第十話 光の矢と白銀の光
前回のあらすじ~
一度に全ての魔力を使い切ったシャイナ
その魔法を受けても倒れぬ魔王
何も出来ないグラルド
シャイナ「声をかけずらすぎるのじゃが……」
「魔王クルベス…、シャイナの魔法で死んだんじゃなかったのか!」
「ニャッ、ニャッ、ニャ~。確かに危うかった、こちらも魔力の大半を使わニャければ、今頃クロコゲにニャっていたところだニャ」
「おい、魔王。こういうシリアスな展開で悪いんだが、お前元々黒いだろう!」
「…………」
「…………」
ゴイン!
フォールナ&シャイナのグーパンチを思いっきり食らったグラルドでした。
「……いたい」
「まったく、こんな時によくそんな冗談が言えるわね! 言っとくけど、わたしもう魔力残ってないから……」
「うむむ。妾もさっきので全魔力を使ってしまったからのぅ」
そう言って二人はチラッとグラルドを見ました。
もちろんグラルドも、あとは自分がどうにかしないといけないということもわかっていました。
「とうとう俺の出番か! まあ安心して見ているといい」
自信満々で振り返ると…
「終わったわね……」
「やはり魔王は倒せぬのか……」
と、がっくりと肩を落としている二人がいました。
「オイ! やる前からその反応はないだろう!」
「ニャハハ、どうやらこの戦いは吾輩の勝ちで幕を閉じるようだニャ」
勝ち誇る魔王、負けを覚悟している少女二人、そしてそれに抗おうとしている青年……。
確かにそれは、青年が勇者のように見えるのだが、それは物語の中の話ならでは。
今のこの状況はどう見ても…
「お~ま~え~ら~!」
完全に期待されていない青年の暴走が始まる一歩前といった状況でした。
「あったまきた! 魔王クルベス、食らうがいい!」
力任せにグラルドは杖を振り上げスペリングを唱え始めました。
その周りには、先ほどのシャイナほどではありませんが、ゆらりと陽炎が立ち上っていました。
「ほぅ、妾の時のように魔力で空間が歪んでおる。」
「少しは期待できそうね。……威力だけなら。」
フォールナはグラルドの魔力コントロールが少し心配なようです。
「風よ 杖に集いて 敵を射れ! ウィルアロー!」
通常のウィルアローなら腕くらいの風の矢が現れるのですが…
「大きい! あれがウィルアローなの!」
「うむ。あのときの妾の魔法に似ておるのぅ。」
グラルドに作り出された矢は、二メートルを超える光の矢でした。
「…よし。やあぁぁぁ!」
威勢の良い声とともに振り上げられた杖が振り下ろされました。
巨大な光の矢は杖にならって真っ直ぐに…
「いやぁー! どこ狙ってるのグラルド!」
真っ直ぐ真逆に飛んでいきました。
それを後ろから見ていたフォールナは見事にウィルアローの的になったのです。
フォールナもフォールナで、最悪逆に飛ぶんじゃないの、と思っていたのでぎりぎりのところでかわすことが出来ました。
まあ、服の肩布が破れていますが、体には当たっていないので無事なようです。
「グラルド! これお気に入りだったのに、なんてことしてくれるのよ!」
「おかしいな、シャイナはうまくいったのに……」
「だから言ったじゃろう。妾の方が僅差で魔力が高いと!」
そんなやりとりをしていると…
「ニャ。やはりそんな程度か。所詮は床や壁や天井に穴をあける程度の魔道士だったということだニャ」
…とプライベートな話題を持ち出して魔王クルベスが嘲り笑ってました。
「なっ、なんでしってるるるんだ~!」
「だからあれは、ニャスベルク…」
「吾輩は魔王、故にニャんでも知っているぞ、ニャハハ」
そう言われて慌てだしたのはシャイナです。
「なななんじゃと! ではお主、妾の入学当初の事件を知っておるのか!」
「ニャハハ、もちろん。意気揚々とゴブリン退治に行き、愚かにもワイバーンに追いかけられて、半泣きにニャった事件だニャ」
「ダダ誰が半泣きになったのじゃ!」
顔を真っ赤にして叫んでいる時点で隠しきれていないのだが…、そこはスルーで。
「なんでその事まで……、もしかして、あの魔王は…」
「なんじゃ?」
「いつも俺たちの近くにいるのかもしれない!」
「なんじゃとーーー!」
二人が勝手な解を導いているのをみて、フォールナは頭を抱えました。
「なんで気が付かないの。それともわざと? わざとならほっておくんだけど…」
しかたない、とフォールナは魔王に問いかけました。
「魔王クルベス、こんなに本気で相手をしてくるなんて、あの時投げられた恨みでしょ!」
「その通りだニャ! あれは結構痛かったんだニャ! 許さんニャ~!」
ふう、とため息をついて、これならさすがに…、と二人を見ました。
「投げられただと。まさかお前……」
「魔王クルベスの正体がわかったのか!」
「ニャー・ニャスベルク…」
やっとわかったようね、と言おうとしたフォールナの…
「の影に乗り移ってたな! そうだ、そうに違いない!」
幻想は一瞬にして打ち砕かれました。
今度という今度はフォールナが前のめりに転びました。
「なるほどじゃ。ならばあの大きさもわかる。影はどこまでも大きくなるからのぅ」
二人がその答えにうなずくのと、魔王クルベスの(汗)マークが止まるのと、フォールナが立ち上がるのとはほぼ同時でした。
「もういいわ。あきらめた……。よかったわね、魔王クルベス、はぁ」
「まったくだニャ。ニャかニャか緊張する一瞬だったニャ」
なんだか和んでいますが、一応戦闘中です。
「そうだったニャ。さて、そちらはもう打つ手なしとみるニャ~」
魔王クルベスがニタリと笑いました。
「くっ、どうする。もう一度、俺の魔法で…」
「やめてグラルド! これ以上ややこしい戦況にしないで!」
「だが、どうするのじゃ。このままでは…」
そんな事をやっている間に魔王クルベスの魔力がたまりきったようです。
「覚悟するニャ! これで、ジ・エンドってやつニャ!」
高められた魔力が解放されようとしたとき、月の祭壇が眩い銀色の光が放ち始めました。
「なんだニャ、この光は?」
そう言った直後から魔王クルベスの体に異変が起こり始めました。
いままで影のように漆黒だった体が、銀色の光にあたるとだんだん薄くなり始めました。
「ニャ! ニャんだこの光は! ニギャー…、体が消える~……」
魔王クルベスの体が銀色の光に包まれると、まるでその光に溶けるようにすぅっと消えていきました。
「あ、あれ? なんで魔王が消えたんだ?」
「ふむ。この光が原因じゃろうが…、妾には何ともないぞ」
「これは、白銀のメダリオンの光ね。でもなんで魔王クルベスは……あっ!」
フォールナは手をポンとたたくと、なるほどなるほど、と頷きました。
「ふむ? なんじゃフォールナ、お主何か分かったのか?」
「まあ、見てもらえればわかるわね。グラルド、何でもいいから魔法を使ってみて」
「? なんで?」
「いいから!」
グラルドは頭をひねりながらスペリングを始めました。いつものように杖を振り下ろすと爆発が……起こりません。
「あれ? なんで、なんで魔法が発動しないんだ?」
「なんじゃグラルド、お主とうとう発動すらしなくなったのか?」
「いや違うって、なんか、魔力が杖に集中しないんだ」
何度か杖を振ってみても魔法が発動する気配がありません。
「どう、分かった? これがこの銀色の光の力よ。たぶんだけど魔法を消し去る力があるのよ」
「なるほど、だいたいわかった。でも、なんで魔王の体が消えたんだ?」
「影じゃからか?」
「影じゃないわよ。あれは何かを媒体にして魔力で作られていたガーディアンよ」
「何かを媒体って、なんだ?」
「……ニャスベルクよ」
「なんじゃと! ニャスベルクが媒体じゃったのか!」
「でもあれだけの攻撃をしてきたからなぁ。やっぱり何かに操られていたんじゃないのか?」
「そうかもしれぬのぅ」
そういって二人が納得しているので、突っ込むのはやめようとフォールナは額に手を当てました。
「まあいいわ。さあ白銀のメダリオンを手に入れて学園に戻るわよ!」
「そうだな。暗くなってきたし、急ぐとしようか」
「そうじゃな。では行くとしようかのぅ。」
そういって三人は月の祭壇を登って行きました。
次回予告
白銀のメダリオンを手に入れることが出来た三人
同じころまったく知らないところで不吉な影が動き出す
「第十一話 闇にうごめく者たち」
“どうやらミノタウロスが倒されたようです”