第四話 絶対的と見学会
前回のあらすじ~
意外と足の速い姫(竜に追いかけられて一応捕まってない)
その竜に立ち向かうネコ(もうこいつ主人公でよくないか?)
そして、どう見ても第三者的存在価値の主人公
グラルド「毎回思うんだが俺の扱いが………」
西の平原に緊迫した風が流れていました。
尻尾の一撃を避けられうかつに攻撃できなくなった翼竜と、次の攻撃にどう転じようか考えているニャスベルクとの間に短くない時が流れていました。
「うわ~、緊張するな~、って俺には何にもできないけどさ。しっかしなんであのネコは逃げないんだ? もしかして翼竜と戦えるほど強いのか、そんなに強かったっけ?」
グラルドは二匹をじっと見つめました。
「この戦いで何かわかるかもしれないな……」
今、目の前で始まろうとしている戦いをしっかり眼に焼けつけようとグラルドは思いました。
とはいえ、ニャスベルクがピンチになったらシャイナのときと同じように助けなくてはいけません。
「ネコ~勝て~、ネコ勝て~。翼竜に追っかけられるのは御免だ~」
緊迫した空間に一筋の風が吹き抜けました。
「ニャー!」
その瞬間、ニャスベルクが翼竜に向かって飛び掛りました。
体を大きく横にひねり右腕を(いやネコの場合なので右前足か)大きく振りかぶりました。
「あのネコ一回のジャンプでワイバーンの頭の上まで飛び上がったのか! でもあのネコの体勢からして翼竜の頭を引っかくのか? いくらなんでもネコの爪と翼竜の鱗とじゃ話にならないだろう……。ど~するつもりだろ?」
グラルドの思ったとおり振りかぶった前足を勢いよく振り下ろしました。
しかし引っかくためではなかったようです。
「ニャーニル!」
その一言、いや一声と共にニャスベルクの右前足が淡い光に包まれました。
そしてその前足を翼竜の額(注:正確には髪の生え際から眉までの間を額というので、翼竜には額は存在しません)目掛けて振り下ろしました。
ズガッ!
とてつもない音と共に翼竜は頭から地面にたたきつけられました。
「ス・スゲ~! 何だ今の……そうかわかったぞ! あれは“超ネコパンチ”だ!」
……まあ落ちこぼれのグラルドの頭ではこれが限界でしょう。
フォールナやクラウィン先生がいたのならもっと詳しいことがわかったでしょう。
「グルル……グオォー!」
「げっ、あの翼竜まだ生きてる。普通あんなの食らったらひとたまりも無いだろうに、さすが竜族」
翼竜はすぐに立ち上がるのかと思いきや、姿勢を低くして何かをじっと待っています。
「まずいな。あの翼竜、ニャスベルクが地面に降りたときにできる無防備状態を狙っているのか……。降りてくるな~ネコ~! って無理だよな~」
一方ニャスベルクは翼竜への一撃の反動を利用してかなり高くまであがりました。
ニャスベルクは空中で前足後ろ足をピンと張ったかと思うとまるで毛糸玉の様に丸まりました。
「ニャーニャ ニャーニャ ニャルニャーニャ ニャニャニーニャ ニャーニャルニャル ニャニャーニャー! ニャーニャ ニャ~~~ン!」
スペリングを高らかに唱えた……はずです。
丸くなっていたニャスベルクの体に淡い青い光がともりました。
それと同時にニャスベルクが空中で回転し始めました。
下から見ていたグラルドは、
「へっ? まだ昼間なのに月が出てる……、いったい何が…」
と勘違いをしています。
けれどもし夜だったなら他の人でも本物の月と見分けが付かないでしょう。
翼竜も空を見上げて一声咆哮を放ちました。
刹那、ニャスベルクが翼竜目掛けて降り注ぎました。
さて驚いたのはグラルドです。
「う・うわ~、月が降ってきた~! この世の終わりだ~!」
まあグラルドにして見れば、あれがニャスベルクだとわからないのであわてるのも当然です。
その間にもニャスベルクは翼竜目掛けて落ちていきます。
「ニャー!」
ニャスベルクの咆哮と共に淡い光が一層強くなり、落ちるスピードも一層速くなりました。
その姿はまるで彗星のようです。
そしてその彗星は翼竜に当たり、轟音と同時に爆風と衝撃が吹き荒れました。
「う~わ~! あれはニャスベルクだったのか、しかし何て威力だ! 翼竜はどうなったんだろう……」
グラルドが近づくと、そこはすさまじい状況になっていました。
土煙に隠れてよくは見えませんがそこだけ草花がなぎ払われていました。
「凄まじいな……、しかし何の魔法だ? と、言うよりあれは魔法か?」
土煙が風に吹かれその戦場があらわになってきました。
翼竜は粉々になり翼の一部がそこに残されていました。
そしてその戦場一帯はクレータになっていました。
「そうか、あの小鬼もニャスベルクにやられたのか……」
グラルドの脳裏にしっかりとその状況が浮かびました。
隕石にでもつぶされたような小鬼の死体、そしてその周りが小さなクレータに…
「そうか、わかったぞ! あれは“キャットムーン”って魔法だ!」
グラルドにしてみればニャスベルクが月みたいだったというくらいでしょうが案外近い線をいっているのかもしれません。
少なくとも“超ネコパンチ”よりはよっぽどましです。
少ししてニャスベルクがクレータから出てきました。
あれほどの衝突なのに傷一つ負ってません。
まあ自分自身の魔法で傷を負う事は基本的にはないのですが、グラルドのような魔道士だと暴発して傷を負います。
「ニャスベルク! 無事か? いやよかった、お前が負けそうになったらお前を抱えて学園まで走らなきゃいけないからな~。しっかし、お前強かったんだな。まあいいや、さ、学園まで帰ろう」
と言ってニャスベルクを抱え上げました。
「ニャ?」
ニャスベルクからすると翼竜を簡単に倒してしまったのに、恐れたり逃げ出したりせずにいつも通りに抱え上げてくれたグラルドの行為がとても嬉しく思いました。
今までは魔法を使うだけでも恐れられ迫害されてきました。
でも今は“たとえどんなに強力な魔法を使おうとも、それを認めてくれる人がいる”そう思えるようになったのです。
「あれ、ニャスベルク? はぁ~、寝ちゃったか。ま、翼竜と戦って疲れないわけないしな~。まあ、置いてきぼりになるよりはいいな」
グラルドはニャスベルクの体をそっと撫でると学園に向かって歩き出しました。
学園に着くとフォールナとシャイナが満面の笑みで二人(一人と一匹)を迎えてくれました。
さて翼竜事件から数日たったころのことです。
「起立・礼・着席」
グラルドの号令がかかりました。
さて、いつもと違うのは教室にグラルドとクラウィン先生しかいないことです。
ほかの人はというと、フォールナは、
「悪いけど、私の憧れの先輩が“魔法の試験があるから手伝って”って言ってきたの。クラウィン先生の了解は取ってあるから!」
シャイナは、
「この前の翼竜に追いかけられたときの疲れが取れておらぬ! 城でゆっくり養生することに決めたのじゃ!」
ニャスベルクは、
「ニャー!」
「全くあいつら~! ホールネの一番の憧れはクラウィン先生じゃなかったのか? ホールネが言うには“一番の憧れはクラウィン先生よ! でもそれはそれ、これはこれよ!”らしいけどそれは自分勝手だろ! シャイナなんていつまで疲れが抜けないんだよ……、少しくらい疲れてても授業出ろよ! 俺は次の日からもう出てたぞ! ネコなんかわけわからんし……」
とグラルドが愚痴っています。
「まあしかたないわね~。それでは授業を始めます。今日は魔法の属性について復習しますよ~」
クラウィン先生はグラルドをなだめるように授業を始めました。
「いいですか~、属性には火・水・風・土の四種類が基盤となってます。それに加えて四種類から派生する熱・氷・雷・金ですね。大きく分けてこの八種類から魔法は成り立ちます。ここまでは前に授業でやりましたのであまり詳しくやりませんが大丈夫ですか?」
「まぁ……、これくらいならなんとか……」
グラルドとしてはこの八種類の属性を理解するだけでもかなり苦労しています。
どれがどの派生なのか、元の属性がどちらなのか、そんな問題が出てくるとそれだけで長い時間を費やしてしまいます。
「そうね~、グラルドさんは属性として覚えるよりも、もっと具体的に考えた方が解りやすいと思うわ~。例えばそうね~、フォールナさんは水の派生の属性である氷の属性を得意としているわ~」
「あぁ、そ~いえば……」
グラルドにしてみると一度氷付けにされた事があるので、あまりフォールナ=氷と覚えたくないのです。
「シャイナさんは火の属性を好んで使うわ。まだ魔力は高くないのだけれど、スペリング発音の上達が早いの。きっとすぐに強力な魔法を使えるようになるわ~」
「シャイナには負けたくないな」
グラルドは対抗意識を燃やすように言いました。
「では、ここからは八種類以外に分類される属性を勉強します」
「え? 先生、八種類以外の属性なんてあるんですか?」
とグラルドが驚きながら言いました。
「ふふっ、あまり多くはないのだけどね~。まず、聖と闇の二種類ね。聖は傷を癒したり邪を祓ったりする属性ね、私も少しなら使えるのよ~。これに対をなすのが闇ね、人間の魔道士でこの属性を使える人はほとんどいないわ~。この属性の魔法は相手を破滅させることができる危険な属性なのよ~。この二種類は属性に対して神性と呼ばれているのよ~」
と先生が説明しました。
「…聖と闇、覚えられるかな~……」
「そうね~、他には……」
「! 他にまだあるんですか!」
これ以上覚えることが増えるのかと思ったグラルドはそう言いました。
と、そこへ…
「王宮からの使いの者だ。クラウィン・デル・オーム殿はいらっしゃるか、緊急の任務を伝えに参った」
騎士の格好をした人が教室に入ってきました。
「あら~、御苦労様。それで王宮は何を?」
「ここに王宮からの書状があります」
そういって一通の手紙を差し出しました。
「………わかったわ、王様にはすぐに取り掛かると言っておいて」
「はっ、では」
一礼すると騎士の格好をした人は教室を出て行きました。
「先生、今の人は王宮の騎士みたいでしたが、なぜ先生に会いに来たのですか?」
「そうね~、よくわからないのだけど、いつの間にか王様から信頼されていて、時々こうやって任務を任されてしまうのよ~。シャイナさんがこの学園に入学してきたのも私がいたからなのよ~」
とクラウィン先生が説明しました。
「王様から一目置かれているのか~。そういえば、ホールネが尊敬しているんだからただの先生じゃないよな~」
「しかし困ったわ~、授業もしなくてはいけないのだけど、緊急の任務といっていたし……」
「! そうだ、先生の任務を見ていれば実践的な魔法の使い方を覚えることができます」
そうグラルドが提案しました。
グラルドにしてみると新しい属性を覚えなくてもよくなりそうなので、先生が任務を遂行してくれることを勧めたいのです。
「う~ん、確かにグラルドさんには口で教えるより実際に見てもらったほうが良いのだけれど、少し危険かもしれないの」
「少しくらいなら平気です。一度翼竜に追いかけられた事もありますし」
「……わかりました。それでは野外実習とします。必ず身の安全は確保することいいですね~」
「は~い!」
「それでは行きましょう」
そう言ってグラルドとクラウィン先生は教室を出て行きました。
次回予告
クラウィン先生が行う任務とは?
グラルドの目に映ったクラウィン先生の姿は……
「第五話 誇りと競い合う心」
“まあ、勝負は正々堂々じゃな!”




