騎士の卵はやっぱり未熟
私ことエリック・シルフィールドは、霞がかる貴重な経験をもって、ただいま宿への帰還中であります。
……少々野宿を舐めてました。
クランさんを真似て木を組んだ簡易ベッドは、比べるまでもなく寝心地悪く。
あの人との追いかけっこの代償が、鉛を仕込んだかのような身体の重さ。
枝木を組んで火種を出して暖を取ろうとしたが、その陽は寝るには寂しく。
ならばと新たに燃料を投下すれば、好きなはずのその香りは、何を間違えたか異臭と煙に変わり主張する。
ならばならばと変わる環境その果てに、疲れきった子供が一人、睡魔に押されて目を閉じた。
石壁の景観は無機質で、吸い込まれるような暗闇が唯一の救いだろうか。
……。
至福だったのはお風呂の時だけですよ、えぇ、夜朝二回。
まるで暗闇が控えているかのような満面の星粒。
その黒を曙が灰色に溶かし、朱に変える太陽の日の出。
どちらも雲が二回りもするかというくらい、長湯させてもらいました。
もうこのまま眠りたいと思えば、夢のようにここ最近の思い出が何度思考に巡ったことか……。
俗にいうこっくりさん状態ですよ。
治癒魔法先生、ほんと頼りになります。
と、まぁそういうことで。
宿屋の前に到着です。
……いやぁ、自分がまいた種とはいえ、すっごく入りにくいなぁ。
幹の太っとい緑の蔓が宿屋に絡まっているイメージですよ。
さらに私フィルターで、ものすごい勢いで成長しちゃう悪魔の蔓が邪気だしてるような、そんな感じにパワーアップ。
アリシアさん、諦めてくれたかなぁ。
いやいや、キャロラインさんが乗っかって来る可能性のほうが高いと結論出したでしょうに。
躊躇しても仕方ないと、分かっているのがモドカシイ。
仕方がないので……覚悟決めてさっさと入ってしまおう。
「おはようござーいまーす……」
「あぁ、エリック君……おはよう」
……。
…………あれぇ?
一階で佇んでいる、キャロラインさんの反応の薄さはどういうことだろう?
いやね、自分で言うのも何なんだけどさ、心配されて当たり前だと思うのですよ。
子供で、年齢は一応八歳だし?
魔法が使えるとはいえ、野宿してきたんですし?
特に、お風呂の件もありますし?
夜眠れぬほど心配されてて飛びつかれるとか、お風呂の件に関して追求されるとか、
野宿強行からの説教が飛んでくるとか、そういう妄想からの結論の対応は考えてきたんですけどねぇ。
うーん、この反応はちょっと予想外……。
しかしよく見てみると、キャロラインさん、ちょっと気分悪そう。
お酒引っ掛けての二日酔い? うん、それもじゅ〜ぶんありうる。
帰り道、魔物が出る可能性が低いとはいえ無いと断言できないのに、チームリーダーがそれでいいのだろうか。
……駄目でしょうね。
「あ〜、治癒魔法掛けます?」
「……うん。お願い」
はい、お願いされました。
「んくっ……ふぅ……大分楽になったわ、ありがとう」
お水と治癒魔法のダブル処方!
治癒魔法って二日酔いにも一応効くんだ……特効薬とはいかないっぽいけど。
しっかし、水は一番の万能薬だと思うよ。うん、ほんとに。
……お酒も薬に例えられるけどさ、頭痛の種になるものが本当に薬になるのか怪しいものだよ。
「気分悪いとこすみませんが、外泊によるお咎めとか無しですか?」
「お咎め? エリックくんに? まっさかぁ〜。
こっちに非があるのにそんなこと……いや、行動は褒められたものじゃないけどね。
でも、そこまで心配はしなかったわよ? 天才児君」
うぅむ、天才児呼ばわりはされたくないけれども、こっちの立場が悪いのは変わりないので訂正は無理だね。
「連絡もくれたしね。それがあったから捜索じゃなく、アリシアのお仕置きに力を入れることが出来たんだけど」
「……どうなりました?」
「驚くんじゃなくて、結果を聞きに来るなんて慣れてきたわね。いまもお仕置き中よ」
人間、慣れが肝心なのです。
しかし、アリシアさんは放置プレイ中ですか。……今も?
「一晩中です?」
「一晩ずっとよ」
うわぁ……。
「お疲れ様です」
「ん、どうも。といっても私はその横で寝てたけどね」
……サディスト発言どうも。
「クラリィさんとクランさんはどうしてますか?」
「まだ寝ているんじゃない? 心配しなくても予定は変えないわよ〜。……ちょっと遅くなるかもだけど」
クランさんは飲みに行ったのだから遅くなるのは分からないでもないけど、
クラリィさんは何故だろう。
気にかける程の事じゃないかも。
まぁ、そんなこんなで。
日は高く大地を照らし、人によっては小腹が空いてくる時間にようやく、クランさんとクラリィさんが降りてきた。
お二人もけっこうなグダグダっぷりである。
一人はちょっぴりお酒臭く、もう一人はお疲れ気味のやつれ気味。
……本当に今日出発できるのだろうか。
いくら馬車であるとはいえ、流石にこのだらけっぷりはおかしい。
アリシアさんだって、キャロラインさんの言葉が正しければ今だってお仕置きを受けている最中なのだ。
治癒魔法があるとはいえ、精神的に疲れ果てているだろうから、
魔法メインとなるアリシアさんが戦力になるかは微妙だ。
これじゃまるで、こちらから行動を起こそうという気が全く無いような。
……しっくりくる。
いくら危険が少ないからといって、キャロラインさんが今この状態で、魔物が出現する帰還道を強行するとはとても思えない。
考えてみれば、出発前日に飲みに行くのも結構おかしな話だ。
冒険者や荒くれ者ならともかく、騎士の卵であるなら尚更だ。
せめて一日は開ける必要があるだろう、酔い覚ましのような、今日のような日のために。
つまり、答えは――
「おーいお前ら、来たぞー」
慣れたようなブーニング先生と、その他少々疲れの見える生徒さんが宿の入口に。
――外部集団の力添え有り。
学校の生徒を見た限り、これも上級生が受ける授業の一環ということなのだろう。
徒歩でここまで繰り出してくるのなら、一日を明かすぐらいの時間はかかる。
つまり、昨日のうちに学校側へ連絡した事になるんだけど……。
「……ん? へぇ〜気づいちゃったか。 ふふ、どうやったかは秘密だよ」
目は口ほどに物を言う。
キャロラインさんに目線を合わせたら、そんなことを言われましたよ。
時間がかかったものの、馬車を引き連れたその集団は、
特に何事にも見舞われることなく、無事に学校までたどり着きましたとさ。
はぁ、終わらせてやったぜ!
今回も妄想なし。もしかし付け足し。
自分でもちょい思う所ありなのですが、まぁ今回はこれで。
だいぶ小説制作に時間が取れそうになってきたので、これから頑張っていきます。
さてはて、どのような書き方に変わってしまったのか、自分でも少し楽しみでございます。
それではまた次話で。
本当に二ヶ月も待っていただき、ありがとうございました。