第三話 駆け抜けるは姫と猫
前回のあらすじ~
平原にいたのは小鬼ではない!
ニャスベルクの運命は?
グラルドはしょせん爆発だ。
グラルド「俺の扱いひどくないか?」
「何故じゃ! 何故、この様な所に翼竜がおるのじゃ!」
シャイナは走ってました。
そう、ほんの数分前平原に降り立った翼竜とシャイナの視線が正面衝突してしまったのです。
シャイナは全速力でもと来た道を走り出しました。
「まったくどうなっておるのじゃ! 出たのは小鬼ではなかったのか! いくら妾でも翼竜など倒せるわけなかろう!」
シャイナも一応魔道士です。
一度は魔法で応戦したのですが、シャイナの得意な火の魔法では翼竜の鱗を焦がすどころか、怯ませる事もできなかったのです。
幸いにも加速の魔法が少しだけ使えたので何とか逃げ延びています。
しかし翼竜は着実にシャイナとの距離を縮めています。
「誰かっ、助けてー!」
シャイナの助けを求める悲鳴が平原を駆け抜けました。
さて、ニャスベルクから置いてきぼりにされたグラルドも西の平原にたどり着きました。
「お~い、シャイナ~、お~い、シャイナ~……ふぅ、あのおてんば姫どこへ行ったんだ。そう言えばあのネコも! まったくあいつら~!」
置いてきぼりにされているのでそれなりにグラルドも不機嫌です。
西の平原はかなり広く、また背の高い草に覆われているため周りを見渡してもあまりよくわかりません。
「仕方ない、このまま真っ直ぐに進むか! さぁ~、行っく…… のぁ!」
張り切っていこうとした矢先、グラルドは何かにつまずきました。
「いって~、なんだこれ? ……げっ小鬼の死体か。あ~びっくりした。でもどうやったらこんな死に方をするんだ?」
小鬼であったものは、今はその原形を留めていませんでした。
肉の塊といった表現がぴったりと合うくらいの状態になっており、そこを中心として小さなクレータが出来ていました。
「うわ~、なんだこれ? なんかこう隕石にでもつぶされたみたいだな。ま、いっか。そうだったシャイナを探さないと」
グラルドは小鬼の死骸を後にしてどんどん平原を進んでいきました。
「はぁはぁ、もう一歩も動けん。美しい花はすぐに枯れるというがどうやら本当だったようじゃ……。誰も妾を助けてくれないのじゃろうか」
今シャイナは平原にある並木道の木の陰に座り込んでいます。
元々姫という身分なので長く走ることに慣れていません。
そのため体力を使い切って動けなくなってしまいました。
翼竜はすぐそこの木の後ろまで迫っています。
と、その時
「シャイナ~! やっと見つけた!」
後ろばかりに気を取られていたので気が付かなかったのですが、かなり近くまでグラルドが来ていました。
「グラルド、何故……このような所へ」
「まったく、シャイナが心配になって急いで後を追いかけたんだ。一人じゃピンチになると思って助けに来たんだよ! いくらなんでも一人で小鬼の群れなんか……へっ?」
グラルドがふと見上げると木の後ろから翼竜が舌なめずりをしながらこちらを見ています。
「マ~ジ~!」
グラルドはシャイナの手を取ると思い切り走り始めました。
「妾を助けに来たのではなかったのか?」
「いや無理だから! 翼竜なんて無理だから!」
しかし、二人とも(特にシャイナ)疲れきっていたので足がもつれ一緒に転んでしまいました。
翼竜の牙がすぐそこまで近づいています。
「もうだめか……」
そうグラルドが言った瞬間、翼竜の動きがぴたりと止まりました。
そしてそのまま追って来た道を引き返していったのです。
「! 何じゃ今の魔法は、あの翼竜を追い返すとは……」
「俺にもわからないよ。でも今がチャンス、急ごう!」
グラルドがそういうとシャイナも頷き全力でその場から逃げ出しました。
二人が平原の入口までたどり着くと、グラルドが思い出したように言いました。
「あっ、しまった! あのネコのことすっかり忘れてた! もしかしてあの翼竜に追われてるんじゃ!」
「まさか戻る気か! とても正気とは思えん、妾は絶っっっ対に嫌じゃからな!」
「わかってるさ。シャイナは先に学園に戻って無事という事と、この事を先生に伝えてくれ」
グラルドにしてみれば疲労困憊のシャイナがいるよりも一人のほうが格段に安全で楽なので一石二鳥の手でした。
「……わかったのじゃ。必ず戻ってくるのじゃぞ、これはファルナ王国の姫としての命令じゃ!」
なんとなく目の前のおてんば姫の瞳がうるんでいるように見えたので、グラルドは少しかっこつけて、
「わかってるさ! あのネコを連れて一刻も早く学園に戻る」
と言ってグラルドは平原の奥へと走っていきました。
「戻ってきたら礼の一つでも言ってやろうかのぅ……」
シャイナもそういって学園のほうへ歩いていきました。
さてニャスベルクを探すためグラルドはどんどん平原を進んでいきます。
「くそ~、ネ~コ~……、どこだ~、お魚あげるからでてこ~い」
この広い平原の中、ネコ一匹探しだすのは丸一日かかっても無理でしょう。
そんなこんなしてるうちに、さっきの並木道まで戻ってきてました。
先ほどは翼竜に追われていて気が付かなかったのですが、とても穏やかで散歩道としてはもってこいです。
「へぇ、さっきはそれどころじゃなかったけど、この道はなかなかいいな~。道は緩やかだし、鳥の囀りは綺麗だし…」
そう言いながら周りを見回すと、
「さっきの翼竜がまだいるし……」
幸い翼竜は並木道から少し外れたところにいたためグラルドには気が付かないようです。
急いでグラルドは木の陰に隠れました。
「ふぇ~、また追いかけられるのは御免だからな。しかし、あんなところで何をやってるんだろう?」
そっと木の陰から翼竜の動きを見ていると、翼竜は姿勢を低くして唸り声を上げています。
「あれは威嚇! 確か竜族の威嚇は相手の実力が自分と同じくらいじゃないと使わないはず……。ということは、よく見えないけど今翼竜の前にいる人は、いや人じゃないかもしれないけどかなり強い」
「グルル……、グオォォー!」
翼竜の咆哮が空高く響き渡りました。
そして巨大な丸太を思わせる尻尾を目の前の何かに向かって振り回しました。
その尻尾を避けて、その何かが姿を現しました。
「えっ! あれってまさか……」
グラルドの目に映ったのは、見慣れた姿でした。
これから探そうとしていた一匹のネコがそこにいました。
「ニャー・ニャスベルク……」
翼竜と戦おうとしていたのは、あのニャー・ニャスベルクだったのです。
その頃、学園に着いたシャイナがクラウィン先生とフォールナに今までのことを話していました。
「……と、いう訳じゃ。それでグラルドはネコを探すためもう一度平原に戻ったのじゃ」
「あら~、それなら一緒に帰ってきちゃっても平気だったと思うわ~。それに運が悪いとグラルドさんが戦いに巻き込まれてしまうわね、そちらのほうが心配だわ~」
「クラウィン先生、先生はニャスベルクの実力を少し過信していませんか? 確かに魔力はグラルドより高いですけれど……、あれはネコですよ」
そうフォールナが言いました。
「妾もフォールナと同じ意見じゃ。相手は翼竜、戦いというより一方的な虐殺になってはしまわぬじゃろうか……」
「そうね~、確かにニャスベルクさんはネコさんだけど、特別な力を持っているのよ。」
クラウィン先生は微笑みながらそういいました。
「特別な力、先生それは何ですか? 野生の勘とかですか?」
「まあそれもあるけれど……、ニャスベルクさんはね、私たちでは使えない古の魔法を操ることができるの」
「“古の魔法”とはなんじゃ? 妾も聞いたことが無いぞ」
「ニャスベルクさんが使える古の魔法は、星や月などの宇宙の魔法と呼ばれているのよ」
「宇宙の魔法……、一体それはどんな魔法なのですか?」
「ふむ、妾も少し気になるのぅ」
二人とも未知の魔法に興味津々です。
「ふふっ、それはね……」
「「それは?」」
クラウィン先生はにっこりと笑って、
「まだ私にもわからないのよ(笑)」
……まさか先生からそんな答えが出てくると思ってなかった二人は、一瞬気が遠くなるのを感じました。
次回予告
翼を持つ絶対的な力を持つ竜と古の魔法を使うネコとの戦いが今始まる!
その光景をみたグラルドは……
第四話 絶対的と見学会
“何だ今の……そうかわかったぞ! あれは“超ネコパンチ”だ!”




