第二話 おてんば姫の小鬼退治
前回のあらすじ~
グラルド=爆発
フォールナ=ホールネ
転校生=お姫様
でした。
グラルド「いや、もっとまともな説明は?」
シャイナ姫が入学してから五日ほど経った頃のことです。
今日の授業は呪文詠唱の実技科目が実験室で行われているようです。
「ニャー・ニャ・ニャー」
ネコもといニャー・ニャスベルクの号令がかかりました。
一応、「起立・礼・着席」といっています。
「え~それでは魔道書の四十二ページ魔法を……シャイナさん前に出て唱えてください」
とクラウィン先生がシャイナに当てました。
「しかたないのぅ」
シャイナは面倒臭そうに前に出て行きました。
今回の魔法は火の魔法の基礎に当たる小さな火の玉を作り出す簡単な魔法です。
「コホン、わが杖より炎よ出でよ! フレイエ!」
その瞬間、杖から炎が噴出し天井を黒こげにしました。
「こ、この杖が悪いのじゃ!」
とシャイナは杖のせいにし、自分の杖を放り投げました。
「え~と、じゃあグラルドさん同じ魔法を」
今度はグラルドに当てました。
グラルドが前に立つとクラウィン先生以外の生徒が全員机の下に隠れました。
まあこのクラスの生徒はフォールナとグラルドとニャスベルクとシャイナしかいませんが…。
「ちょっと待て~い! また俺が失敗すると思っているのか? こんな基礎中の基礎失敗するわけないだろう」
とグラルドが言うと、シャイナが皮肉をこめて言いました。
「この間、大爆発を起こしたのは誰じゃ?」
「うぐぐ、見てろ! これが俺の実力だ!」
グラルドは杖を振り上げ呪文を唱えると、期待どおりに大爆発を引き起こし黒煙がもうもうと立ち込めました。
「やはり失敗したじゃろう。ナレーションですら期待どおりといっておるからのう」
黒鉛が晴れた後、ススだらけになったグラルドが立ってました。
「え~なかなか成功しませんね~、それほど難しくないはずですけど。では、ニャー・ニャスベルクさん」
クラウィン先生が額に手を当てながら言いました。
クラウィン先生は爆発の瞬間、魔法障壁を張ったので無傷です。
かなり高度な魔法ですがクラウィン先生ならではです。
さて、ニャスベルクが前に出て行きました。実験机の上に乗っかるとスペリングを始めました。
「ニャーニャニャニャー! ニャーニャ!」
まあ何て言っているか分かりませんが彼(オス)なりに呪文を唱えたのでしょう。
見事にニャスベルクの目の前に火の玉が現れました。
「はい、よくできました」
クラウィン先生は軽く拍手をしました。
「はぁ~。グラルドにシャイナ、あんたたちネコでも出来ることを何失敗してるわけ?」
半ば呆れてフォールナが言いました。
「いや、このネコが異質なんだよ……」
グラルドは今の魔法の失敗でかなり落ち込んでいるようです。
そこへ、他のクラスの生徒が慌てて入ってきました。
「あら~そんなに慌ててどうしたの?」
「クラウィン先生、西の平原に小鬼の群れが出たそうで、学園長室に先生を呼んでくるように言われて来ました」
「あら~、仕方ないわね。それじゃあ私が戻ってくるまで自習とします」
クラウィン先生はそう言うと呼びにきた生徒と一緒に実験室から出て行きました。
他のクラスなら多少騒ぐくらいですむのですが……
「ふむ、そうじゃ! 妾が小鬼どもを追い払ってやろう! この国の姫じゃからのぅ、これくらいはせんと」
と張り切って実験室から出て行きました。
「はいはい、シャイナあなたの実力では小鬼は倒せな…」
フォールナが振り返るとすでにシャイナの姿はありませんでした。
「もう行っちゃったぞ」
「って、何出て行ってんの! いくらなんでも一人じゃマズイでしょ」
落ち着いていたフォールナの顔が一気に青ざめていきます。
「よし、ここは俺が…」
「却下!」
即答です。
どんなときでも実力や力量を把握しているフォールナはグラルドの提案をOKするはずがありません。
「だけど、このまま放っておいたら、あのおてんば姫が危険だ!」
「それは分かってる、分かっているけど……」
「ホールネ、俺は自分のクラスメイトを見捨てるわけにはいかない。お前がなんと言おうと俺は行く!」
グラルドはそう言って立ち上がると扉のほうへ走っていきます。
「待ちなさい! あなた一人じゃ力不足といっているのよ!」
「じゃあどうしろと!」
「そうね……。 !そうだ、この子を連れて行きなさい。」
そう言ってフォールナが投げたのは……
「ニャギャァ~~~~~~~!」
「へっ?」
ゴン☆
グラルドは25ポイントのダメージを受けた。
「ニャスベルクはかなり強力な魔法も使いこなせるはず。後のことは任せていってきなさい」
「いたた、普通投げるか? 動物愛護団体から訴えられるぞ! まあいいや、それじゃ!」
グラルドはニャスベルクを抱えたまま外に走り出していきました。
「ガンバレって言ってあげれば良かったかな……」
独りになった実験室でフォールナはそっと呟きました。
さて小鬼を追い払うため西の平原に向かったシャイナですが、平原を見渡しても小鬼はおろか獣一匹いません。
途中の街道で馬車を使ったため、かなり早く平原についたようです。
「おかしいのぅ~、確か西の平原といっていたはずじゃ。なのに何故、小鬼がおらんのじゃ!」
シャイナは頭を捻りながら腹を立ててました。
空に大きな黒い影があるともしらずに……。
一方こちらはクラウィン先生と学園長らしき人が小鬼の群れのことで話し合っています。
「え~、それでは西の平原に出たのは小鬼ではなく翼竜だったのですか!」
とクラウィン先生が言うと
「うむ。小鬼が群れたため、それを狙って東の山から翼竜が飛来したのだ」
と訂正しました。
「生徒たちには西の平原には近づかないで、って言っておかないといけないわね~」
そう言ってクラウィン先生は実験室に戻りました。
そのころ……
「はぁはぁ、あのネコ足速ぇ~! まあ前足と後ろ足合わせて四本だから俺の倍のスピードが出るんだろうな~!」
と息を切らしてグラルドが言いました。
今いるのは西の平原に向かう一本道。
途中まで静かに抱えられていたニャスベルクですが、今さっき急に腕から離れ、ものすごい速さで走り出していきました。
その圧倒的な速さのためグラルドはニャスベルクの姿を見失ってしまったのです。
「くそ~、おてんば姫もネコも自分勝手だな。これなら加速の魔法覚えておくんだった」
加速の魔法……走る速さなどを一時的に上昇させる魔法です。
簡単ではないけれど、短い間なら学園の生徒でも使いこなせます。
けれど落ちこぼれのグラルドには無理な注文です。
「はっ! あのネコ、加速の魔法使ったな! よ~し俺も! 我が足は千里をかける翼となり加速する 我に追いつけし者皆無なり! アルクール クイック!」
ハイ、お約束。
チュドーン!
グラルドが爆発を起こしたころ、ニャスベルクは西の平原を走ってました。
もちろんシャイナを助けるためですが他にも走る理由がありました。
最初は気付かなったのですが、西の平原が近くなるにつれて何か好敵手のような強い気配を感じたのです。
野生の勘とでも言うのでしょうか、彼なりに “この強い気配とは一戦交えなくてはいけない”と心に決め、他の人(グラルドやシャイナ)を巻き込まないようにしようと一人で(一匹で)走っているのです。
まあ、加速魔法の使えないグラルドに抱えられているより自分で走っているほうが速いと思ったのもありますが……。
グラルドは遥か後ろのほう、完全に置いて行ってます。
しかし今は後のグラルドより前の強い気配の方が気になっているので振り返るつもりはありません。
と、そこへ一匹の小鬼が棍棒を振り上げながら襲い掛かってきました。
ゴスッ………
平原に鈍い音が響き渡りました。
さて、そのころ学園の実験室ではクラウィン先生から話を聞いたフォールナが二人の事を(ニャーのことは忘れてます)助けに行こうとしていました。
「先生やっぱり私も行きます! シャイナはともかくグラルドを行かせてしまった責任があります」
「そうね~……。グラルドさんはフォールナさんならここで話を大きくせずに済むと思ったからきっと一人で行ったと思うの~。ここは二人の帰りを信じて待ちましょう」
と、慌てるフォールナをなだめるようにクラウィン先生が言いました。
「でも、相手が翼竜だと少し危険ね~。あら? そういえばニャスベルクさんは?」
「あっ、確かグラルドに連れて行けって投げ渡したんでした」
「あら~、と言う事はニャスベルクさんと一緒なのね~。なら少し安心だわ~」
クラウィン先生は微笑みながらそう言いました。
「えっ? 先生それはどう言う意味ですか? 確かにグラルドやシャイナより魔法は上手ですけど……、あれは一応ネコですよ」
「ふふっ、ニャスベルクさんは一風変わった魔法を使いますから、私も少し信頼しているんですよ」
窓の外を見ながらクラウィン先生は独り言のように言いました。
次回予告
平原に降り立つ巨大な影。
翼をもつ竜に王族の少女は勝つことができるのか?
第三話 駆け抜けるは姫と猫
“わかってるさ! あのネコを連れて一刻も早く学園に戻る”




