第七話 闇を味方につけるもの
前回のあらすじ~
天才的な探知魔法を使ったフォールナ
次元が違うシャイナの記憶力
爆発に続き方向音痴のグラルド
フォールナ「部屋の隅が負のオーラで充満してるんだけど…」
夕日が地平線の向こうに半分隠れ広い平原を赤く染め始めたころ、やっとグラルド達は月の祭壇に到着しようとしていました。
「やっと到着か、意外と遠かったな~」
「お主が道を間違えなければ、もっと早く着いたはずじゃ!」
「まあいいわよ、ただ問題は……」
フォールナは近づいている月の祭壇を不安げに見上げました。
夕日に照らされた月の祭壇は怪しげな静けさに包まれていました。
「先に行った人との戦いは避けられないわね」
月の祭壇についた三人が見たものは、気絶している大勢のチームの生徒たちでした。
「なに……これ…?」
「どうなっておるのじゃ! 今回の大会では時と痛みの天秤の力でこんな状態にはならぬはずじゃろう!」
「双方、魔力を使いすぎて相打ち……、にしてはさすがに多すぎるよな……」
「とにかく、大けがをしている人がいないか手分けして確認して」
「そうだな、さすがに勝ち負けを言っている場合じゃないな」
「ふむ、見捨ててもよいのじゃが、まあよいか」
そういって三人は気絶した生徒たちを移動させつつ、けがをしていないか確認していきました。
どうやら、それほど大きなけがをした生徒はいないようで、すり傷や軽い打撲程度ですんでいるようです。
「ふ~、さすがにこれだけ運ぶと疲れるな~」
「なんじゃグラルド? お主、浮遊の魔法も使えぬのか?」
「いや、こんなところで無駄な魔力を使いたくないんだよ。…って、シャイナ見てるだけじゃなくて手伝え!」
「ふむ、妾にもいろいろと考えがあるのじゃ。少し考えさせてもらおうか」
シャイナはそう言うと石に腰掛け目を閉じて考え始めました。
「まったくよ~、フォールナ手伝おうか?」
グラルドが振り返ると、十数人の生徒を宙に浮かせているフォールナがいました。
「……うわ」
「何? 私の方は大丈夫だから、そっちの方をお願い」
「あ、ああ(さすがだな、なんか劣等感が、うぅ)」
そんなこんなで、気絶した生徒たちを祭壇の門のあたりまで移動させ終わりました。
「ふう、疲れた。しかし何でこんなことになってるんだろう?」
「ふむ、妾が思うに時と痛みの天秤が発動しておらぬところを見ると……」
「魔法以外の攻撃ってこと?」
「うむ、その可能性の方が高いのじゃが…」
「??? 他の理由があるのか?」
「もしも、このマジックアイテムが受けきれぬほどの魔力量が来たとするならば……じゃ」
三人の間を冷たい風が吹き抜けました。
その緊張に耐えられなくなったかのように、
「ハハハ……、怖いこと言うなよな」
と、グラルドが言いました。
顔は笑っていますが、冷や汗を流しているところを見ると、かなり緊張しているようです。
「……最悪その可能性も考えておいたほうがよさそうね。」
フォールナも杖をグッと握って魔力を高めているようです。
三人が月の祭壇の門の前で話し合っていると、突然月の祭壇の門が輝き始めました。
「な、何?」
「急に門が光り始めた! 何が起こるんだ?」
「少しばかり離れたほうがよさそうじゃな」
三人が少し離れるのとほぼ同時に光の門の中に人影が現れました。その人影は……
「クラウィン先生!」
いつも見なれたクラウィン先生の姿がそこにはありました。
「あら~、グラルドさんにフォールナさん、シャイナさん。頑張ってますか~?」
「クラウィン先生! なぜここに?」
「このあたりで生徒さんたちが大勢気を失っているらしかったので、私が引き取りに来たのよ~」
「一体誰が連絡したんですか? ここに来た生徒はみんな気絶していますし……」
それを聞いてクラウィン先生は、ふふっと微笑むと指を一本立てて、
「そ・れ・は、ひみつです。」
と言いました。
「ひみつって、先生……。そういえば、なんでクラウィン先生が引き取りに来たのですか? 別のクラスの生徒なんだからその担任の先生が来るならわかるけど」
「そうね~、このマジックアイテムを使えるのは私だけだからかしらね~」
「ふむ、確かにお主の魔力の高さは王宮に来た時に見せてもらったからのう。他の者には使えぬのも納得のいく話じゃ」
「で、先生。そのマジックアイテムはどんな力があるんですか?」
「この光の門は二つの場所をつなぐゲートを作り出すものなの」
「それって忘却されし魔法じゃないですか!」
フォールナは驚きの声をあげました。
忘却されし魔法……それは、かつて神々が作り上げたと呼ばれる強力な魔法であり、長い歴史の中で失われてしまった、まさに伝説と呼ばれるほどの魔法です。
「はい、説明ありがと~。忘却されし魔法を知っているなんて、さすがフォールナさんね。この光の門は先に二つの場所を記録して、その二つの場所を繋ぐことができるマジックアイテムなの。忘却されし魔法にとても近い能力があるのよ~」
「空間を繋ぐ力か~、さすがクラウィン先生だなぁ。」
「それじゃ~、私は気を失った生徒さんたちを一度学園に連れて行くわね~。大きなケガがあったら大変ですから~。」
そういってクラウィン先生は数十人の生徒たちを浮かすと光の門の中へ入っていきました。
「グラルドさん、フォールナさん、シャイナさん、頑張ってくださいね~。」
クラウィン先生がライトゲートをくぐると、すっと光の門は消えていきました。
「さて、クラウィン先生にも期待されてるみたいだし、そろそろ行くわよ!」
「そうじゃな、そろそろ小腹も減ってきたころじゃ。」
「よし! 行こう!」
三人はぐっと杖を握ると月の祭壇へ向かっていきました。
「慎重にいく必要がありそうね」
「そうじゃな、あの者達のようにはなりたくないからのぅ」
「気合を入れていきますか!」
三人が月の祭壇の階段に足を踏み入れると……
「よく来たニャ~、グラルド、フォールナ、シャイナ~」
不意に空から拡声器を使ったような、エコーがかかった声が響いてきました。
「なに……この声?」
「怪しげな雰囲気がするな……」
「構えるのじゃ! 何か来おるぞ!」
夜空になりかけた藍色の空から黒い影のようなものが降ってきました。
黒い水のようなそれは、グラルドたちの前で形を変え、一見すると大きな黒い猫のようになりました。
「よくぞここまでたどり着いたニャ~。だが、それもここでおわりだニャ~」
怪しげな影はゆらりと三人の前に立ちはだかりました。戦わなくてはいけない相手であることは三人にも十分理解できました。
「お、おいあれって…」
「まさか…」
この時グラルドとシャイナには同じひとつの単語が連想されました。
子供のころ聞かされていた物語の中に存在する最強の魔物……。
「「魔王!」」
その者が今、目の前にいる。
そのことが二人の集中力を一段と鋭くさせました。
次回予告
溢れ出る魔力、圧倒的存在感を持つ魔王
この劣勢の中フォールナの実力が今解き放たれる!
「第八話 降り注ぐ星と二つの魔法」
“私の詠唱した二つの魔法は両方とも“魔力を退ける力”を持っているから”




