない疲労がシャイナにも訪れようとしていました。


「まだじゃ…な。今倒れては、ここまでした…意味がないからのぅ」


スッと、息を吸い込むと、まっすぐに魔王を見据え杖を振り下ろしました。


放たれた火竜の巨槍は、その大きさに反して驚くほどの速さで魔王クルベスに向かって飛んでいきました。


「ニャ、真正面から挑むとは、さすがこの国の姫君、その心意気は認めるニャ! だが…」


魔王の流星と王国の姫の火竜の槍が戦場の中心で衝突しました。




ズゴガグワァン!!




二つの魔法がぶつかり合った衝撃は、戦場そのものを揺るがすほどの大きなものでした。


「う、うわー!」


身を伏せていたグラルドは、思いもよらぬほどの衝撃波で二メートルほど吹き飛ばされ、何とか草をつかみ、衝撃波が収まるのを耐えていました。


「し、しかしすごい衝撃波だな。シャイナ~、無事か~?」


すると…


ドサッ


「ん? 何か飛んできたな、なんだろう?」


衝撃波もだんだんと緩やかになってきたので、グラルドはつかんでいた草をはなし、何かが飛んできた方向に歩いていきました。


そこには…


「あ! シャイナ! 無事か?」


そこにはシャイナが仰向けに倒れていました。


少し声をかけると反応があったようです。


「う~ん、はっ! グラルドか、妾はどうしてここに倒れておるのじゃ?」


「よくわからないけど、さっきの魔法を使った反動で気を失ったんじゃないのか? それでそのあとの衝撃波に飛ばされた…んだと思う」


「そうか。そうじゃ! 奴は、魔王クルベスはどうなったんじゃ?」


「そういえば、どこへ行ったんだ? もしかして、シャイナの魔法で焼失したのかも」


「うむ、それならよいのじゃが…、少し怪しいのぅ」


そう言って二人が辺りを調べていると、聞き馴染んだ声が聞こえてきました。


「いたた、すごい衝撃波だったわね。シャイナもやればできるじゃないの」


振り返るとフォールナが草の葉を払いながら立っていました。


「ホールネ、気が付いたんだ、大丈夫か?」


「まだ頭がクラクラするけど、まあ無事ってとこね。ところで、魔王クルベスは?」


「妾の全魔力を一度に使った大魔法じゃ! 少なくとも、無傷では済んでおらぬじゃろう。」



こう見えて、シャイナは行き当たりばったりのタイプではなく、最悪の事態を考えて行動するタイプのようです。


今回の大魔法もフォールナが倒れ絶体絶命になった時のための最善の策だったのでしょう。


ですから今も、魔王クルベスを倒したなんて甘い考えは微塵もなく、手傷を負わせた程度と考えているようです。


意外に頭がいいのかもしれません……。


「意外とはなんじゃ! 意外とは!」


「まあまあ。とにかく今のうちに白銀のメダリオンを手に入れてしまいますか」


そういって、グラルドが月の祭壇の階段に足を踏み入れようとすると、空からあのエコーのかかった声が聞こえてきました。


「ニャハハ、まさかここまでやるとはニャ! だが!」



青白い流星の尾を思わせる光が空から降り注ぎました。


そして…、あの黒い影がその光の中心にグニャリと現れたのです。


次回予告


二人の全ての魔力を使ってでも魔王を倒すことはできなかった

残ったグラルドが放った魔法とは?


「第十話 光の矢と白銀の光」



“所詮は床や壁や天井に穴をあける程度の魔道士だったということだニャ”

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