魔法に関わり続けました
魔術の詠唱ってやっぱり恥ずかしいものですね。
筋肉痛
トレーニングには付き物とされている筋肉痛。
筋肉痛になる理由は幾つかあるが、私は「筋肉が回復しているときに出る痛み」として認識している。
そして、筋肉の回復は筋肉の質を高めるものでもある。
詳しくすると、傷つくことによって回復するとき、筋肉の繊維同士がより強く結びつくのだ。
そして、筋肉痛はその体に対して弱い運動であれば比較的早く出て、強い運動では遅く出るらしい。
「気高き強固な地の意思よ その身を現世に映し出せ」
小石が私の手元から足元に落ちて転がった。
「はい、地属性魔法も問題ありませんね。それではこれで編入試験を終わります。結果は合格ですので授業は明日から受けてください。では、これから寮に案内しますね」
「わかりました。よろしくお願いします」
編入試験の特別試験が終わったけど、……体が非常にだるい。
馬車や船やを乗り継いで五日間。
衝撃吸収装置とかまだまだ開発されていない乗り物と、整備されていない道のコラボレーションとか……あれはかなり体に負担をかける。
馬車でも船でも揺れが酷く、ミスリルを調べられる環境じゃなかった。
衝撃吸収装置や素材は私が開発してやろう!と本気で考えたけど、作るのなら自分だけの馬車を持った時に作って載せるだけになると思う。
この技術も悪用される可能性は十分にあるしね。
技術発展は私がやらなくてもいつか良くなっていくと思うし、万能な魔法あるし。
とか考えてたら寮と思われる建物まで来た。
見た目はアースの一昔前の校舎みたいだ。
木造で結構雰囲気がいい。
そして、私の部屋に案内されると、本来二つあるはずのベットが一つしかなかった。
考えてみれば当たり前で、こんな時期に入学してくる人なんてそうそういないし、奇数人数部屋を作ったりして、生徒に余りが出ないように振り分けされているのだろう。
そして私が入学してきたから私が余ったと。
貴族だからだとかそんな理由じゃないことを祈るばかりだ。
「ここがエリックさんの部屋になります。明日、あなたを受け持つ先生が迎えに来ますから」
「そうですか、案内ありがとうございます」
「では、ヘルムート学園で頑張ってくださいね」
笑顔を浮かべながら案内の人が帰っていく。
部屋は二人用に作られていたのだろうけど、自分の部屋と比べて同じくらいだ。
まぁ本当は比べちゃいけないんだろうけど……。
階層は一階で、楽だと思ったんだけど、一番端なので結構遠い。
正規の道で学校まで歩いて行くのはすこしばかり面倒そうだ。
まぁ何はともあれ、今日はこの疲れた体を布団で癒すとしましょうか。
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次の日、だろう多分。
ガラスなんてこの世界では高級品であり、一般の寮になんてついてはおらず、したがって窓はない。
そんな訳で朝日なんて部屋に通るわけない。
が、体に覚え込ませた起床時間になるとエリックは目を覚ました。
しかし、目を覚ました時、エリックは体の異変に陥っていた。
(体が全く動かせない……金縛り!?)
体は全く言うことを聞かず、寝返りや指の先さえも動かすことができない。
金縛り。それは俗に言う脳が目覚めて体が目覚めていない状態である。
(これ絶対まずいよね)
私がここにいることはまだ先生ぐらいしか知らない。
したがって盗難の可能性はかなり少ない。
だけどやっぱり不安なわけでして。ええ。
移動中、私自身澄ました顔をして内心どんだけ焦っていたか。
そもそも澄ました顔ができていたのか。
……駄目だ、思考が空回りしてる。
とその時、私にとって今一番、聞きたくない扉が開く嫌な音が響いてきた。
(ノックなしですか!)
よし、ツッコミのキレは悪くはない。少しは冷静になったか。
というか、鍵は?かけ忘れてた?というか私は部屋の鍵の確認をしたか?
疲れはててさっさと寝て、部屋をあまり見ることなく昨日終了した気がする。
と言うか絶対そうだコレ。
これからどうする?体全く動かせないからか、私に気づくこともなく、私からも侵入者が見えないからすっごく不安だ。
えーと!
「どちら様ですか!」
おお、声出せた。金縛りが解けてきたかな?
というかどちら様って……。
侵入者に対して丁寧語ですか。
とかそんなこと考えてたら人の気配がない。
逃げたかな?まぁびっくりするよね。当たり前か。
ということで当面の危機が去った中、この動かない体をどうするか。
というかちょっと待て、扉開きっぱなしとかそんなそんなこと……あるよね?
体よ動け!――――痛い!!
え?痛い?まって、コレ金縛りじゃなくて……
筋肉痛?
えーと、確かに五日間ガタガタと体を揺らされてたけどそれだけで筋肉痛ですか?
しかも五日間の後半に筋肉痛が出なかったと言うことは、筋肉痛が出るまでに時間がかかったということ。
移動だけでここまでの筋肉痛が来るということは、筋肉はかなり老化しているということ。
……いやいや、老化はないでしょ。せめて通常より筋力が低いとか弱いとかにしようよ。
でも考えてみたら当たり前。
市場に何度かアレンくんに会いに行ったぐらいで、体を動かすことなんてほとんどやっていない。
ほぼ完璧なる自宅警備員。
……確かに今日が何日だとかお金の価値観とか全くわからない!
ミスリルだって本当はどんだけ高いのかなんてわからないし!
これはガチだ、ガチの引きこもりだ。
いろんな意味で本格的にまずくないか?
こんなので学校での寮生活やっていけるのかすっごく不安だ!!
……時間が解決してくれることを祈ろう。真摯に願おう。
うん、でこの動かない体は結局どうすればいいのだろうか。
………魔術があるじゃないですか。
「天から命ぜられし聖の意思よ 清らかなる大地に満ちるその力 盾となりて蝕む悪しき者から守護し 羽衣になりて抱擁せよ」
ふぅ、なんで治癒魔法になると初級魔法で四小節もあるのやら。
口を動かすのも億劫だったというのに。今はもう大丈夫そうだけど。
まぁ初級魔法だからか体の節々はまだ少し痛いが起き上がれないほどじゃない。
とりあえず、扉を閉めてから顔でも洗おうかと考えていたら――――五歳まで家庭教師をしてもらっていたユアンさんがそこにいた。
別視点の話を書いた時、その時間帯に合わせるため、割り込みをしてみようかと考えています。